第14話 レンガのお家
酋長と話を付けた朝陽は、明朝に霊峰ミヤマに向かうことになった。つまり、今日はヤマの集落に泊まるということだ。朝陽は酋長と対立している関係上、泊めさせてくれる家はどこにもなかった。
ということで、マーヤの家に泊まることになったのだ。だが……
「なにこれ……」
マーヤはただ茫然と立ち尽くしていた。マーヤは崩れ去っている藁の塊を前に絶望した表情を見せている。
「これがマーヤの家か?」
どう見てもこれは家と呼べる形状ではない。何者かがマーヤの家を壊した。そういう風にしか見えない。マーヤはどの道、この集落から出ていく身だ。だけれど、この扱いはいくらなんでもあんまりすぎると朝陽は思った。
今日までは集落の民でいられるのに、なにも今日家を壊すことはないじゃないかと憤りを覚える。
「どうしよう。私、今日泊まる家がなくなっちゃった。このままじゃ野宿だよ。いや、私はどうでもいい。ライズ様を……創造神たるライズ様を野宿させるわけにはいかない」
マーヤの顔は真っ青になっている。朝陽の方を見て心底申し訳なさそうにしている。
「ああ。気にしないでいいよマーヤ。俺を誰だと思っている?」
朝陽はマーヤの肩にポンと手を置いた。そして、その後自身の手を叩くと、朝陽の目の前に煙突付きのレンガ造りの家が出現した。
「え、な、なんですかライズ様これは」
「俺は創造神だ。いくらでも家を造ることができる。藁の家に住む子豚たちに、俺たちのレンガの家を見せつけてやろうぜ」
マーヤが初めてみるレンガ造りの家。恐る恐るマーヤはレンガに触れてみる。
「わ、わあ……硬い。藁の家なんかよりも丈夫でいい家だ」
◇
ポアロンは上空を飛んでいた。セイントパークに降り立つ時にはぐれてしまった朝陽を捜すために上空を見下ろしていた。
ポアロンは朝陽に仕える身。もしも朝陽の身になにかあれば、死んでも死にきれない。腹を切って自害する覚悟でいるのだ。
「創造神様! どこですか! 創造神様!」
ポアロンが飛行していると集落が見えてきた。そこの集落に一際目立つ赤みがかったくすんだ茶色の建物を発見した。
「むむ。原始人には造れないレベルのセンスある建物。あれは間違いない。創造神様がお造りになったものだ! ということは、あの建物に創造神様がいるのか!」
ポアロンは急降下してレンガ造りの建物に向かった。そして、扉の前に立ち、羽でコンコンとノックをした。
しばらく待っていると、朝陽が扉を開けて出てきた。
「創造神様! やっと見つけましたぞ!」
「ポアロン! おお。俺を捜してくれてたのか? ありがとう。心配かけてすまなかったな」
「いえ。創造神様に仕える神獣として、創造神様を全力でお捜しするのは当然のことです。それより、お怪我はありませんか? 体調が優れないところとかありませんか?」
「おいおい。大袈裟だな。そう簡単に傷病を患うほど柔な体じゃないぞ」
朝陽は笑いながらそう言い放った。
後ろから、マーヤがひょこっと顔を出した。媚び媚びの美少女ボイスで喋る白い鳥が珍しいのだろう。興味深そうに見ている。
「なんだこの女は。わたくしの方をじろじろと見て。失礼なやつだな。名を名乗れい!」
「ライズ様。なんですかこの鳥。見た目と声は可愛いのに、態度が全然可愛くないです」
マーヤはポアロンを上げつつも棘を刺す発言をした。ポアロンは喜んでいいのやら怒っていいのやらわからない複雑な感情を抱いた。
「ああ。この子はマーヤだ。例の霊峰ミヤマに現れたモンスターの生贄に選ばれた子だ。つまり、俺らはこの子を守るために戦うんだ」
朝陽は真顔でそう言った。
「なんとこの失礼な小娘が生贄とな……ふむふむ」
ポアロンはマーヤをじっと見つめた。
「なにこの鳥。自分だって、私のことをじっくり見てるじゃない」
「なにを! この小娘が! わたくしは創造神様に仕える神獣ポアロンだぞ! 要は神だ! 偉いのだぞ」
ポアロンは胸を張る。創造神に仕える神獣という単語を聞いて、マーヤの顔が青ざめていく。
「え、ええ!? そ、そうなんですか。すみませんポアロン様。知らないこととは言え、とんだご無礼な発言をしてしまいました。どうかお許しください」
マーヤは深々と頭を下げた。その様子を見て、ポアロンは得意気になった。
「うむ。わかればよろしいのだ。運が良かったな小娘よ。わたくしは寛大な心を持ち合わせている。貴様の非礼を許そう」
「あはは。まあ、いつまでも玄関で立ち話も難だし、ポアロンもこの家にあがってきなよ」
「おお、創造神様がお造りになったお屋敷。そこに入れて頂けるとは光栄。では、お邪魔致します」
ポアロンは家の中に入り、羽を使って器用に玄関の扉を閉めた。
「待ってろポアロン。今止まり木を作ってやるからな」
朝陽が手を叩くと、えんじ色のソファーの横に止まり木が出現した。そして、朝陽は止まり木の隣にあるソファーに座る。
「おお。ありがとうございます。では失礼いたします」
ポアロンは止まり木の上に止まった。そして、マーヤも朝陽と向かい合う形になってソファーに座った。
「ライズ様。凄いですね。この空間。これが神様にとっての家なのですね。私たちが今まで家だと思っていたのは家ではなかったのですね。ただの猿小屋です」
「そうだぞ。創造神様は物をお造りになる力を持っているだけではなく、センスも抜群なのだ。この家も一目見ただけで創造神様がお造りになったものだとわかったのだぞ」
「いや、周りが藁の家だらけでレンガの家があったら目立つだろ。それだけのことじゃないか?」
朝陽はポアロンの発言に冷静につっこみを入れる。
「なあ、マーヤ。俺たちが住む場所。ゴッドヴェイン。そこはこんな家なんかよりももっと凄い内装の場所なんだ」
「そ、そうなのですか! これよりも凄いのですか。想像もつきませんね」
マーヤは純粋な驚きを隠せない。自分の今までの人生の中で今日ほど驚きに満ちた日はないだろうとマーヤは思った。
「まあ、今の外装は豆腐だけど……でも、いずれテーマパークのお城にも負けないくらいの外装にしてみせる」
「外装が豆腐……?」
マーヤは豆腐の意味がよくわかっていないようだ。豆腐とは建築ゲーム用語で、立方体、もしくは直方体の外見の家のことを指す言葉だ。建築初心者にありがちなものなので蔑称として使われることもある。
「でも、このレンガ造りの家は見事ですよ。創造神様。三角屋根で煙突もあり、豆腐とは一線を画す素晴らしい建築物です」
「ありがとう。マーヤは女の子だし、外装にもこだわったほうがいいかなって。まあ、ただの格好つけだ」
「なんですと! わたくしだって立派な淑女なのですぞ!」
マーヤだけ女の子扱いする朝陽に対して流石のポアロンも少し怒っているようだ。
「あはは。そうだったな。ごめんポアロン」
「あ、いえ。すみません創造神様。創造神様に謝らせるなど、出すぎた真似を」
ポアロンは逆に恐縮してしまっているようだ。
「あ、そうだ。ポアロン。ヒルトは見なかったか?」
「ヒルト? ああ。今頃、ハンの集落にいるんではないでしょうか。わたくしと同じく、ハンの集落に降り立ったのですよ奴は」
ポアロンは当然かのようにそう言い放った。
「えー。一緒に行動しなかったのかよ」
「はい。わたくしにはヒルトに構っている時間などありませんでしたから。創造神様をお捜しするという大切な任務がありました故に」
「まあ、でもいる場所がわかっているならいいか。ヒルトもこのヤマの集落にやってくるだろう」
「ヒルト? 誰ですかそれは」
「無礼な原始人だ」
マーヤの疑問に対して、ポアロンは適当な返しをする。
「ポアロン。そういう適当なこと言ったらダメだぞ。ヒルトは俺たちの仲間だ。つまり、ヒルトも神だ。ヒルトは太陽を司る神で、かなり強いぞ。まあちょっと天然入っていてドジな面もあるけれど」
「ヒルト様も神様なのですね」
「あんな奴に様などいらん。様を付けるのは創造神たるライズ様とわたくしだけで十分だ」
ポアロンの発言にはマーヤも苦笑いするしかなかった。ポアロンとヒルトの仲は相変わらず悪いようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます