第42話 年月は流れて
朝陽とポアロンとハン・トールの君主はヤマの集落に訪れた。一方のマーヤとサエカは、ハン・トールの国に待機している。
「な、貴様たちは……」
ヤマの酋長は朝陽たちを見てわなわなと震えている。
「2度とヤマの集落を訪れるなと言ったはずだ!」
酋長が朝陽を指さして非難をした。朝陽はマーヤを引き取る際に、霊峰ミヤマのモンスターを倒して、且つヤマの集落に2度と足を踏み入れない約束をしたのだ。
「おいおい。他者を指さすもんじゃないぞ酋長さん」
朝陽の軽口に対しても、酋長はすっかり怯え切っている。霊峰ミヤマのモンスターをアッサリ倒して来た朝陽の実力を認めている。それ故に力を持たないヤマの集落の民では太刀打ちできないことも察してしまう。
「な、何しに来たんだ。目的はなんだ!? 水か? 食料か? 女か?」
「物分かりのいいハゲだな。そうだ。今挙げたものを全て寄こせ」
ポアロンが羽をバサバサとばさつかせながら無慈悲に言い放つ。圧倒的強者による要求。自らの命が大切ならば呑まざるを得ない。
「ぐ、ぐぬぬ……」
「ポアロン殿。そのような物言いはどうかと思います」
ハン・トールの君主がポアロンを
「我々は破壊神の侵攻に備えて、協力していかなければならない立場。ここで無駄な争いを起こすのはどうかと思います」
「ふむ。それもそうだな。良いか? ハゲ。このわたくしのクチバシが大人しいうちにさっさと全面降伏するんだな」
「お前わかってないだろ」
ポアロンの尊大な態度に朝陽は思わずツッコミを入れる。
「破壊神? なんのことだ?」
「まあ、1から説明するのも面倒なので簡素に説明する。この世界を破壊しようとしている勢力がいる。それが破壊神ジオだ。そいつらは、ハッキリ言って強い。なんてたって奴らも神だ。つまり、俺らと同じくらいの実力を有するということだ」
「んな! 貴様らと同じくらいの実力を持つ軍勢がいるのか!」
ヤマの酋長の顔は青ざめている。ただでさえ朝陽たちを敵視しているのに、それと同じくらいの実力の敵がまだいるというのだ。
「そこでだ。破壊神が攻めてきてもいいように神に対抗できるだけの国を建国したい。神も強力ではあるが、人間が束になってかかれば、十分撃退できるはずだ。そのためにはハンの集落にある資源だけでは足りない。だから、ヤマの領域も使わせてほしい。資源を分散させていたら強い国は作れない。資源を一極化させて強国を作りたいんだ」
朝陽は状況を説明した。強い国を創るには、それだけ多くの資源が必要だ。だから、資源が豊富なヤマの集落が必要なのだ。
「それでワシらになんのメリットがあると言うのだ」
「メリット? 貴様! そんなこと言える立場か? まあ、しいて言うならわたくしたちの
「それってつまり拒否権は」
「ない」
ポアロンの脅しに屈したのかヤマの酋長は膝から崩れ落ちた。
「なんて奴らだ……だが、協力しないともっと危険な存在である破壊神とやらに侵攻される……ワシはどうすればいいんだ」
ヤマの酋長は頭を抱えてしまっている。今まで自分が神の使いだとして傍若無人にふるまって来た酋長。重要な決断を迫られるのは弱いようである。
「伯父さん!」
1人の青年が急に会話に入ってきた。
「キミは?」
「僕は酋長の甥です」
朝陽の問いに酋長の甥は自らの立場を明かした。
「伯父さんはもう下がっててください。もう現役を退く歳ですよ」
「な、なにを~!」
甥の発言にムキになる伯父。
「みなさま。お願いがあります。ヤマの集落のみんなには僕から説得します。だから、僕たちにも魔法を教えてください」
酋長の甥は頭を深々と下げた。
「んな! 貴様! あのような奇術を扱いたいなどと血迷ったか!」
「伯父さんは黙ってて!」
「あ、はい」
「霊峰ミヤマに棲まうモンスター。それを倒したあなた方の強さは本物です。当時の僕はまだ子供でしたが、あなた方の強さに感動した覚えがあります」
神界とセイントパークでは時の流れが違うから忘れがちではあるが、神界戦争の期間を経てかなりの時間が経っていたのだ。子供が大人になるほどの時間が。
「僕たちもあなた方のように強くなりたい。だからお願いします。僕たちにも魔法を教えてください」
「元よりそのつもりだ」
そう言うのはポアロン。その言葉を受けて、酋長の甥の顔は明るくなった。
「それじゃあ」
「ああ。破壊神の軍勢と戦うには魔法を使える多くの戦士が必要だ。当然、ヤマの集落の人員にも戦ってもらうぞ」
「はい。ありがとうございます!」
こうして、ハン・トールの国にヤマの集落が吸収された。ヤマの集落はこれからの歴史から姿を消し、ハン・トールの一部として機能していくようになるのだ。
その後も、朝陽たちは他の集落を吸収していきハン・トールの国を大きくしていった。
「創造神様。ポアロン様。マーヤ様。色々とありがとうございました」
ハン・トールの君主は頭を下げた。
「おいおい。いくら相手が神だからと言って、王たる者がそう簡単に頭を下げるものではないぞ」
朝陽の指摘に君主は慌てて頭を上げた。
「そ、そうですね。こんなペコペコしているところを見られたら、威厳もなにもあったものじゃないですからね」
「原始人よ。貴様らは創造神様の手助けがあったとは言え、建国という歴史を動かすような快挙を成し遂げた。そのことを誇りに思うがいい」
「はい。ありがとうございます」
「また、なにかあったら聖女を通して神界に連絡をして欲しい」
朝陽はあえてサエカではなく、聖女という言い方をした。創造神と交信できる能力を持つ女性。聖女。現在はサエカがその任を担っているが、サエカも人間である。いつまでも生きているわけではない。サエカが息絶えれば別の聖女が誕生して、その役割を担うようになるのだ。
そう、朝陽はこの時、これが彼らと永遠の別れになることを察していたのだ。無限の寿命を持つ神と有限の時を生きる人間。いつかは別れが来る。
「それじゃあ、俺たちはそろそろ神界に戻る。じゃあな王様! 良い国を作れよ!」
「はい。創造神様もお元気で」
天から光の柱が伸びて来る。朝陽とポアロンとマーヤはその中に入り、遥か天高く上昇していく。
◇
神界へと戻った朝陽たち一行。朝陽とポアロンとマーヤはそれぞれ疲れを癒すために休息を取ることにした。
大浴場で1人湯船に浸かる朝陽。ほんの少しの寂しさを覚えてため息をつく。現状、神界にいる男性は朝陽1人だけである。以前はヒルトと一緒に風呂に入っていたのだが、現在彼は修行の旅に出ている。
普通の家庭用の風呂なら1人で入る前提なので全く気にはならない。だが、複数人で入る前提の大浴場だとなんだか物悲しく感じてしまうのだ。
一方で、女湯の方はマーヤとポアロンが一緒に入っていて賑やかにやっている。
「うー……目がしみる」
「アホか小娘。シャンプーする時くらい目を瞑らないか」
水浴びをすることはあっても、石鹸で体を洗う習慣がなかった原始人のマーヤ。神界戦争の修業期間中も風呂に入ってはいたが、その時はポアロンはセイントパークにいたのだ。同性がいない状況下では、体の洗い方を誰にも教わる機会がなかった。なので、このような惨状になっているのだ。
「全く。原始人の女は石鹸を使う習慣がないのか。野蛮人め。貴様が体を洗わずに湯船に浸かろうとした時は焦ったものだ」
ポアロンは今までマーヤがロクに体を洗わずに湯船に浸かっていたことに戦慄している。比較的綺麗好きなポアロンからしたら信じられない行動である。
「えへへ。でもポアロン様がいて良かった。パパも好きだけれど、やっぱり同性同士じゃないと相談できないこともあるから」
「まあな。
ポアロンは誇らしげに鳩胸を張る。
「でも、鳥さんじゃなくて人間の女の人が良かったかも」
「やかましいわ! それはわたくしが1番思っていることだ! わたくしだって好きで鳥型に生まれてきたわけではないわ!」
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