第6話 操縦機神ゴーン・ゴーレム

「小僧。貴様は知らんかもしれんがな、魔法の力とは即ち想像の力。想像が創造する奇跡の力なのだ!」


 ゴーンは集中力を高めた。自身の脳のリソースをイメージすることに注ぐ。そして、そのイメージ力がゴーンの限界に達した時、奇跡が起こった。


 地割れが起こり、そこにゴーンが吸い込まれる。そして、地面に飲み込まれたゴーンは周囲の土を自由に形成させて巨神兵を創り出した。


 身の丈5メートル程はある巨大な人間を模した土人形。先程、ゴーンが自身の部下を生贄に捧げて作り出したゴーレムとは違う。中に人が入れるほどのコックピットがあり、ゴーンはそこに格納されて生存していた。


「くくく……貴様の仲間は創造神とか言ったな! 今すぐその名前を返上することだな。余こそが創造神。この操縦機神ゴーン・ゴーレムを創り出せたことが何よりの証拠だ!」


 ゴーレムの口部分から、ゴーンの声が反響して聞こえる。その声を聞いてヒルトは耳を塞いだ。


「あー。うるせえな。そんな土人形を作れたくらいでイキるな。創造神様は山や森を創り出せたんだぞ」


「はん。ハッタリを! そんなことできる人間がいるものか!」


 ゴーレムは右手をヒルトに向かって振り下ろした。もの凄い風圧がヒルトにかかる。その風圧だけで吹き飛ばされてしまいそうなほどの威力だ。ヒルトは避けることをせず、その場にしゃがみこんだ。


「ははは! 滑稽だな! その場にしゃがみこんで命乞いか! だが、もう遅い! 拳は急に止まれん! このまま、すり潰してくれよう!」


 ゴーンは笑いながら拳を下す。もう避ける動作をしても間に合わない。ヒルトはこのままだと潰されてしまう。


「大地よ……我に力を!」


 ヒルトは自身の魔力を地面に込めた。すると地面から拳の形をした土が隆起する。ヒルトの作り出した拳とゴーレムの拳がぶつかる。


「うお!」


 衝撃を受けたゴーレムは思わずよろめいてしまった。ヒルトの作り出した拳は耐久力がなかったために、衝撃に耐えきれずに粉々に砕け散ってしまったが、役目は十分果たした。


「槍を超高速で伸ばすイメージ!」


 ヒルトは自身の槍にイメージと魔力を籠めた。槍はそのイメージに呼応して、柄がチーター並の速さで伸びていく。槍の刃先の向かう先はゴーレムの首だった。


 ゴーレムの首部分がヒルトの槍に思いきり貫かれる。ゴーレムの首はその衝撃に耐えられず破壊されてしまう。そのままゴーレムの頭部が、木に実った熟しすぎた果実のようにポロっと地面に落ちる。


 地響きが鳴る。ゴーレムの頭部の重量は相当あったらしく、落ちた箇所の地面に大きなヒビが入る。


 ヒルトは槍に魔力を供給するのを中断した。魔力の切れた槍は、伸びた状態を維持できないのか元の大きさに戻る。


「頭討ち取った!」


 ヒルトは勝利を確信した。ゴーレムの頭部を破壊したからだ。頭部を破壊されて生きている人間がいるわけがない。


 そう、ヒルトは今最高に油断している。その油断が命取りとなった。


 ゴーレムの右手がガシっとヒルトの胴体を掴んだ。


「な!」


 ゴーレムは……ゴーンは、まだ生きていた。


 ゴーレムは所詮土人形にすぎない。人体を模しているだけで、人体の機能を再現しているわけではない。人体にとっては頭部が重要だけれど、ゴーレムにとっては頭部はどうでもいいのだ。ゴーレムの急所。それは動体にある魔力動力源コア。確実に機能停止に追い込むにはそこを破壊するしかないのだ。


 そして、このゴーン・ゴーレムのコアに当たるものはゴーン自身。つまり、ゴーン・ゴーレムの中にいるゴーンを殺さない限り、このゴーレムは無限に魔力が供給されるのだ。


 ゴーンはコックピットの中でゴーレムに魔力を籠め続ける。右手に魔力を集中させてパワーをどんどん上げる。そして、ゴーレムの握力を持ってヒルトを握りつぶそうとしているのだ。


「くくく! どうした小僧よ! さっきまでの威勢がないようだな!」


「がは……」


 ヒルトは万力のような力で胴体を締め上げられている。ゴーレムのパワーはどんどん上がっていき、このままではヒルトの胴体は粉砕されてしまう。


「小僧! 貴様は殺すのに惜しい逸材だ。どうだ。余の配下にならぬか? さすれば命だけは助けてやろう」


 ゴーンからの申し出。ゴーンはヒルトの能力を高く評価していた。敵ながら殺すのは惜しい相手。そう認識させるには十分すぎるほどだった。


「余は神だぞ。神の使いになれることを光栄に思うがいい。今ここで降伏すれば、余に刃を向けたことも許そう。余は寛大だからな」


「お前は……みんなを殺した! サエカの故郷の人々も根絶やしにした! そんな人を救えない奴が……神を名乗るな!」


 ヒルトの答えは決まっていた。誰が、自分の仲間たちを殺したやつの配下になどなるのか。


「そうか……残念だ」


 ゴーレムの握りつぶそうとする力がより一層高まる。ヒルトの意識が薄れる。最早死を覚悟したその時だった。


「よく言ったなヒルト。それでこそ、創造神おれ御子みこだ!」


 声が聞こえた瞬間、森にあった大木が地面から抜け出てきた。根が足になり、枝が手になり、人の形を形容するようになった。そして、その木人と化した生命体がゴーレムに向かって思いきりパンチを繰り出した。


 ゴーレムはその攻撃を受けて、転倒する。当然、力もなくなりヒルトを握っていた手が緩む。ヒルトはその隙に素早くゴーレムの腕から脱出して、地面へと着地した。


「バ、バカな! 一体どうなっている。木が動いた……人の形に変形しただと!」


「こんなことができるのは1人しかいない! 創造神様!」


 木人の左肩の上に朝陽が乗っていた。朝陽はヒルトが時間を稼いでくれたお陰で魔力を回復できたし、魔力をコントロールするすべも身に着けることができた。


 この森は朝陽が創造したもの。ならば、この森は朝陽の魔力次第で如何様にも動かせるようになるのだ。


「すまない。ヒルト。助けに入るのが遅れた。そのせいで、お前の仲間は……」


「いえ。悪いのは全てゴーンだ! 」


 ヒルトは倒れているゴーレムを睨みつけた。そして、ゴーレムに向かって走り出す。


 ゴーレムの上に飛び乗ったヒルトは、槍をゴーレムに向かって突き刺そうとする。


「お、おい! なにをする! や、やめろ!」


 ゴーンは必死でヒルトを説得しようとする。しかし、ヒルトの心は決まっていた。


「この俺が! ハンの戦士! ヒルトが! 創造神様に変わって! 貴様に鉄槌をくだす!」


「や、やめろおぉ!」


「どっせい!」


 掛け声と共にヒルトはゴーレムの胴体に向かって槍を突き刺した。槍は貫通して、コックピット内にいるゴーンの胴体を貫いた。ゴーンは魔法が使えるだけで普通の人間と変わらない。胴体を貫かれて生きていられるほど頑丈ではない。


 今度こそゴーレムはピクリとも動かなくなった。そして、しばらくすると魔力が切れたゴーレムは消滅して、中から息絶えたゴーンが出て来るのであった。


 ヒルトはゴーンの遺体を一瞥し、彼から背を背けた。そして、天に向かって両手を突き上げた。その後、目を瞑りなにかブツブツと唱え始めた。


「どうしたんだヒルト?」


 朝陽はヒルトに話しかけた。


「ハンの戦士のみんなの冥福を祈っているんです。ハンの集落はこうして死者を弔うのです」


「そうか……俺もやっていいか?」


「はい。お願いします。その方がみんなも喜ぶと思います」


 朝陽はヒルトと同じように天に向かって両手を突き上げて、彼らの冥福を祈った。勇敢に戦って散った戦士たち。彼らの尊い犠牲があったからこそ、今回の戦いに勝利することができた。

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