第39話 破壊の衝撃と朝陽の神器

 マーヤ、ポアロンとガルドが死闘を繰り広げている間、朝陽とエディもまた戦っていた。


 朝陽は戦略を考えた。ここは神界ではなく、セイントパーク内だ。神界では朝陽は無限の魔力を得ることができるが、ここでの魔力は有限。だから、効率的に使わなければならない。


 朝陽は既に1度神器を具現化して、それを破壊されている。もう1度神器を具現化することも可能だが、どれには膨大な魔力が必要となる。神器は強力である反面、それだけ魔力を食われるリスクがあるのだ、


 そのリスクを背負っている以上、神器を破壊されるというのは創造神側の神にとっては致命的に痛いことである。特に朝陽は創造の魔法が得意である。そのことから、朝陽は物体を破壊する破壊神サイドとは相性が悪いのだ。


「けひひ 創造の力 弱い 破壊の力 強い」


 エディが朝陽に見下した表情を向ける。朝陽はその挑発を軽く受け流して、作戦を考える。


「おい。エディ」


「ん?」


「確かに創造の力よりも破壊の力の方が強いかもな。なにかを創るのには永い永い年月が必要だ。俺はそれが分かる。このセイントパークにだって生き物が誕生するまでに何億年という月日が必要だった。でも、その生き物を殺すのは一瞬でできる。そりゃ、破壊の方がお手軽で強いな」


 朝陽の発言を受けて、エディがニタァと笑った。


「敗北宣言か だがもう遅い エディは創造神のクビを取る そうすれば ジオ様に 褒めてもらえる」


 エディは右手に魔力を籠めて地面を思いきり殴った。その衝撃波が地面を伝い、朝陽の足場を崩そうとする。


 だが、朝陽は冷静に横に避けて、エディの衝撃波を躱した。


「そう焦るな。破壊の力が強いのは認めた。だが、お前はそんな有利な状況でも俺には勝てない。エディ。力に頼っているお前は弱いのだからな」


 朝陽はエディを指さした。エディはその所作に憤りを覚える。


「な 人を指さす! 失礼!」


 エディは自分の足に魔力を籠めて衝撃を放つ。その反動で思いきり跳躍して、朝陽と距離を詰める。そして、朝陽に拳を食らわせようと思いきり振りかぶる。


 だが、朝陽は慌てず騒がず、エディの脇腹を思いきり蹴飛ばした。


「ぐへぇ」


 朝陽の蹴りがモロに入ったエディはその場に倒れこんだ。だが、エディはすぐに起き上がり、朝陽を睨みつける。そして、バックステップをして、朝陽と距離を取った。


「エディ。パンチが大振りすぎる。そんな隙だらけのパンチ。俺には当てられない」


 朝陽はあえてエディの弱点を指摘した。相手の弱点を指摘する行為は、相手が弱点を克服するきっかけにもなりえる。あまり賢い手とは言えないが、エディは煽り耐性が低い。自身の弱点を見抜かれて、ストレスを感じているのだ。


「殺す!」


 エディは両手で拳を作り、その2つの拳をぶつける。その衝撃でエディの両手が着火した。まさに炎の拳。エディは雄たけびをあげて、朝陽に殴りかかろうとする。


「俺の神器! クラフトハンマー!」


 朝陽は自身の神器を具現化した。それを見たエディはニヤリと笑った。


「無駄だ! エディ 神器を破壊する 力ある! その力で シンの神器も破壊した! そんなチンケな神器 エディの敵じゃない」


 エディは朝陽のクラフトハンマーを掴もうとした。先程のように神器を破壊する力を使うつもりだ。だが、朝陽はその行動を読んでいた。


「ていや!」


「うげ!」


 神器に気を取られたエディに朝陽はローキックを決めた。弁慶の泣き所とも言われている向う脛を蹴られたエディ。流石に痛みに耐えきれずに、反射的に蹴られた箇所を触ってしまう。痛みを軽減するための防衛本能。だが、エディは今自身の拳が炎に覆われていることを忘れていた。


「あぢぃ!」


 自らの脛を焼く結果になったエディ。ハッキリ言って間抜けだ。肉体的なパワーで言えば、申し分ないが如何せん頭が悪すぎる。そのせいで、朝陽の知能に翻弄され続ける。


「目先のことしか考えられない頭しかないのか。それに氷使いが炎を出してどうする。扱いきれずに自身を焼いているじゃないか」


 朝陽は呆れながらそう言った。ここまでエディがアホだと思いもしなかった。


「な、なんだと!」


 朝陽はクラフトハンマーを握りしめた。このハンマーは神器らしく威力が高い武器だ。だが、それだけではない。朝陽にぴったりの能力を有しているのだ。今回はエディを相手に実戦でどれだけ戦えるのか実験することにした。


「はぁ!」


 掛け声をあげて、エディに向かってハンマーを振り下ろす朝陽。エディはその攻撃をバックステップで躱す。


 エディに躱されたハンマーは空を切り、地面を叩きつける。地面にヒビが入る。


「へたくそ! どこを狙ってる!」


 エディが朝陽を煽る。エディとしては朝陽が攻撃を外したようにしか見えない。だが、朝陽としてはこれは計算の内だ。本当の狙いに気づかれないためにエディを攻撃したように見せかけた。いわば避けられる前提の一撃。


「まだまだ行くぞ!」


 朝陽はハンマーを振りまくり、どんどんエディを攻撃していく。その猛攻はとても荒々しい。反撃こそ許さないものの、攻撃が大振りでとても当たる気配はしない。エディも鈍重なキャラだが、攻撃をかわし続けるくらいのことはできる。攻撃がかわされる度に朝陽のハンマーが地面へと叩きつけられる。


「そろそろいいか……ハンマースロー!」


 朝陽はクラフトハンマーを投げた。エディは突然の行動に一瞬、ギョっとした。が、すぐに冷静さを取り戻して破壊の魔力を溜めて、衝撃波をハンマーに向かって放つ。


 破壊の衝撃を受けたクラフトハンマーは粉々に砕け散ってしまった。


「ははは! 無駄だ!」


「クラフトハンマー!」


 朝陽はみたび、クラフトハンマーを具現化させた。朝陽は若干息切れをしている。神器を休憩なしで3連続で具現化したのだ。魔力が尽きていてもおかしくないほどだ。


「なんだ 魔力切れか なら そのハンマーを壊せば 終わり マヌケめ」


 エディも朝陽の残りの魔力が少なくなっていることを感じ取った。もう、朝陽には神器はおろか、簡単な魔法を使う魔力すら残っていない。


「ハンマースロー!」


 朝陽はもう1度クラフトハンマーを投げた。最早破れかぶれの一撃。そうとしか見えない。エディはそれを見てニヤリと笑った。


「わかったぞ お前の作戦 エディの魔力切れを狙う そのつもりだろ 確かに破壊にも魔力使う だが 創造の魔法の方が もっと魔力使う コストに見合ってない 所詮 サルの浅知恵だ」


 エディは破壊の衝撃波を出して、3本目のクラフトハンマーを破壊した。


 これで朝陽は神器を破壊されてなにもできなくなった。魔力切れ。この状況から朝陽が逆転するのは一見、不可能だ。


「ライズ 魔力切れ エディ まだ魔力に余裕ある 勝負あった」


「ああ。勝負あったな」


 エディがニヤリと笑った。朝陽は自らハンマーを投げ捨て、勝機を捨てた。エディにはそう映ってる。


「ライズ 貴様の 首根っこ 破壊する そして、頭を ジオ様に 捧げる」


 エディが朝陽にじわりじわりとにじり寄ってくる。


「あ!」


 朝陽がエディの背後を指さした。エディはそれに気を取られて一瞬動きが止まった。


 次の瞬間、エディの真下の地面が急に盛り上がり、硬い土で出来たトーテムポールが出現した。


 伸びたトーテムポールはエディの顎に直撃する。その衝撃を受けたエディの顎は粉砕されて、そのままエディは上空へと投げ出された。


「ふべぇ!」


 エディは地面へと落下した。落下の衝撃を受けたエディは最早戦闘不能の状態だった。これ以上の戦いは続行できない。


「あ、が……」


 顎が粉砕されてまともに喋ることすら出来なくなったエディ。そのエディを朝陽は上から見下ろす。


「魔力切れなのに、どうして創造魔法が使えたって顔をしているな。答えは簡単だ……でも、お前に教えてやる義理はない。これから死ぬお前が知ったところで意味がないだろ」


 魔力切れの朝陽が物質を創造できたこと。それはクラフトハンマーに起因する。この神器はハンマーで破壊した物体をストックすることができる。ストックした物質を素材にして創造魔法を使えるのだ。この際、素材に使った分は消費魔力から差し引かれる。つまり、ストックした材料だけで物体を作れば、魔力の消費はなし。これはクラフトハンマーが破壊されても継続されるのだ。ただし、ストックできる期間には上限があって朝陽の体内時計が24時間を感じたら、素材は解放されて自然に還る。だから、予め素材を無限に取得しておくことはできない。


 朝陽はクラフトハンマーを具現化しては破壊されるのを繰り返して、エディに魔力切れで魔法が使えないと錯覚させた。だが、朝陽には魔力の消費なしで魔法を扱える策があったのだ。魔法が使えなくなったと油断したエディ。朝陽は地面にある土をハンマーで破壊してストックして、それを素材にして固いトーテムポールを作り、エディの顎を粉砕する作戦を取った。


 結果、神器の特性を扱いこなした朝陽の作戦勝ちだ。

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