第9話 神の居城 ゴッドヴェイン

「さて、腹ごしらえも済んだことだし、次は俺たちが住む場所を創るか。流石に野宿生活は嫌だからな」


 朝陽は手で手をポンポンと払い、そう言った。それに対して、ヒルトは目を輝かせた。


「おお! ついに我々の住む場所を創るのですね! 藁を大量に刈ってきましょうか?」


「なんで藁造りの家なんだよ。もっと豪勢な家にしようぜ。どうせ素材は俺の創造神の力で無制限に出せるんだ。床も壁も天井も一面大理石でさ。高級感溢れるものにするんだ」


「大理石? なんですか? それは」


 藁の家が主で、更に洞窟暮らしの民までいる原始人のヒルトはまだ大理石を知らない。ヒルトの地域では、大理石を産出できる土地ではないというものあるが。まだまだセイントパークの建築技術というか文明レベルは低いのだ。


「全く、大理石も知らないのか。この原始人は。いいか。大理石とは創造神様が元いた世界にあった石の一種だ。石灰岩が変質した結晶で、建築や彫刻などに使われる貴重な石なのだ。その貴重な石を創造神様はいくらでも出せるのだぞ。もっと敬え」


 ポアロンは呆れた様子でヒルトを目をやり、解説をした。


「へー。そうなんだな。解説ありがとう鳥公」


「誰が鳥公だ! わたくしは創造神様の使いにて聖なる神獣なのだぞ! 位としては神に匹敵するくらい偉いんだぞ! それを貴様は!」


「神に匹敵するくらい偉いって言っても、俺も神だし。ほとんど対等みたいなもんだろ」


「ぐぬぬ。ああ言えばこう言う。いいか! 神歴はわたくしの方が長いんだぞ! それを貴様は! 大体にして貴様のその格好はなんだ! 干し草で作った服を着ている分際で神を名乗るなんて恥を知れ!」


「いや。着ているもので言ったら、お前は全裸だろ」


「わたくしは鳥だからいいのだ!」


 2人の会話を聞いて、朝陽は考え事をしていた。それは、ヒルトの服装についてだった。確かに、ヒルトはまだ文明レベルの低いセイントパークでは浮いていない恰好だろう。しかし、ここ神界においてはこの格好のままでは色々と問題があるだろう。流石に朝陽の服装に比べて、いくらなんでも酷すぎる。


 朝陽は紺色のTシャツにライムグリーンのパーカーを羽織っていて、下は灰色のスラックスだ。せめて、これと似たような服は用意してやりたいと朝陽は思った。


「よし。じゃあヒルトに服を作ってやるかな。ヒルトは髪色がオレンジだから、それに合わせてやるか。オレンジの補色は青だったかな。じゃあちょっと青のジャケットでも着てみるか?」


 朝陽はヒルトのサイズに合う白いTシャツ、青いジャケット、青いジーンズ、トランクスを作り出した。


「おお! 創造神様。これはなんですか?」


「俺からヒルトへプレゼントだ。この服を着るといい。少しは文明人らしくなるだろう」


「わかりました。早速着てみます」


 そう言うとヒルトは干し草でできた衣服を脱ぎ捨て、裸になった。


「おいおい。なにも堂々と着替えなくていいだろ。その辺の物陰に隠れてもいいんだぞ」


「流石原始人。恥の概念が存在しない。淑女たるわたくしの前で粗末なものを見せるでない!」


 朝陽とポアロンはヒルトの行動に呆れながらも、その動向を見守った。ヒルトは問題なく衣服を着用し、現代人らしい恰好になった。


「おお、中々似合ってるじゃないか。ほら、自分の姿を見てみろ」


 朝陽は姿見を作り出して、ヒルトの姿を映し出した。ヒルトは着替えた自分の姿をまじまじと見つめた。


「うん。創造神様みたいな恰好だ。俺に服をプレゼントしてくれて、創造神様ありがとうございます」


 ヒルトはぺこりと頭を下げた。ヒルトに喜んでもらえて朝陽も嬉しかった。


「さて、ヒルトの着替えも終わったし、今度こそ本格的に俺たちの城を造ろう」


 朝陽は机に座り、紙に豪邸のイメージ図を書いていく。


「うーん。豪邸って言うくらいだから、テニスコートとかも欲しいな。プールも欲しいし、ジャグジー風呂なんかもつけたい。というか、俺テニスもできないし、泳ぎも苦手なんだけどな」


「あはは。創造神様も泳げないんですか? 実は俺もなんですよ」


「む、失敬な。クロールくらいはできるぞ! 25メートル程度なら頑張れば泳げる! 平泳ぎと背泳ぎはできないけど」


「そうだぞ。創造神様を侮るなよヒルト!」


 なぜかポアロンがイキりはじめた。他人のしかも25メートルしか泳げないという功績で。


「うーん。ダーツやビリヤード、ボウリング場も作りたいな。シアタールームも欲しいし、コンサートホールなんかも造りたい。音楽の神々を集めて、そこで演奏会をする。とっても楽しいと思わないか?」


「いいですね。流石創造神様。センスの塊! 行動力の化身! 正にそういった芸術性のあるものが必要だとわたくしも思っていたところですぞ」


「創造神様の言っていることの半分も理解できてないけど、俺はいいと思います」


 朝陽は自分が住まう城のイメージをした。まず門から入って、最初に見える光景がなにかを考えた。高い天井に吊るされたシャンデリア。赤いカーペットが敷かれた階段。それが目の前にドンと出てきたら迫力があると考えた。


「よし。とりあえず、ファーストフロアのイメージは決まった。俺のイメージを具現化するイメージ。この広い空間に、俺の理想の城を創る!」


 朝陽の目の前に巨大な建造物が出現した。その建造物はまだ四角形の形をしている単純な構造物だ。建築ゲームの専門用語でいう所の豆腐ハウスと揶揄やゆされるほどのものだ。ただ、巨大な直方体に豪勢な城門が付けられているといういびつな形のものだ。


「細かい外観のディテールは後で凝るとして、とりあえず、中身はイメージ通りに創れたはずだ。とりあえず、入ってみようぜ」


 朝陽はライオンの頭部を模した門扉錠を手に取り、扉を開けた。中は朝陽が先程イメージした通りの内容に仕上がっていた。中央には階段があり、左右にはそれぞれ、4つずつ計8つの扉があった。


「おお! こ、これが神が住まう場所ですか。俺の住んでいた藁の家とは全然違いますね」


「藁の家と比較するなよな」


 朝陽は笑いながらヒルトにツッコミを入れた。事実、原始的生活をしていたヒルトにとって、このようなきちんとした家というのは想像すらできなかったものであろう。


「1階の右側はそれぞれ手前から、食堂、酒が飲めるバー、ダーツやビリヤードがある遊技場、銭湯となっている。左側は、図書室、訓練場、倉庫、男子トイレと女子トイレがある」


 朝陽はそれぞれの施設を説明した。ヒルトは興味津々と言った感じでそわそわとして落ち着かない様子だ。


「そして、2階にも同じように8部屋ある。ここは主に寝泊まりする場所だな。それぞれの神に個室を与えることにする。ヒルト、ポアロン。お前ら好きな部屋取っていいぞ。俺は後でいい」


「なんとお優しい。流石創造神様。わたくしめは感動いたしましたぞ」


「創造神様。鳥公に部屋を与えるのってなんか勿体なくないですか?」


「こらー! ヒルト! 貴様、なにを言うか! 折角の創造神様のご厚意になんてことを言うのだ!」


 ポアロンは羽をバタつかせて憤慨した。


「あはは。まあ、その気になればいくらでも増改築はできるからな。部屋に勿体ないもなにもないさ」


「流石、創造神様。懐が深い。どこぞのオレンジ髪の原始人とは大違いですな」


「うるせえ! 焼き鳥にして食っちまうぞ」


 2人が仲良く争っている様子を見て、朝陽はけらけらと笑った。


「うーん。そうだな。折角だし、この拠点に名前を付けるか……神の居城。ゴッドヴェインなんてどうだろうか」


「おお! 流石創造神様。ネーミングセンスが光りますな」


「そうかな……ごふ」


 朝陽のネーミングセンスにケチを付けようとしたヒルト。そのヒルトの鳩尾をポアロンが翼で打った。


「よし、決まった! 俺たちの拠点の名前はゴッドヴェインだ!」

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