第41話 これからの方針
ハンの集落の酋長と聖女サエカ、創造神である朝陽とそれを補佐するポアロンとマーヤ。その計5名が揃って会議をすることになった。
「創造神ライズ様。一体なにが起きたのですか?」
酋長が朝陽に説明を求める。酋長としては訳も分からず集落を襲われそうになって、混乱しているといった状況だ。
「ガルドとエディが裏切った。あいつは破壊神とやらに魂を売り払い、俺たちの敵になったんだ」
「なんだって!」
ガルドとエディも共に神界戦争を戦った仲間だ。ガルドは直接戦争に参加こそしなかったが、マーヤを鍛え上げた功績がある。エディも神界戦争の前線に立って大きく勝利に貢献した。その彼らが裏切ったことを知った酋長は驚いている。
「破壊神の力を得たやつらはかなりの強敵だった。ガルドもエディも俺らが止めを刺す直前で忽然と姿を消した。やつらがどこに行ったのかは知らん。現在生きているのか死んでいるのかすらも不明だ。だが、想定は最悪な方がいい。やつらがまだ生きていて、戦いの傷が癒えていると仮定する。今後もこの集落……いや、ハンの集落だけじゃない。この世界が襲われる可能性があるんだ」
朝陽は状況を説明していく。ガルドもエディもかなり強い戦士たちだ。それらがパワーアップして敵になる。状況は最悪と言ってもいい。
「創造神様……我々はどうしたらいいのですか? 相手は神なんですよね? 我々では到底太刀打ちできない」
酋長の顔が青ざめている。朝陽たちは普段は神界にいて、このセイントパークには降り立ってこない。そのため、次に破壊神が攻めてきた時は自分たちの力だけで戦い抜かなければならない。酋長は、朝陽たち神の強さを嫌という程知っている。その朝陽たちと同格の神が相手となると絶望しかない。
「太刀打ちできないのなら太刀打ちできるくらい強くなればいいのだ。個人の力では神に打ち勝つことはできないだろう。だが。この集落が国として成長して力を付けて行けば神に匹敵する組織力を得ることができるかもしれない」
朝陽自身、無茶なことを言っている自覚はある。建国はそう簡単にできるようなものじゃない。国を形成するには、土地や民や君主が必要だ。土地はこの原始の時代の土地余りの状況ならいくらでも確保することができる。だから、ここに関する問題はないだろう。問題は民と指導者たる君主だ。まだ原始の時代ということで、人口を爆発に増やすだけのアテがない。医療技術が発達していないし、食糧事情も悪い状況だ。朝陽のいた現代日本に比べたらこの環境は劣悪すぎる。仮に多く産めたとしても人口を維持できずに多死になるのがオチだろう。
「しかし……どうやって国を創ればいいのですか」
酋長の言葉にポアロンが羽を広げて鳩胸を張った。
「国の創設の基本は、土地と人員の確保だ。人が暮らせるような食料と水が豊かな土地。それさえ確保すればいいのだ。ところが、そういった豊かな資源を持っていると必ず現れるのが侵略者だ。戦いを仕掛けてこられたら太刀打ちできるだけの防衛力が必要ということだな。まあ、ハンの集落の住民たちは、魔法が使えるからその辺の戦力の心配はない。そして、逆に考えれば他の集落の資源を奪えば、ハンの集落の発展に繋がることができる。手始めにヤマの集落を襲ってみてはどうか?」
ポアロンの言葉にマーヤが複雑な表情を浮かべた。一応、ヤマの集落はマーヤが育った環境なのだ。嫌な思い出が大多数を占めているとはいえ、マーヤにとっては家族と暮らした思い出がある場所でもあるのだ。
「折角ですが、ポアロン様。我々は侵略などしません。それでは、あのゴーンと同じになってしまう。他の集落が、我々を侵略しようと言うのであれば全力で戦いましょう。しかし、我々は他人の権利や命を侵害してまで力をつけたくないのです」
酋長の言葉、それはハンの集落の総意なのだ。ゴーンの一件があった後に、前の酋長が民と話し合って決めたこと。武力による支配は望んではいないことなのだ。その気になれば、この大陸全土を支配する力を得ることができる。だが、それをするつもりはないのだ。
「なんだと。そんな甘いことを言っていたら破壊神には勝てないぞ!」
ポアロンが酋長に対して憤慨をした。だが、朝陽がポアロンの前に手を出して静止した。ポアロンは朝陽の意を汲み取ってその場は黙ることにした。
「酋長の気持ちはよくわかった。仲間の命を大勢奪ったゴーン。やつと同じになりたくない。そういうことだろう。だが、考えてみて欲しい。もし、仮に酋長が他国を支配しなかったとして、それが平和に繋がるかと言ったら答えはノーだ。破壊神に対抗するだけの力がない集落は、破壊神に襲われたらそれだけで滅亡してしまうだろう。エディのいた雪山地帯。あそこのように……」
朝陽は息を呑んだ。相手を説得するには慎重に言葉を選ばなければならない。失言1つで相手の心を頑なに閉ざしてしまうこともある。
「俺はあの惨状を目の当たりにしてきた。あいつらはかつて仲間だった者を平気で殺したんだ。なんの罪もない仲間を……破壊神に負けた者は破滅の道を歩むことになるだろう。そう考えるとハンの集落に吸収されて魔法の力を得て、戦う力を身に付けた方が生き残る可能性があがるとは思わないか?」
朝陽の言葉に思うことがあったのか酋長は黙っている。するとサエカが突然口を出して来た。
「私はゴーンに故郷を滅ぼされました。だから、侵略してきたゴーンを今でも憎んでいます。だからこそ、他の集落に侵略しないこのハンの集落のやり方を気に入っているし、酋長さんのことも好きになったんです」
実際に侵略されて滅んだ集落の出身であるサエカ。その言葉の重みを一同は受け取った。サエカは更に言葉を続けようとする。
「けれど、今は状況が違うんです。みんなと協力し合って、他の集落と手を取り合って国を創り、破壊神に立ち向かうのが最良の手だと思うんです。でも、みんながすんなり手を貸してくれるとは思わない。そうなった時に、武力行使にでるのは仕方のないことだと思います」
本当はサエカも他の集落と争いをしたくないのだ。ハンの集落の民が創造神より賜った魔法を他の集落の民に隠しているのも、全て無用な争いを生まないためだ。他の集落の者が魔法を身に付けたら、間違いなく争いは激化する。世の中は平和を好む人間だけではなくて、好戦的な人物もいる。エディのように力を身に付けたことで変わる者もいる。
だから。魔法の力は極力世界に広めない方がいい。ハンの集落のみんながそう結論づけた。朝陽たちもそれは間違っているとは思ってないのだ。だが、状況が変わって1人でも多くの戦士が欲しい状態だ。多少、セイントパーク内で争いごとが起きようとも、そのリスクを背負ってでも破壊神に対抗する力を身に付けなければならない。
これは世界全体の問題である。全体の損失を抑えるために多少の痛みを受け入れなければならない時が来ているのだ。
「わかりました。我々だけで破壊神とその配下たちに対抗できるような国を創ってみせます」
ハンの酋長も覚悟を決めた。これから先は集落の長ではなく、国の君主を目指していかなければならない立場となった。
「国を創るなら名前が必要ですね。こういうのはどうでしょうか……ハンの集落と私の伴侶のサエカのトールの集落の名前を組み合わせて、ハン・トールという国名にするのは」
「別にその辺の名前は好きにすればいい」
ポアロンが空気を読まずにそう言い放つ。せっかくの命名を軽く流されるのは割とショックな出来事で、酋長は悲しい顔をしている。
「うぅ……ありがとうございます酋長様。私の亡き故郷の名前を入れてくれるなんて」
「キミの故郷は亡くしはしないさ。これから創り上げる国の一部となって生き続けるんだ」
2人のやりとりを見て、マーヤの目頭が熱くなっている。
「いいですね。酋長さん。私もその名前はいいと思います! サエカさんもこんなに思われて幸せですね」
「うん。ありがとうマーヤちゃん」
ハンの集落改めて、国家ハン・トールを目指すことになったハンの民たち。建国に向けて力を付ける運びとなった。
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