第31話 尋問と進軍

「おい、そこの小娘。お前の名前はなんだ」


 朝陽が拘束している少女に名前を尋ねると少女は眉を吊り上げて、ペっと唾を吐いた。


「貴様に名乗る名などないわ! さっさと殺せ」


「わかった」


 朝陽が少女を拘束している蔦に魔力を籠めると蔦の締め付けが強くなった。その締め付けはかなりのもので、少女の内臓を圧迫する。少女の皮膚には数日は消えないであろう痣が出てきて、骨もひびが入るほどに強く強く拘束されていく。


「あ……が、ま、待って……助けて……」


 少女の懇願する声を受けて、朝陽は拘束を緩めた。少女の口から涎が垂れ流れている。ぜーはーぜーはーと息を整えながら少女は恨めしそうな目で朝陽を見つめる。


「パパ。こいつ生意気だよ。やっちゃおうよ。どうせ敵なんだから」


 マーヤは鼻息を荒くして少女を敵視している。朝陽に不遜な態度を取っているこの少女が気に食わないのだ。


「うん。それもそうだな。生かしておく意味はないか」


「え、ちょ、ま、待って! 本当に! 拙者の名前はナデシコ。創造神シン様に仕える影の女神。もう逆らいませんから許してください。なんでもしますから!」


 ナデシコと名乗った少女は目に涙を浮かべながら必死で朝陽に懇願した。


「影の女神。なるほど。その名の通り、影の中を自在に動く能力を持っているのか。シン陣営の他の神の能力は?」


「それは言えない」


「なんでもするって言ったのにか?」


 朝陽は拳を握る。それが合図となり、ナデシコに絡まっていた蔦がまたもや彼女の体を締め付ける。


「あ、がが! や、やめて!」


「えい」


 朝陽はナデシコの上腕に絡まっている蔦に一際大きな魔力を籠めた。その瞬間、ナデシコの上腕を支えている骨がポキっと冬の枝のように折れてしまった。意図も容易く腕を折られたナデシコは悲痛な叫びをあげて、もがき苦しんだ。


「次はどこの骨を折って欲しい?」


「ま、待って……本当に痛いから。やめて……せめて殺して」


「さーん、にー、いーち」


 朝陽は表情を変えずにカウントダウンを始める。そのことがなにを意味するのか察したナデシコは慌てて口を開く。


「ま、待って。言うから! ライカとフウコは姉妹。それぞれ雷と風を操る能力を持っている。ベラ様は剣の神器を持っている。肉体強化の魔法が得意で剣術に優れているの。その反面属性魔法を射出するのはあまり得意じゃない。だから、属性魔法を神器に付与エンチャントして属性攻撃をするんだ。接近戦は滅法強いけれど、遠距離から攻められると弱いの」


 ナデシコは我が身可愛さに仲間の情報をベラベラと喋り出した。特にベラの情報は有益なものでベラの弱点までご丁寧に説明している。これで戦局が大分有利になったのは間違いない。


「遠距離攻撃か……ヒルトも遠距離攻撃手段は持っているけれど、あいつは槍の方が扱いが得意だからな。だったら、ポアロンの方が相性がいいか。空中なら剣も届かないはずだからな」


「あ、あのー……もういいでしょうか」


 ナデシコは朝陽の顔を見上げて、媚びるような視線を向ける。


「待て。肝心のシンの能力がまだだ」


「ひ、ひい……し、知らないんですよ。拙者、シン様の能力は本当に。どんな神器を持っているのかわからないんです。拙者、シン様が戦っているところは見たことないんです。戦闘は全部ベラ様がやっていたので」


「なんだと……」


 朝陽はその言葉を受けて、ナデシコに絡まっている蔦に魔力を籠めた。蔦はギチギチと締まり、ナデシコを無慈悲に痛めつける。


「な……ど、どうして……」


「作戦変更だ。俺たちはシンとは戦わない。能力が不明な相手と戦うよりかは弱点がハッキリしている相手を倒して勝利した方がいいからな」


「ぐ……というと……」


「この神界戦争に勝利する条件。それは、敵の創造神を倒す。敵の大将を倒せばその時点で勝利。そして、もう1つあるのは、敵の人間兵の3分の1まで削って、敵の神全てを倒す。これでも勝利できる。だから、影の女神であるお前には死んでもらう」


「そ、そんな……」


 グシャっとなにかが潰れる音がした。その音と共にナデシコは糸が切れた人形にようにガクっと倒れてしまった。


 ナデシコから伸びた蔦が消えて、蔦に支えられていたナデシコの体は地面へとボトっと落ちた。生命活動の停止。影の女神ナデシコはここで戦線離脱をしたのだ。


(創造神様。創造神様。聞こえますか?)


 ナデシコとの戦闘が終わったのと同時にヒルトからのテレパシーを受け取った。


(ああ。こちらライズ。聞こえる)


(ヴォルフが敵の神を2人倒しました。倒したのは雷の女神と風の女神。その戦闘のダメージを負っているのかヴォルフはこれ以上戦えそうもありません)


(そうか。こっちも影の女神を名乗るナデシコってやつを倒したところだ)


(え? そっちに敵が行ったんですか? すみません。俺見落としてしまいました)


(いや。気にするな。あいつは影から出現する能力を持っている。だから、ヒルトが見落としても仕方ない。空間転移系の能力を持っているやつもいる。いい戦闘データが取れた。これからの戦いに活かせばいい)


 影があればどこからでも出現するナデシコ。その能力ならばヒルトとすれ違わなかったのも無理はない。朝陽はそう思ったからこそ、ヒルトを責めることはしなかった。


(となると、残りの神は創造神シンともう1人の詳細不明なやつですね)


(んー。その詳細不明なやつの正体も割れてるんだ。ナデシコから情報を聞きだしてな。残りの神はベラ。俺たちも知っている創造神の使いだ)


(あの、変な恰好をした女ですか。あいつは確か剣の神器を持ってましたよね?)


(ああ。あの神器通り、剣術に長けたやつらしい。だが、その反面魔法の射出が苦手なようだ。遠距離攻撃を多用すれば勝てる相手だ)


(なるほど。あ、そういえば。もう敵を3分の1ほど倒してますし、ベラかシンをどっちか倒せば俺たちの勝ちですよね? ベラの能力が割れているならそっちを倒しましょうよ)


(そうだな。俺もそう思っていたところだ。ヒルト。これから、そっちにポアロンを向かわせる。ポアロンと協力してベラを倒してくれ。ポアロンは回復魔法を使ったことで多少消耗している。万全の状態とは言い難いけれど、戦力にはなるはずだ)


(わかりました。回復魔法を使ったってことは、創造神様が怪我を負ったんですか?)


(いや、俺じゃない。エディがやられた。エディは単なる人間だ。死んでしまったら2度と生き返れない。だから回復させた)


(そうなんですね……)


 ヒルトはかつて、ゴーンとの戦いで死んでしまった仲間に想いを馳せた。人は死んでしまったら2度と生き返ることはない。今回の戦いでまだ自軍の戦死者が出ていないのは幸運なことだ。これも朝陽の作戦あってのことである。


(それじゃあ、エディの回復が終わり次第、ポアロンを向かわせる。いいか。ベラは恐らく敵軍の陣地にいる。敵軍の陣地に行くと言うことは敵の最強の戦力、創造神の魔力が届く範囲に行くということだ)


(ええ。わかってます)


(敵がどれだけ強いかわからない。シン陣営の人間兵の中にも油断ならない逸材がいるかもしれない。ライズ陣営の兵士はほとんどが魔力の射出で消耗している。できるだけ多くの戦力を割いてやりたかったけれど、消耗している兵士を向かわせては死にに行かせるようなものだ)


(はい。心配いらないですよ。創造神様。鳥公はともかく、俺はそう簡単にやられるつもりはありませんよ)


(ふふ、頼もしい限りだ。頼んだぞ)


(はい。創造神様に必ず勝利をプレゼントします。では、また後ほど)


 その言葉でテレパシーがぷつりと切れた。


「創造神様! エディの治療が終わりました」


 ポアロンが朝陽の肩に向かって飛んできた。


「エディ 元気になった ポアロン様の お陰」


「ポアロン。早速で悪いんだけど、お前も進軍して欲しい。ヒルトと合流して、シンの陣地を攻め入る」


「おお。ついにやるんですね。わたくしを頼ってくれて嬉しいのですよ」


 ポアロンは胸を張り、羽でポンと鳩胸を叩いた。


「標的はベラだ。あいつは剣士。接近戦は得意だけれど、遠距離攻撃は苦手らしい。遠くから魔法で攻めれば勝てる相手だ」


「なるほど。それでわたくしの魔法が必要なんですね。わかりました。それならわたくしだけで十分ですね。あの原始人はおまけ程度ですよ」


 ポアロンは朝陽の肩から飛び立ち、目的地へ進もうとする。


「待って エディも 行く」


「え?」


 朝陽は思わず変な声をあげた。まさかエディをこの状況で進軍させるとは考えもしなかったからだ。


「エディ 神様の 役に立つため ここにいる このままでは 足引っ張っただけ だから 名誉挽回 させて欲しい」


「んー。確かにエディ自体は魔力の消耗はしていない。けれど、病み上がりの体で大丈夫か?」


「大丈夫 エディ 丈夫!」


「わかったよ。まあ、戦力は多い方がいいからな。エディ。お前も行ってこい」


「ウーホー! 創造神様 感謝」


「やれやれ。仕方ないな雪男。わたくしの足を引っ張ることだけはやめるんだぞ」


「わかった」


 ポアロンとエディはライズ軍の陣地を抜けて、先へと進んでいった。

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