第17話 肉食系恐竜エルノス
オウギは朝陽に蹴られた箇所を手で抑えながら、ゆっくりと立ち上がった。そして、朝陽の方を思いきり睨みつける。その目は恨みに満ち溢れていた。まるで我が子を殺された母ガラスのような、標的を絶対に許さない意思が感じ取れる。あるいは、大好物のから揚げを目の前で食べられた空腹のデブのような、恐ろしさか。
「許さん! 許さんぞお! ぶっ殺してやる! ぶふぉふぉおお!!」
オウギはわけのわからない奇声をあげて、ストーンアクスを朝陽に向かって振り下ろそうとする。その時だった。オウギのストーンアクスに向かって、誰かが蹴りを入れた。蹴りを受けたストーンアクスに光が集中して熱を帯びていく。
「熱っ! あぢぢぢ! なんだこれ! くそ!」
次の瞬間、オウギのストーンアクスはパリィンと割れた。時間差で熱と光と衝撃が伝わってくる魔法と技の合体技だ。
「創造神様に手を出すなら、先に俺が相手をしてやる!」
「ヒルト! 怪我をもういいのか?」
「ええ。鳥公……ポアロンのお陰で治りました。これで俺も創造神様のために戦えます」
ヒルトは自身の太陽の魔力を練り上げて、槍をイメージして武器を作り出した。
「神器インティワイラ! 創造!」
ヒルトは自身の作り出した槍にインティワイラと命名したのだ。そのセンスに朝陽は「ほー」と感心するのであった。
「なにがインティワイラだ! そんな槍などこのオウギ様の前では無力も同然!」
オウギは地面を叩いて両手に小型の石斧を作り出した。そして、手を思いきり上下に振り、石斧をヒルトと朝陽に向かって飛ばした。いわゆる投げ斧。それが回転しながら、2人の前に飛んでくるのだ。
「オラ! 石の壁で防いでやる!」
朝陽がパンと手を叩くと朝陽とヒルトの目の前に1つの巨大な石の壁が出現した。オウギが放り投げた石斧は石壁の前に阻まれて、朝陽たちのところまで届かなかった。
「ぐ、ぐぬぬ……」
「もう諦めたらどうだ? お前に勝ち目はないぞ」
「う、うるせえ! オンナだ! オンナを食いたい! 俺はオンナを! オンナを食うんだああ!!」
オウギは巨大な石壁に向かって両手の拳を突き立てた。するとオウギはその石壁を吸収して、身の丈1メートル半ほどもある巨大な斧に変換したのだ。朝陽が創造した石壁を逆に利用するという離れ業をやってのけたのだ。
「わお。これはちょっとまずいかも」
「創造神様。どうしますか?」
オウギは巨大な斧をいともたやすくブンブンと振り回している。そして、周辺の木々を次々に伐採していく。環境破壊もいいところだ。朝陽がせっかく創り出した美しい自然が台無しである。
「ぐへへ。まずはキサマらを切り刻んでやる。オトコを食っても美味くねえからな。ただ、エルノスなら好き嫌いせず食うだろう。お前らはエルノスの餌にしてやる」
「エルノス? なんだそれは?」
「へへへ。俺の可愛い可愛いペットさ。山のように大きいトカゲだ。そいつもニンゲンが大好物でなあ。俺が食い残したニンゲンのオンナを食わせてやってんだ」
オウギは下卑た笑い声をあげた。
「あー。そうか。そいつも人間食うのか。それじゃあ、そいつも討伐対象だな」
「ですね。創造神様」
「ほざけ! キサマらはエルノスの前にこの俺に敗れ去るのだ!」
「伸びろ! インティワイラ!」
ヒルトが念じると、インティワイラが伸びて、オウギの腹部を思いきり貫いた。オウギは突然のことに戸惑っている。まさか、槍が伸びるとは思いもしなかったからだ。完全に虚と腹部を突かれたオウギ。口から血を吐き、ヒルトと槍を交互に見る。
「あ、が、て、てめえ……それ、反則……伸びるなら先に言え……がは」
ヒルトは槍を元の大きさに縮小させた。槍を腹部から抜かれたオウギはその場にパッタリと倒れる。
「勝負ありだな。流石はヒルト」
「いえ。戦闘でくらい活躍しないと。俺にできることは、それくらいしかないんで」
オウギはもうぐったりとして動かない……そう思っていた矢先のことだった。オウギが地面を力強くボンと叩いた。次の瞬間、オウギはゆっくりと立ち上がった。
オウギの腹部が石で覆われている。石を詰めて出血を防いでいるのだ。これにより、オウギは延命を図っている。しぶとい。フラれても諦めない身の程知らずのおじさんくらいしぶとい。
「この怪我だ……俺はもう助からないだろう。だが、お前を道連れにしてやる!」
せめて一矢報いたいその思いが、オウギを突き動かしている。けれど、オウギはもう瀕死の身。もう長くは戦えない。戦いの結果は火を見るより明らかだ。
その時だった。ズシン。ズシン。と大きな足音が聞こえてきた。その足音はだんだんとこちらに近づいてきている。
オウギはその足音を聞いた瞬間、先程までの絶望して憔悴しきった顔から一転希望に満ちた顔に変わった。
「な、なんだこの足音は」
「く、くくく。残念だったな。お前らはもう終わりだ。エルノスが目覚めたのだ」
森の陰からアフリカゾウより一回りほど巨大な肉食恐竜がひょこっと顔を出した。これがオウギが言っていたエルノスだ。
エルノスは瞳をぎょろっと動かして、朝陽、ヒルト、オウギの順番にじっくりと見た。
「エルノス! こいつらを食ってしまえ!」
オウギは朝陽とヒルトを指さしてそう言った。しかし、エルノスはオウギの命令を受けても微動だにしなかった。
「どうしたエルノス! 俺の言うことが聞けないのか!」
「うん。そうだよ。あなたはもういらない」
それだけ言うとエルノスは発達した腕を使い、オウギを持ち上げた。
「な、なにをする! エルノス! や、やめろ! 俺はお前の飼い主なんだぞ!」
「うん。ついさっきまではそうだったよ。オウギは餌をくれるいい人だった。でもね。オウギ。僕はもうお腹ぺこぺこなんだ。だから一番弱っているあなたを食べさせてもらうね」
「や、やめろ! エルノス!」
エルノスは大きな口を開けて、オウギの頭をパックリと飲み込んだ。バリボリと硬いものを砕くような咀嚼音が聞こえる。オウギの骨がバリバリとおせんべいを咬むかのような要領で食べられているのだ。
オウギの骨は人間よりもかなり硬い。けれど、エルノスはその発達した顎と丈夫な歯でそれすらも噛み砕く。
モンスターがモンスターを食べている。それだけなら弱肉強食の範疇で済む話だ。けれど、オウギは人間型のモンスターで、人語も理解している。それなのに、あっけなく食べられていく様を見るのは、気分がいいとは言い辛い。
頭、胴体、腕、腰、足とエルノスはオウギを次々にバリバリと噛み砕いていく。最早、エルノスにとって、オウギはおやつでしかないのだ。お腹がすいた。たったそれだけの理由で、オウギはエルノスに食べられてしまったのだ。
「ぷはー。僕はもう満足なんだな。うーん。オウギも美味しいっちゃ美味しいけど、やっぱり一番美味しいのは人間だね」
エルノスが朝陽とヒルトの方を向いてニヤリと口角を上げた。朝陽とヒルトに緊張が走る。このモンスターは先ほどのオウギに比べて体も巨大だし、かなり強い。戦って勝てるのだろうかと思わず思ってしまうほどだ。
「んー。そんなに睨まないでよ。僕はあなたたちと戦うつもりはないんだ。今はそんなにお腹空いてないしね。あなたたちは見たところ強そうだし、戦う意味はないよ」
なんとも間の抜けたキャラクターだと朝陽は思った。口調こそフレンドリーな感じがするが、やっていることは飼い主を食べるというえげつない行為をしている。
「それに、どうせ同じ食べるんだったら、弱い固体を狙った方がいいからね。強かろうが弱かろうが味にそう変わりはないし。そういえば、この山の麓に集落があったんだよね。そこに行って人間どもを食べようかな」
この山の麓の集落。ヤマの集落のことだ。エルノスはそこに行き、人間たちを食べると言い出したのだ。
「悪いけど、それは見逃せないな」
ヒルトは槍を構えてそう言い放った。
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