第5話 覚醒の太陽の勇者
創造神サイドの前線が崩されても、ゴーンのゴーレム軍団の猛攻は続いていく。朝陽が作り出した森を我が物顔で歩くゴーレム軍団。一歩一歩ごとにドシンドシンと足音を立てて進んでくる。
「なんだ……あのゴーレム軍団は」
木の上にいた偵察部隊のヒルトは遠目で見えるゴーレムを見て、ある1つの疑念を抱いた。
この地点は前線部隊を倒さなければ来れないはず。なのに、このゴーレムたちはそれを突破してここに来ている。
ということはあのゴーレムたちは前線部隊を……ハンの集落のみんなを殺してここまで来たということだ。
「あ、あ……!」
ヒルトは森中に響きわたる声で叫んだ。折角、静寂な森で隠密行動しているのに、これでは自分がこの位置にいるとバラしているようなものだ。
当然ヒルトの叫び声をゴーレムはキャッチする。真っすぐ進行していたゴーレムたちはヒルトがいる方向に進行方向を変えた。
「バカ! なにをしている下賤な人間よ!」
ポアロンがヒルトの方にやってきた。元々、前線部隊がやられたことを報告するつもりでいたのだけれど、タイミングが一歩遅かった。
「アイツが! アイツらが! 俺の! 俺たちの仲間を! よくも! よくもおお!!」
ヒルトは自身の魔力を全開放した。ヒルトはとんでもない量の魔力を秘めている。それはもう、人間の限界を超えていると言ってもいい。だが、ヒルトはその魔力を操るだけの
ただ単に原生的なイメージを魔力に乗せてぶつけているだけ。石と木を加工して弓矢を作って飛ばすのが理想的な魔法のイメージだとすると、ヒルトの魔法はただ、石や木をそのまんま投げているだけなのだ。
「落ち着けヒルト。貴様の魔力の量は確かに凄い。けれど、貴様の魔法はまだ粗削りの段階なのだ。イメージ力もコントロール力も足りない。魔力が大きいだけでは真に強力な魔法は撃てない」
ポアロンは必死でヒルトを説得する。しかし、ヒルトは聞く耳を持たなかった。
「俺、イメージできたよ。創造神様のお使いさん。あいつらをぶっ殺すイメージがよォ――!」
「待て、ヒルト! お前まで死んでは創造神様に顔向けができん! お前はこれから伸びる貴重な逸材なんだ。こんなつまらない戦いで失うわけにはいかん!」
ポアロンの言葉にヒルトはピクリと反応した。
「つまらない? つまらない戦いだと! 戦争につまらないもクソもあるか! いつだって戦士は本気で戦うんだ! それがハンの集落に生まれた者の矜持! 村の戦えぬ者を守るため全力を尽くす! 仲間の仇を全力で討つ! それがハンの戦士なんだ!」
ヒルトは集落のみんなからバカにされていた。けれど、そんな仲間のことを嫌いになったりはしなかった。無能なのは自分のせい。むしろ嫌気がさしていたのは自分の無力さの方だった。けれど、自分は新たに力を得た。魔法という力。この力があれば自分を変えられる。そう思っていた。
けれど、結果は変わらなかった。ヒルトは魔法が扱える組なのに、前線部隊に立てなかった。これは、ポアロンがヒルトを守るためにあえて前線に配置させなかったのだ。ヒルトが最も将来性があると見越してのことだった。けれど、ヒルトは自分に能力がないから、前線部隊にいられないと思い込んでいた。
前線部隊の仲間たちはいわばヒルトの目標であり憧れであったのだ。その憧れの存在を一方的に蹂躙して殺したゴーレム軍団。ヒルトはそれを許せるはずがなかった。いつか、実力で追いつきたかったのに。死んでしまってはもうそれが叶わない。
ヒルトの思いが具現化する。ヒルトのイメージしたもの。それは、赤い槍を持った戦士。ヒルトの手には赤き槍が握られていた。
「な、そ、それは……イメージで創りだしたと言うのか! 自然現象の再現ではなく、武器の具現化だと! そんなことができるのは神レベルのイメージ力を持つ者だけ。やはり、ヒルト。貴様は……いや、貴方は神の器に相応しい。主である創造神様を支える柱になって頂きたい」
「本当か? 俺、本当に創造神様のお力になれるのか?」
「ああ。わたくしが保証しよう。貴方は創造神様を支える
その言葉を受けて、ヒルトは照れ臭そうに笑った。
「ああ。生きてて良かった。創造神様のお力になれるなんて。だが、まずはこの戦いを終えてからだな! ポアロン様。俺はあのゴーレム軍団を殲滅してくる」
「ああ。行ってくるがいい。今の貴方ならそれだけの力がある」
「ありがとう」
それだけ言い残すとヒルトは大きく跳躍してゴーレム軍団のところに向かっていった。
◇
「おい! そこのでくの坊たち。止まれ」
ヒルトはゴーレム軍団の前に立った。そして、槍を構えてゴーレムに向ける。
「オ……オォ……」
最前線に立っていたゴーレムはヒルトを見て、思いきり拳を振り下ろす。ヒルトはそれを軽やかな動きで回避した。今までの鈍臭かったヒルトとは違う。正に神として生まれ変わったヒルトの動きだ。
「ていや!」
ヒルトは槍を思いきり振り、ゴーレムの足をを薙ぎ払った。足を損傷したゴーレムはその場に倒れこむ。
「そいや!」
続けて2連撃目。ゴーレムの瞳に向かって、思いきり槍を突き刺した。攻撃を受けたゴーレムの目が白く濁る。そして、そのままゴーレムは身動き1つしない土人形になってしまうのであった。
「まだまだ!」
ヒルトは続けて別のゴーレムに槍で攻撃を仕掛ける。ヒルトの攻撃は洗練されたものだった。流れるように2体目、3体目のゴーレムを倒してく。
「はあ!」
ヒルトが槍の刃先に魔力を籠めると槍の先端が赤く燃え上がった。この赤く滾る燃える力。それは正しく太陽を名乗るのに相応しいものであった。
「我は太陽の勇者ヒルト! この太陽の槍で貴様を焼き尽くしてやる!」
勢いづいたヒルトは次々にゴーレムを破壊していく。魔法で具現化した武器を扱うのにはかなりの魔力を必要とするのだが、ヒルトは膨大な魔力を有しているので魔力切れの心配はなかった。
戦いが始まってから数十分が経ったころだろう。ゴーレム軍団はたった1人の戦士によって壊滅させられてしまった。
それが太陽の勇者ヒルト。神にも匹敵する実力を持つ者であった。
その様子を見ていたゴーンは戦慄した。彼はゴーレム軍団の最後尾にいた。木の影に隠れて様子を見ていたのだが、たった1人の力でゴーンの造りだした最強のゴーレム軍団が全滅するとは夢にも思わなかったのだ。
ゴーンの本能が告げている。こいつには勝てない。今は逃げた方がいい。ゴーンは逃げ出そうとする。しかし
「逃がさん……お前だけは!」
ヒルトはゴーンの気配に気づいていた。そして、ゴーンに向かって全速力で走り出した。
「ひ、ひい……」
ゴーンも死ぬ気で走った。僅かながら、ヒルトよりゴーンの方が足が速かった。このままなら逃げきれる。ゴーンはそう確信していたのだが……
「爆速ジェット!」
ヒルトの足から炎が噴出する。その噴出したエネルギーを反動にヒルトの走行速度が飛躍的に上昇した。
「ひ、ひい! 追いつかれる!」
追いつかれる。それは語弊があった。正確には追いついたのではない。追い抜いたのだ。気づいたら、ゴーンの目の前にヒルトはいた。ゴ-ンはそのヒルトの姿を見て腰を抜かしてしまった。
「逃げるな。最後の勝負をしようじゃないか。俺とお前。どっちの魔法が優れているのか!」
追い詰められたゴーン。しかし、ゴーンは不敵に笑うのであった。
「く、くく……あはは。素直に余を逃がしておけばよかったものを! 余は神だ! 神なんだ! 負けるわけがないんだ!」
ゴーンの発言は追いつめられたから出た自暴自棄の言葉なのか。それともなにか秘策があってのものなのか。
どちらにせよ、創造神陣営と神を名乗る者の最後の戦いが今始まろうとしていた――
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