第4話 深緑の狩人たち

 ゴーンは自身の部下を連れて、ハンの集落を攻め落とそうとしていた。ところが、ゴーンはとある異変に気付く。


「おかしい。昨日まではここは見渡す限りの平原だったはずだ。なのに、なんだこの森は……」


 ゴーンの目の前にはとても深い深い森が広がっていた。一目みただけでこの森の異常性は感じ取れた。この森は生きている気がしない。森は普通様々な生物が棲みついているものだけれど。この森にはそういった気配が全くないのだ。


 ハンの集落への道のりに森はなかったはず。最初は道を間違えたかと思った。けれど、なんど確認しても道と方向は合っている。ならば、考えられる原因は1つしかない。


「あの創造神を名乗る小僧共の仕業か……」


「どうします。ゴーン様。進軍を中止致しますか?」


 部下がゴーンに進言する。しかし、それがゴーンの逆鱗に触れた。


 ゴーンは部下を思いきり殴りつけた。部下は突然のことに戸惑っている。


「ふざけるな。余の覇道に後退の二文字はないわ! 面白い。創造神とやら! 貴様のそのふざけた作戦に乗ってやろうじゃないか! みなの衆! 進軍するぞ!」


 ゴーンは部下を先に行かせて森の中に進軍していった。



 ハンの集落の戦士たちは所定の位置についていた。森の中に罠を張り、獲物を待ち構えていた。


 魔法を習得したものは戦いの準備のために魔力を練り上げて、そうでないものは飛び道具の整備をしていた。


 そして、今回の総大将を務めるのはもちろん創造神である朝陽である。朝陽が作戦を考えて、指示を出しみんなを動かしていく。責任重大な立場である。


「創造神様! 創造神様!」


 ポアロンが上空から、朝陽のいる森の奥深くへと飛び立った。


「来たか?」


「はい。ゴーンとやらが大勢の軍を率いて、やってまいりました」


「わかった。では、最前線の部隊に伝令してくれ」


「お任せあれ」


 ポアロンは朝陽の指示を受けて、最前線まで飛び立っていく。隣にいるサエカはポアロンの姿を憂いを秘めた目で見送った。


「みな様お願いします……どうか、私の家族の仇を討ってください」


「大丈夫だ。サエカ。あいつらは強い。きっとゴーンを倒してくれるさ」


「はい。きっとライズさんならやってくれると信じています」


「まあ、俺が戦うわけではないんだけどね」


 朝陽はこの森を出現させるのに魔力を使い果たしてしまった。自軍にとって有利なフィールドを展開するために必要なコストではあった。だが、朝陽の地形変動能力は天変地異を引き起こせるほど強力なものである。下手な魔法よりずっと戦力になるのだ。朝陽が参戦できないということは予想以上に痛い。



 ゴーンの部下たちがどんどん森に進軍していく。


 その気配を感じ取ったハンの集落の戦士たち。戦士たちはゴーンの部下たちに石を投げつけた。


「痛っ! 敵だ! 敵がいるぞ!」


 ゴーンの部下たちはハンの集落の戦士たちの攻撃に気づき臨戦態勢を取る。石でできた剣を抜き取り、石が飛んできた方向に進む。


 しかし、それが朝陽の罠だった。石が飛んできた方向に誘導する。そのことによって、ゴーンの部下たちの位置を確定させたのだ。


 位置を確定させれば後は、包囲網をかけることは容易。ハンの戦士たちがゴーンの部下たちを取り囲んだのだ。


「な! 貴様ら! いつの間に!」


 囲まれていたことに気づいたゴーンの部下たち。しかし、人数ではゴーンの部下たちの方が圧倒的に多い。人数的優位を活かしてゴーンの部下たちは立ちまわるつもりだった。


 しかし、この取り囲んでいるハンの戦士たちは、みんな魔法が使える。ハンの戦士たちは土の刃を作り出した。


「な! そ、それはゴーン様と同じ奇跡の力! なぜ、貴様らがそれを使える!」


「創造神様の使いに教えて頂いたのだ! 貴様らの神であるゴーンは魔法の扱い方を教えてくれなかったようだな。貴様らは信仰する神を間違えたのだ!」


 ハンの戦士たちは土の刃をゴーンの部下に向かって飛ばした。刃で切り裂かれるゴーンの部下たち。最前線のゴーンの部下たちは全滅してしまったのだ。


 その様子を見ていた、別動隊のゴーンの部下たち。敵がゴーンと同じく魔法を使えることを知り、勝てないことを悟った。


「ひ、ひい! に、逃げろ! こいつらには勝てない!」


「ま、待て! ここで逃げたらゴーン様に殺されるぞ」


「ば、ばか言うなよ! ゴーンは所詮1人だ。だけれど、こいつらの方が数が多い。どっちがやばいかは明白だろ!」


 ゴーンの部下たちは一斉に逃げ出す。後ろの方でどんと待ち構えていたゴーン。逃げる自分の部下たちをすれ違う。


「な、貴様ら! 敵前逃亡するつもりか!」


 逃げ出す部下を叱咤するゴーン。しかし、部下は止まらない。


「も、もうアンタにはついていけねえよ! あんな化け物どもとは戦えねえ!」


 所詮、ゴーンは部下を恐怖支配していたにすぎない。なら、より強大な恐怖がきた時に逃げ出す部下しかいないのだ。


「はあ……所詮人間の部下は信用できん。はぁ!」


 ゴーンは魔力を込めた。すると地面が盛り上がり割れる。そして、逃げ出したゴーンの部下が地割れの下に飲み込まれていく。


「ひ、ひい!」


 部下たちは叫び声をあげて地面の下に落下してく。そして地面が閉じる。ゴーンの部下たちは全身が土に塗れてしまったのだ。


 ゴーンが指パッチンをする。すると地面から土でできた人型の巨人が次々に現れていく。


「グズ共の命を犠牲に造った土人形ゴーレム……くくく。最初からこうすれば良かったのだ。このゴーレムは余の命令ならなんでも聞く。死をも恐れぬ最強のゴーレム軍団だ!」



 悲惨な目にあっているゴーンの部下たちの一方で、ハンの戦士たちは歓喜していた。ゴーンの部下たちを退けられたことでかなりの自信がついた。


 ゴーンの軍勢は正に一大勢力だった。ゴーンは攻め落とした集落の強い戦士たちを恐怖で従わせて自らの部下にしていた。だから、彼の部下もまともにやりあったら強いやつばかりなのだ。


 その強い戦士たちを自らの手で倒したことでハンの戦士たちはかなり自信がついた。


 森の地形を活かして、鮮やかな戦術で敵を罠にかけて蹴散らしてく。正に深緑の狩人と呼ぶのに相応しいだろう。


「やったな! 俺たちは最強だ!」


「ああ。この調子でゴーンもやっつけてやる!」


 完全に調子に乗っているハンの戦士たち。だが、すぐにその自信が喪失するできごとが起こってしまう。


 前方からもの凄い音が聞こえた。巨大ななにかが倒れる音だ。その音を聞いて嫌な予感がするハンの戦士たち。その予感は的中することになった。


 前方に見えるのは木々をなぎ倒しながら進む土人形の姿があった。ゴーレム。人間とは比べ物にならないくらいのパワーを持った魔導生命体である。


「な、なんだこいつらは!」


 ゴーレムはなぎ倒した木を持ち上げて、それをハンの戦士たちに向かって投げつけた。ハンの戦士の1人が大木に直撃して、吹き飛ばされてしまった。


「ディエット!」


 前線部隊リーダーのガエルが、倒された部下の名前を叫んだ。しかし、ディエットはぴくりとも動かない。大木が顔面に直撃して、首が曲がってはいけない方向に曲がってしまっている。恐らく彼はもう助からないだろう。


「……テメェー! よくも俺の仲間をやってくれたな! 許さねえ!」


 ガエルは巨大な魔力を練り上げて特大サイズの石を自身の真上に生成した。彼の部下たちもそれに応じて、石を作り出す。ハンの集落の人間は全体的に土属性の魔法を得意としているのだ。得意の土魔法でゴーレムたちを倒すつもりでいる。


 ガエルの巨大な石を筆頭に、次々に石がゴーレムに向かって放たれた。


 これが全て命中すればゴーレムだって、倒せるはず。ガエルたちの目論見はそうだった。


 しかし、現実は厳しかった。ゴーレムは巨大な石を自身の拳で砕いたのだ。石はゴーレムに届かず、ダメージを与えることすらできなかった。


「そ、そんな……そんなバカな!」


 ゴーレムのチョップがガエルの頭部に炸裂する。その瞬間、ガエルの意識は途絶えた。


 その後もゴーレムたちの一方的な蹂躙は続いた。指揮を失ったガエルの部下たちは抵抗することも叶わずゴーレムたちに倒されていく。


 前線部隊【深緑の狩人】はゴーレムの軍勢によって全滅した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る