第28話 風の女神フウコと雷の女神ライカ
シンの言いつけ通りに前線部隊の
姉のライカは茶髪でサイドテールの髪型をしている。瞳の色は青くて、若干吊り目で気が強そうな感じだ。服装はブレザーとミニスカートで着崩している。
一方で妹のフウコは姉に比べると背が低いがその分胸は大きい。肩までウェーブがかった金髪で瞳の色は緑色。服装は姉と同じく上はブレザーだが、下はロングスカートだ。服を着崩している姉とは対照的にキチっと服装を整えている。服装からして真面目な性格がよく出ている。
「ライカ姉様。我らの出番はあるのでしょうか」
「最前線にはバルキリー部隊がいる。彼女らが力を合わせれば神にも匹敵する。全く。創造神ライズとやらも不運なものだ。相手がシン様の時点で勝ち目はないというのに」
フウコとライカは後方で待機していた。ここが前線部隊の採集防衛ライン。ここを突破されると後衛の部隊に侵攻されてしまう。それを防ぐための保険として、シンはここにフウコとライカを配置したのだ。
「しかし……バルキリ―部隊からの連絡はまだですかね。彼女らの実力を考えたら、そろそろ敵を殲滅したと報告してもよろしいころかと」
「意外に苦戦しているのかもしれないな。相手の兵力と実力はまだわからない。相手にもバルキリー部隊に匹敵する実力者がいるのかもしれないし、最前線に神を配置する戦法を取るかもしれない。相手が神ならばバルキリ―部隊も苦戦は必至だろう」
フウコとライカはしばらく傍観していた。しかし、これは彼女たちの判断ミスだった。バルキリー部隊からの連絡が途絶えた。この違和感から察するべきだった。敵が自分たちの予想以上の力を持っていたことを。そうすれば、最前線で起こっている惨劇は防げた可能性はあった。
「フウコ様! ライカ様! 大変です!」
最前線の女兵士が足を引きずりながら、後方に下がってきた。女兵士の右足には矢で射られたような傷があり、傷口の周囲には焦げ跡があった。
「どうしたんだ!」
ライカは急いで女兵士の元に駆けつけた。ライカは治癒魔法が使える。慌てて女兵士の傷を治癒しようと彼女の傷口に手をかざそうとする。
「待ってくださいライカ様。私の傷はどうでもいいです……その魔力は敵を倒すのにお使いください」
「我に! 民を見捨てよと言うのか!」
ライカは下唇を噛んだ。とても悔しそうな表情をしているライカに対して、フウコはライカの肩にポンと手を置いた。
「ライカ姉様。ここで魔力を消耗してはなりませぬ。ライカ姉様の魔力が削られれば、シン陣営の戦力が大幅にダウンします。我らの力は全てシン様の勝利のため! シン様の勝率を1パーセントでも下げることはしてはならないのです」
フウコの説得にライカは思い止まった。ライカは右手の拳をぐっと握って堪えた。
「アンジェリカ……一体なにがあったと言うんだ。最前線にいたバルキリー部隊はどうした?」
「嬉しいライカ様……一介の雑兵にすぎない私の名前を憶えて下さっていたんですね」
アンジェリカと呼ばれた女兵士は満足そうな表情をした。しかし、その顔がどんどん力なく緩んでいった。そして、アンジェリカはガクっと糸が切れた人形のように事切れた。
「おい……アンジェリカ! おい!」
ライカがいくらアンジェリカを呼び掛けても彼女は返事をしなかった。脈を触ってみるが全く動いていない。アンジェリカは死んだのだ。
「アンジェリカ……最後の力を振り絞りここまで来たのですね。ライカ姉様!」
「ああ。わかっているフウコ。最前線にいる兵士たちはバルキリー部隊を含めて全滅したと見ていいだろう。創造神ライズ。ふざけた野郎だ。我ら風雷姉妹が成敗してくれる!」
◇
「創造神様。俺が作った光めがけて撃って下さい。その方向に敵がいます」
ヒルトはテレパシーで朝陽に合図をした。ヒルトは光を放つ魔法を使って、照準を定めた。ハンの戦士たちの優れた視力によって、その光は検知することができる。これにより、遠方からの射撃を可能としている。
十数秒後に炎の矢がシン陣営の女兵士の左胸を貫いた。女兵士はヒルトたちに近づくことすらできずに前のめりになって倒れてしまった。
「それにしても暇だー。敵は全員後方からの射撃でカタが付いてる。照準の指示も全部ヒルトがやってくれているから、俺はなにもしてないのさ」
ヴォルフが頭の後ろで手を組みながらぼやく。朝陽の戦術が思いのほか上手くはまって、敵兵はヒルトとヴォルフに攻撃すらできない距離から一方的にやられている。
「この気配は……ヴォルフ。喜べ。この魔力は人間のものじゃない。敵の神が動いてきたぞ」
ヒルトはただならぬ魔力を地平線の向こうから感じ取った。怒りと悲しみで乱れている魔力。とんでもない量の魔力を持っている2つの気配を感じ取ったのだ。
「ああ。俺も感じたさ。ヒルト。どう思う? これ、遠距離からの射撃で倒せると思うか? 俺は無理な方に賭けるさ」
「俺も無理だと思う」
「なら、賭けは不成立だな」
「まあ、やるだけやってみるさ。創造神様。敵の気配が2つ。2つ共、神です。敵が近づいてきたら、照準マーカーを送ります」
ヒルトとヴォルフに緊張が走る。そして、物凄い速さで2人に向かってくる気配。フウコとライカ。豆粒ほどの大きさだった彼女たちが、あっと言う間に大きくなり姿形がハッキリと見えて来る。
「創造神様! 今です! 撃って下さい」
朝陽はヒルトの指示を受けて、人間兵にバリスタを撃つように指示をした。人間兵の魔力を受けた炎の矢はバリスタの補助を受けて放たれた。人間兵の射出力にバリスタの威力が乗る。遥か地平線の彼方まで飛んでいくそれは人間の限界を超えていた。
放たれた炎の矢はライカ目掛けて飛んでいった。速度がほとんど落ちていないそれをライカは軽々と右手の甲で払って、弾き飛ばした。
「わーお。やっぱり無理だ」
ヒルトは戦闘態勢を整えた。こういう事態は既に想定している。バリスタから放たれた矢を対処できるのは、神しかいないだろうという判断。だから、神であるヒルトとヴォルフのみが前線に立っているのだ。
「女が2人……いや、神だから2柱か? ヒルト。ここは俺にやらせてくれ」
「ヴォルフ。相手は2人だぞ。俺も戦う」
「俺の強さは知っているだろ? なあに。心配するな。相手が複数だろうと負けるつもりはないさ」
ヴォルフはそれだけ言うと自身の神器である剣を取り出した。
フウコとライカがヒルトとヴォルフの前にやってきた。お互いの攻撃が届く距離。ここまで来たらもうバリスタでの援護射撃をする余裕がない。
「貴様らか……我らの同胞を次々と葬ったのは」
ライカがヒルトとヴォルフを睨みつけた。もの凄い殺気がライカから放たれた。一般人程度ならその殺気に触れただけで戦意を喪失してしまうほどだ。
「ライカ姉様。落ち着いて下さい。ここで戦ってはなりません。ここには同胞たちの遺体があります。彼女らをこれ以上傷つけたくありません」
フウコはしゃがんで女兵士たちの遺体に優しく手を触れた。
「ああ。場所を移したいって言うのなら、受け入れてやるさ。死に場所くらいは選ばせてやるさ」
ヴォルフはフウコとライカの場所を変えたいという要求を受け入れることにした。この場で戦えば、確かにヴォルフの方が有利になる。けれど、それは彼女たちが遺体を気にして満足に戦えなくなるからだ。ヴォルフはそういう戦いを望んでいるわけではない。
「我の名前はライカ。シン様に仕える神だ。そしてこっちは妹のフウコ」
「ご丁寧に自己紹介どうも。俺の名前はヴォルフさ。まあ覚えてくれなくてもいいぜ」
「なあ。ヴォルフ。本当に1人で戦うつもりか?」
ヒルトはヴォルフに問いただした。その言葉に反応したのはライカだった。彼女の眉がぴくりと動く。
「なに……貴様。我ら姉妹を相手に1人で戦うと申すのか! 我らを愚弄するのもいい加減にしろ!」
ライカがキレた。その瞬間、ライカの頬もスパっと斬れた。ライカはなにが起きたのか理解できなかった。
「お前、今の攻撃躱せなかっただろ? だから、俺だけで十分なのさ。お前ら2人の相手は」
ヴォルフは先ほど振りかざした剣を納刀し、ニヤリと笑った。
「あ……き、貴様!」
「ライカ姉様。落ち着いて下さい。今のは不意打ちを受けただけです。冷静に動きを見極めれば避けられます。それに我ら姉妹を1人で相手するという驕り。その鼻っ柱を叩き折って差し上げましょう」
「ヴォルフとか言ったな! 後悔させてやる!」
ヴォルフとフウコとライカは場所を移動した。取り残されたヒルトは、ただボーっと立ち尽くすだけだった。
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