第35話 太陽と嵐と別れ
創造神シンとの戦いを終えて、自らの拠点である神界に帰還した朝陽たち。神々以外は既にセイントパーク内に帰還している。ハンの集落の戦士たちやエディたち雪山地帯の戦士たちもそれぞれの故郷に戻っている。
ヴォルフは周囲を見回し、自身が発言してもいいような空気であることを確認する。
「さてと。ライズ様。俺が役に立てるのはここまでですね。俺が神の力を得るための条件は神界戦争に参加することだけ。戦争が終わったら、俺は自由の身でいいんでしたよね?」
「ああ。俺たちとしては、一緒にいてくれると心強い味方だ。だけど、ヴォルフがしたいことがあるって言うんだったら無理に止めることはしない」
「俺は今回の一件でこの世界はまだまだ広いものだと知りました。自分たちがいる世界、セイントパークの外に神界がある。更にその神界の外には別の創造神が創り出した外界がある。俺はもっと外の世界に触れてみたい」
ヴォルフは自身の拳を握り、決意を固めている。
「そうか。外界に行くのか。気を付けろよ」
「ええ。ライズ様もお元気で」
ヴォルフがこの朝陽の創り出した神界を去る。そう思っていた次の瞬間、ヒルトが1歩前に出た。
「創造神様! 俺も修行の旅に出たいです」
ヒルトの発言に一同が驚いている。ヴォルフは元々、この戦争に参加することを条件に一時的に協力してくれる仲間という立ち位置だった。けれど、ヒルトは朝陽を支えるために神になったのだ。そのヒルトが朝陽の元を離れると言い出したのだ。
「な! おい、ヒルト。貴様、何を言い出すんだ!」
「待てポアロン。ヒルトの言い分を聞こうじゃないか」
「ええ。ありがとうございます創造神様。俺は今回の戦いで自分の無力さを痛感しました。俺は魔法と神器の力に頼りすぎていました。そして、その両方の力を封じられた途端、ベラに手も足も出なかった。所詮、俺は魔法と神器がなければ戦えない雑魚だったんです」
ヒルトは元々、魔法の力を得る前は狩りで足を引っ張っていた側なのだ。つまり、基礎的な身体能力では一般的な戦士に劣っている。
「うーむ。ヒルト。貴様の神器はこのわたくしが認めるほどに強力なものだ。白兵戦においては早々上回る者はいない。今回はたまたま、神器が封じられただけだ。それさえなければ、貴様がベラに負ける道理などない」
「でも、負けは負けなんだ。あの神界戦争では俺たちが負けてもおかしくなかった。俺がもう少し強ければ、もっと楽に勝てたはずなんだ」
ヒルトの眉が吊り上がる。自分の不甲斐なさに対する怒り。それがヒルトの心を支配する。
「創造神様! 俺、もっと強くなりたいんです! 魔法や神器に頼ってばかりではない。本当の強さを手に入れたいんです!」
ヒルトは朝陽に向かって頭を深々と下げた。
「わかったよ。ヒルト。キミの想いは伝わった。行ってこい」
「創造神様! ありがとうございます」
「ただし、やるからにはきっちり強くなって来いよ。半端な状態じゃ許さないからな」
朝陽はヒルトの前に右拳を突き出した。
「はい!」
ヒルトも朝陽の拳に合わせて自身の拳をぶつける。カツンという小さい音がして、2人の友情がより強固なものとなった。
「ヴォルフ様もヒルト様もいなくなるなんて、少し寂しいな」
マーヤはボソリと呟いた。マーヤは神界戦争の準備期間中、ヒルトとヴォルフと共に修行をしていた。彼らに対する想いはそれなりにあるのだ。
「やれやれ。全く……これで我らの戦力も半減したようなものですぞ」
ポアロンは呆れたような顔をしてみせる。実際、ヒルトとヴォルフは戦力としては有用なものだった。ポアロンはサポートタイプだし、狩りや旅をしていたヒルトやヴォルフに比べて、マーヤはまだまだ実戦経験に乏しい。安定した近接戦闘ができる人物は朝陽に限られてしまう。
「さてヒルト。お前はどっちに行く?」
「そうだな。シンの世界がある方向に向かって飛んでいこう。周辺の世界で鍛え上げて、将来的にはシンの世界にいるベラにリベンジがしたい」
「そうか。じゃあ、俺は反対の方向に行こうか」
「ああ。しばらくは会えなくなるな」
「なあに。また会えるさ」
『それでは、行って参ります』
その言葉と共に、ヒルトとヴォルフはシュンという音と共に消えて外界へと移動していった。彼らには、しばらく会えない。そう思うと朝陽は少し物悲しい気持ちになった。
「さて、俺たちは俺たちができることをしよう。しばらくはゆっくり休んでくれ。休憩が終わったら、セイントパークに行くからな」
「承知しました創造神様。全力で休ませていただきます」
「ねえ、パパ。どうしてセイントパークに行くの?」
「ああ。そうだな。今回の戦争の功労者にお礼をしなきゃいけないからな。施しを受けたらちゃんとお礼を言う。そうでないとファンは離れていくからな」
前世では、生配信でスパチャ、欲しいものリストでファンからの貢ぎ物を受けていた朝陽にとっては当然の礼儀だ。今回は兵力を提供してもらったのだからお礼を言うのは当然のこと。
「流石創造神様。民に対しても慈悲深い。決して驕らないその姿勢に感嘆しますぞ」
「さて、俺は風呂にでも入るかな」
「マーヤも入るー。えへへー。パパのお背中を流してあげるね」
マーヤが朝陽の腕に絡みついてくる。朝陽の左腕に女子特有の柔らかい感触が伝わってくる。
「おい、大浴場に混浴はないんだよ。ちゃんと女湯に入りなさい」
「えー。いいじゃん。ヒルト様もヴォルフ様もいないんだから。他に男の人がいない今、堂々と混浴できるチャンスだよ」
マーヤは朝陽の左腕を少し引く。それはまるで自身の存在をアピールしているかのように。
「あのね。パパ。私ね。ずっと寂しかったんだ。ヒルト様もヴォルフ様も男の人でしょ? 修行終わりにお風呂に入っていたんだけど、男湯からは2人の楽しそうな声が聞こえてきて……でも、女湯は寂しかった。ポアロン様が下界に降りているから女は私1人しかいなかったから。すっごく寂しかった」
マーヤは俯き声を籠らせながらそう言った。マーヤは、これまでの人生でただでさえ寂しい想いをしてきた。だからこそ、人一倍1人になることに嫌悪感を示している。朝陽としてもマーヤにこれ以上寂しい想いをして欲しくない。かと言って、年頃の男女が混浴するのも色々とまずい。どうしようか考えあぐねていたその時、ポアロンが口を開く。
「心配するな小娘よ。わたくしが一緒にお風呂に入ってやる。それで満足だろ。わざわざ創造神様の手を煩わせるまでもない」
「え? ポアロン様大丈夫なの? お風呂に入って蒸し鶏になったりしない?」
「貴様もそうやってわたくしを弄るのか……」
「あはは。ごめんなさい。冗談ですよ冗談。でも、ありがとうポアロン様。一緒に女湯に行きましょう」
マーヤとポアロンは大浴場がある所まで進んでいった。
「でも、パパと一緒に入りたかったな……」
マーヤがポツリとそう呟く。その小声は誰の耳にも入ることもなく、空気中に消えていった。
「さて、俺も風呂に行くか」
朝陽とポアロンとマーヤは、それぞれ温泉に入り英気を養った。朝陽は女湯から聞こえてくる楽しそうなマーヤとポアロンの声を聞きながら、湯船に浸かる。2人が仲良くやっているようで良かったと一安心して、ゆっくりとリラックスをする。
そして、風呂上りに火照った体を鎮めるために、朝陽は自室で就寝をした。これまで、神界戦争のための準備や戦いの指揮を取ったことで気を張った状態だった。久しぶりにゆっくりできるこの状況をありがたく思いながら、眠りの世界へと入って行った。
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