第34話 破壊の力
ポアロンは思案した。魔力を封じるほどの能力。それは相当な魔力とイメージ力を費やさないと創造できないものだ。強力な力にはそれ相応の代償がある。今のシンは魔力が尽きてすっからかんの状態だと推察する。つまり、攻撃されたら抵抗することはできない。狙うのは近接攻撃が強いベラではなくて、シンだ。
「エディ! 作戦変更だ。標的を変えるぞ」
「わかった」
そう言うとポアロンはベラに向かって急降下した。鋭いクチバシでベラの目を狙う。ベラはその動きを読んでいたのか風を纏った剣を振った。
剣の風圧に吹き飛ばされたポアロンは飛行能力を失い地面へと落下する。その衝撃でポアロンは気絶してしまった。
「鳥風情が。私に勝てると思うな」
一方でエディはポアロンの言伝通りに、標的をベラからシンに変えた。ポアロンの真意は伝わってないが、シンを倒せば勝てることはエディも理解している。シンは筋肉量がそんなにない。格闘センスもないし、武器も持ってない状態。つまり、成人男性の中でも弱い部類に入るくらい貧弱だ。熊を素手で倒すほどの大男のエディが一発殴ればそれだけで勝負がつくレベルだ。
「させるか!」
ベラは脚力を魔力で強化して、エディと距離を詰める。そして、剣を振るいエディを殺そうとした。
エディは剣を間一髪のところで避けることができた。もしこの攻撃が命中していたらヒルトのようにやられていた。
「鳥が囮になって、そこのでくの坊が坊ちゃまを狙いに行くのは予想できた。私の目が黒いうちは坊ちゃまに手出しはさせない!」
ベラはエディに追撃をする。素の身体能力ならエディはベラに見劣りはしない。エディの身体能力は神にも匹敵するほど優れているのだ。だが、ベラは体を魔力で強化している上に神器を所持している。勝敗は火を見るより明らかだ。
ベラの剣がエディの眉間を捉える。エディは素早い動きでベラの神器を手で受け止めた。
「ナ、ナニィー!」
真剣白刃取り。徒手が剣を持っている相手に対抗できる数少ない戦い方。エディは剣術を特に学んでいたわけではないが、戦士としての本能が白刃取りを成功させたのだ。
「この剣 邪魔」
エディはベラの神器AZ-CALIBURを手の力でへし折った。それを見てベラは口をあんぐりと開けて、目が零れそうなくらい見開いて驚愕した。
「バ、バカな! 神が創った神器を破壊するだと! あ、ありえない。ま、まさか……貴様は!」
エディはベラの顔面を思いきり殴りつけた。ベラは後方に吹き飛び、背後の岩に激突する。顔も背中も衝撃を受けたベラは、その場でガクっと項垂れた。
「ひ、ひい!」
ベラがやられたことを知ったシンは、すぐさまベラの近くに駆け寄った。
「ベ、ベラ! 起きてくれ! た、戦うんだよ! 僕を守るために! ぼ、僕はもう神器バベルを起動させたから魔力がないんだ」
シンが必死にベラの体を揺らす。気絶しかかっていたベラはなんとか目を覚まして、シンのために立ち上がった。
「シン様……大丈夫です。まだ神器が破壊されただけです。もう1度神器を創って戦います」
ベラはもう魔力を集中させて神器をイメージする。そして、再びAZ-CALIBURを創り出して、エディに立ち向かおうとする。
「なにが神器だ! そんな剣でエディを倒せると 思うな!」
エディは黒い塔に近づいて、その塔を殴りつけた。塔はエディのパンチを受けてヒビが入る。
「な! ぼ、僕のバベルを! や、やめろ! その塔を破壊するな!」
「ハイィ――!」
エディが回し蹴りをする。その一撃を受けた塔はポッキリと折れる。そして、塔はベラとシンのいる方向に向かって倒れていく。
「ぎゃ、ぎゃああ!」
情けない悲鳴をあげるシン。このままだと塔の下敷きになってしまう。
「坊ちゃま危ない!」
ベラは痛む体に鞭を打って、シンを抱きかかえて前転した。間一髪のところで塔の下敷きになるのを避けた。後一瞬ベラの反応が遅れていたら、2人共無事では済まなかった。
「な、なんてパワーだ……」
「いえ。坊ちゃま。違います。やつの力の根源は単なるパワーではありません。あいつは……あの大男はただの人間ではありません。我々創造神サイドの力とは対極をなす力を持つ者。バベルは魔法と創造の能力を封じるだけの神器。だから、あの忌まわしい力までは封印できなかった」
「な、なにを言っているんだベラ……」
「ん……ん!?」
ポアロンが気絶から復帰して空を飛び始めた。そして、なにかを察したのかニヤリと笑った。
「し、しまった。バベルは複数がかりでやっと効力を発揮する神器。1つでも破壊されたら効力がなくなる」
「どうやら、エディが魔法の阻害をなんとかしてくれたようだな。これで終わりだ」
ポアロンは羽からカマイタチを発生させて、ベラの体を引き裂いた。強烈な一撃を受けたベラは息絶えてしまい、この戦争に決着がついた。
『ピンポンパンポーン。お知らせです。お知らせです。この戦争に立ち会っていたルベルです。みんな大好きルベルちゃんです。この時点で戦争の勝敗が決しましたことをお知らせします。これ以上の戦いは無意味ですので武器を置いてお聞きください。この戦争の勝者は――創造神ライズです! おめでとうございます!』
荒野中に響き渡るほどの声が天より聞こえてきた。その一報を聞いたシンは絶望した表情でへなへなとへたばっていた。
「そ、そんな……バカな。ライカもフウコもナデシコもベラも……みんなやられたと言うのか」
『それでは、みなさまを安全な場所に退避させます。戦争後の処理はそこで行いますね』
その言葉を共に戦争に参加していた者達はシュンという音と共に荒野の戦場から姿を消した。
◇
ふわふわとした雲の上。そこにライズ陣営とシン陣営の戦争に参加した神々が集まった。雲は小学校の教室ほどの広さで、この人数なら問題なく収容できる。
戦争で命を失った神々も問題なく復活している。ヒルトもヴォルフもライカもフウコもナデシコもベラも傷1つ負ってない状態に回復している。
「それでは、改めまして勝者の創造神ライズ様。おめでとうございます。あなたの知恵と勇気と仲間への信頼が創造神シンを打ち倒しました」
「どうも」
朝陽は少し照れ臭そうに頭をかいた。仲間を信頼していたし、勝利することは疑ってはいないものの、やはり実際に褒められるとどこか擽ったい感情になる。
「中々に白熱した戦いでしたね。まず、ヴォルフ様がライカ様とフウコ様を倒しました。ヴォルフ様はそこで力尽きて戦線離脱。続いて、創造神ライズ様がナデシコ様を倒す。シン陣営は残りベラ様とシン様だけになり、状況はライズ陣営が有利かと思われました。だけど、その次にベラ様が意地を見せてヒルト様を倒し、ポアロン様も追い詰めるというところまで来ましたが、最後にポアロン様が逆転。結果、ライズ陣営の勝利が決まりました。最後までどっちが勝ってもおかしくない試合運びでしたね」
ルベルは戦争に関する記録の調書を読み上げる。どっちが勝っても全く無関係な中立の立場だからか、心底楽しそうにしている。
「それでは、勝敗がつきましたので約束通り、シン様の全身脱毛を行います」
その発言にシンの顔が真っ青になった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。ほ、本気なのか?」
「なにを今更言ってるんですかシン様。これが初めて神界戦争というわけではありませんよね? 敗者は賭けたものを失う。それが世の常です」
「で、でも、ぼ、僕の毛がなくなったところで、そっちにはなんの得もないじゃないか!」
「いや、面白いからさっさとハゲろよ」
朝陽の無慈悲な発言。面白い。たったそれだけの理由なのだ。
「い、いやだ! や、やめろ! やめてくれ!」
「諦めろシン。お前はウチのマーヤの尊厳を破壊しようとした。マーヤの意思を無視してトレードしようとしたり、戦争を仕掛けて無理矢理連れ去ろうとしたり。それは当然の報いだ」
「い、いやだ。た、助けて……」
シンが縋るような目で見てくる。
「んー。そうだな。まつ毛と鼻毛だけは勘弁してやるよ。まつ毛は目にゴミが入ったら大変だし、鼻毛はフィルターの役割があるからな。この2つがないのは割と悲惨だな」
「そ、そんな! 髪の毛と眉毛は許して」
「それ許したら面白くなくなるだろ。ルベル。やっちゃってくれ」
「はい。わかりました。それでは刑執行です」
「うぎゃあああああ!!」
シンの全身がキメの細かい白い泡に包まれる。泡がぶくぶくと動き回ると泡はやがて消滅して、中から全身脱毛したシンが出てきた。
「これが仕上がりです」
ルベルはシンに手鏡を渡した。それを見たシンの顔が真っ青になる。
「あ、あ……ああ!!」
「ぼ、坊ちゃま! ああ、そ、そんな……」
ショックを受けているシンとベラ。だが、シン陣営の他の3人は笑いを堪えるのに必死になっている。
「あはは。面白い。ねえ、見てパパ。ハゲがいるよ」
「こら、マーヤ。ハゲを
「創造神様。ハゲ増したら余計悲惨なことになりますよ」
「あはは。上手いなポアロン。でも、そんな意図は毛頭なかったけどな」
和やかな雰囲気のライズ陣営。その一方でシン陣営は、悲しみに包まれているハゲと怒りに震えているベラ。笑いを堪えていることをバレないように必死な残り3人と中々に混沌とした状況になってる。
「く! 覚えてろよ貴様ら! 坊ちゃまにこんな屈辱を味わわせたことを後悔させてやる!」
ベラが朝陽を睨みつける。
「それでは、無事戦争も終了したことだし、みなさまをそれぞれの世界に帰還させますね。それではさようなら。また会う日まで」
ルベルはそれぞれの陣営を元にいた世界に戻した。こうして、神界戦争は幕を閉じたのであった。
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