第六章 魔導都市国家ハン・トール
第43話 新たなる敵キリサメ
「チェック」
朝陽は馬の形をした駒を動かして、盤上の王を追いつめていた。
「ぐぬぬ……」
ポアロンは首を捻って考えている。この状況で動かせる駒は1つしかない。だが、それを動かせば必敗。その場しのぎにすらならない一手なのだ。
ここまでポアロンを追いつめた朝陽。相手は強大な相手。ミスの可能性はほぼあり得ない。ここで試合を引き延ばしては無礼になるというもの。ポアロンは羽を使って自らの王の駒を倒した。
「
「ふう……対戦ありがとうございました」
「こちらこそお相手頂きありがとうございました」
朝陽の世界で生まれたチェスという競技。盤上の駒を動かして、相手の王を取るゲームだ。朝陽は元々ゲームが得意な方で、このチェスとて例外ではない。
「うぅ……それにしても悔しいです。本気で戦ったのに、創造神様に負けるなんて。これでは、創造神様の
自らを頭脳タイプを称しているポアロン。その頭脳には絶対の自信があっただけに、その悔しさは
「うーん。でも、中々に紙一重の戦いだったな。もう1回やったら、俺が勝てるかどうかはわからない。3手前のここ。ポアロンがこのビショップをここに動かしていたら、勝負はどうなるかわからなかったな」
「ああ。その手がありましたか。なるほど。流石創造神様です」
朝陽とポアロンが感想戦で盛り上がっている中、マーヤが間に入ってきた。
「ねえねえ。私もやりたい! やりたい!」
駄々っ子のようにねだりだしたマーヤ。朝陽とポアロンが遊んでいるのを見て、自分もやりたいと思ったのだ。
「いや、原始人並の知能の貴様には無理だ。大人しく将棋倒しでもするんだな」
ポアロンがマーヤを無慈悲にも突っぱねる。それに対して、マーヤは頬を膨らませて拗ねてしまった。
「ぶー。ポアロン様のバーカ」
「なんだと! わたくしの知能はカラスの50倍以上だぞ! 貴様ら並の人間が到底太刀打ちできる領域ではないわ! わたくしを打ち負かせるほどの頭脳を持つのは創造神様くらいだぞ!」
「私もう人間じゃないもーん。神だもーん」
低次元の争いを繰り広げている彼女たちを見て、朝陽は渇いた笑いを浮かべるのであった。
「とりあえず、マーヤもチェスのルールくらいは覚えておいた方がいいと思う。俺らには勝てないにしても、ヒルトやヴォルフには勝てるだろ。多分」
「おー。いいね! パパ。ヒルト様もヴォルフさんも今度帰ってきたらメッタメタにしてあげよう」
マーヤが特に恨みもないヒルトとヴォルフを頭脳で殴れることを目標にがんばることになった。
「とりあえず駒の初期配置とルールを教えよう」
朝陽が盤上に駒を並べていっている最中、急にテレパシーが届いた。
「創造神様。創造神様。聞こえますか?」
聞いたことのない女性の声が直接脳内に響き渡る。
「ああ。聞こえる」
「良かった。私は聖女。トリシャ。こうして、創造神様に語り掛けるのは初めてですね」
「トリシャか。俺は創造神ライズだ。よろしく頼む」
「はい。よろしくお願いします。創造神様。ご報告があります。我が国、ハン・トールに敵が侵略してきました」
「なに……まさか破壊神の軍勢か?」
「それはわかりません。ただ、敵国リョウガの国の元首がとんでもなく強いという報告が上がって来てます。魔法を扱える我が国の精鋭たちが退けられたほどです」
「なるほど……」
リョウガの元首。それがゴーンのように自力で魔法を編み出した天才か、それとも
「ポアロン。聞こえたか?」
「ええ。わたくしもテレパシーを受け取りました。これは、調査をする必要がありそうですね」
セイントパーク内で、ただ暇を持て余していた神々たち。だが、有事の際はきちんと下界に降りて民を導かなければならない。
「ポアロン。マーヤ。準備が出来たら教えてくれ。セイントパークに向かうぞ」
「「はい!」」
神界の神々は簡単に身支度を整えて、
◇
リョウガの国。そこの元首キリサメは、自身の城にてご馳走を自身の腹に収めていた。領民から税を巻き上げて得た利益。正に私腹を肥やしている最中なのだ。
ギットギトでボッサボサの長髪を束ねたチョンマゲ。二重顎、三段腹の醜く太ったボディ。朝陽がかつて住んでいた現代日本の美的感覚で言えばブ男と評されるほどの外見である。
だが、このリョウガの国では違った。
「キリサメ様ぁ……」
頬を赤らめた生娘が自身の着物をはだけさせて、キリサメを誘惑している。艶っぽい吐息がキリサメの劣情を刺激する。キリサメは彼女の腰回りを撫でて、自身のどす黒い欲望を満たしていた。彼女は無理矢理やらされているのではない。自ら望んでキリサメと
このリョウガの国では太っているほどモテるのである。つまり、現代日本の感覚では痩せた方がいいと評されるキリサメでも、このリョウガの国ではハーレムを築けるほどの容姿なのだ。
キリサメの背後にスタっと細身の男性が現れた。男性は黒装束を身にまとっていて、目がキリっとしている。現代日本の感覚で言えば美形として持て囃されていたほどの容姿だ。
「なにこいつ」
キリサメとの情事を邪魔された生娘は黒装束の男性を思いきり睨みつけた。男性はそんな視線を受けるのは最早慣れたという感じで、意にも介さない。
「キリサメ様。お楽しみ中のところ申し訳ありませんご報告がありますがよろしいでしょうか?」
「構わん。申せ」
キリサメは生娘を撫でるのをやめた。緩みきった頬から一転、真剣な表情へと変貌する。
「狐の国から天の柱が伸びているのを確認しました」
「ふむ。なるほど。ずるがしこい狐共の間に伝わる伝承は本当のようじゃなあ」
キリサメは自身のヒゲを指で撫でる。
狐の国とはハン・トールのことである。リョウガの国では敵国を獣に例えて表現するのだ。ハン・トールは神の威を借り、次々と勢力を伸ばしている狐と評している。
「どうしますか? キリサメ様」
「創造神だかなんだか知らんが、そんなやつらにこのワシが負けるわけなかろうて。なにせワシは創造神と対になる存在。破壊神様から力を得ているのじゃからな。デュフフフフ」
「では、今のところは特に対応しなくても問題ないと」
「うむ。そうだな。どっしりと構えておけばええて。まあ、お主のようなひょろっちい体じゃどっしり構えても風で吹き飛ばされそうじゃがな。デュフフフフ」
「はい。では、各位にそう伝え申します。それでは、失敬」
黒装束の男性はスッと消えた。そして、完全に去ったことを確認した後にキリサメは再び生娘の腰を撫でまわす。
「デュフフ。ここがええのんか? ここがええのんか?」
2人の熱い夜はまだ始まったばかりだ。
一方で、先程の黒装束の男性は、格子状の牢に捉えられている青年の前に来ていた。
「ガルド様。ご報告があります」
牢に囚われていたは破壊神の配下である霧の神ガルドであった。
「皆まで言わなくてもわかってるよ。あのバカ殿のことだ。どうせ、創造神が来ても手を打つつもりはない。そうだろ?」
「なぜそれを……」
「ふふ、実は会話が聞こえていてね。僕は昔から耳には自信があるのさ」
ガルドは囚われている状況でも明るく笑い飛ばした。
「ガルド様。私は今からでも何かしらの手を打つべきだと思います」
「ああ。僕もそう思う。けれど、表立って行動すればあのバカに目を付けられて処される。だろ?」
まるで黒装束の男性の心を読み切っているかのようなガルド。
「僕に考えがある。波風立てずに手を打つ方法なんていくらでもあるさ」
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