第2話 神はこの俺だ!

 聖園みその 朝陽あさひが創造した世界セイントパーク。5億年の間に生物は進化を繰り返していった。そして、ついに人類の祖先。原始人が誕生したのだった。


 この原始人には知能がある。当然、朝陽が理解できる言葉を喋れる。これは、創造神である朝陽の知識をベースに造られた異世界であることが起因している。


 そんな原始の世界に1人の支配者が現れた。


 大魔導士ゴーン。よわい35歳の魔導士である。魔法の存在に気づいた最初の人類でもある。


 この世界には魔法がある。それは創造神である朝陽が望んだことだからだ。しかし、ゴーン以外の人類はまだ魔法の存在に気づいていなかった。


 ゴーンは自分だけが使える魔法を使って、自らが所属する集落【邪国】の酋長しゅうちょうを殺して、自らが酋長となった。


 ゴーンの魔法は猛威を振るい、近隣の集落を次々に攻め落としていった。


 小国の1つでしかなかった邪国は今では、一大勢力になるまで成長をしたのだった。


 今日もまたゴーンは集落を攻め落とした。そして、集落一番の美人な娘を残して後は皆殺しにするのであった。


「ひ、ひい……命だけはお助け下さい」


 娘はひどく怯えている。ゴーンの魔法の力を目の前で見せつけられて、恐怖するなというのが無理な話だ。石器の武器が主流の時代に、重火器を持ちだすようなものである。


「娘よ。そんなに怯えなくてもいいではないか。余はなにも貴様を取って食おうなどとは思わない。ただ、忠誠を誓って欲しいだけなのだ」


 そう言うとゴーンは素足を娘の眼前に差し出した。


「舐めろ」


「え?」


 あまりにも野卑やひな命令に娘は固まった。その様子を見て、ゴーンは娘の顔を蹴り飛ばした。


「痛っ……」


「余の足を舐めて忠誠を誓えというのだ。誓えぬのか?」


 ゴーンの右手に石が纏わりつく。石の形はジャマダハルのような先端が鋭利なものになり、刺突するために特化した形になる。


 その石の刃を娘の首筋に当てる。


「ひ、ひい!」


「貴様はつまらん。死ね」


 ゴーンが娘の命を奪うために石の刃を動かそうとした、その時だった。天から一筋の光が降り立ち、そこに1人の青年と1羽の鳥が現れた。


「おー。ここが俺が造った世界か。なんか焼け野原って感じだな。こんなところに本当に人が住んでいるのか?」


「創造神様。第1村人発見です。あそこになにやら揉めている男女がいますよ」


 ゴーンは固まった。わけのわからない男に、しゃべる鳥が現れて困惑している。


「な、何者だ貴様!」


「いや、お前が誰だよ。俺に向かって無礼だろ」


 朝陽は創造神たる自分に対して、下民が偉そうな口をきいているのが納得できなかった。いわば、朝陽はゴーンの生みの親である。親である朝陽に対して、随分な物言いだと憤慨している。


「ふっ……余の名を知らぬと申すか! 面白い小僧だな。余の名はゴーン! この世の真理を知り尽くした神なのだ!」


 ゴーンは自身の言葉に嘘偽りはないと思っていた。この世で唯一魔法の存在に気づき、それを操る存在になったゴーン。自分は正に天に選ばれた存在。即ち、神であると信じて疑ってなかったのだ。


「は? 神だって?」


「ふふふ。余のこの奇跡の力を見るがいい」


 ゴーンの左手に火の玉が出現した。そしてその火の玉を近くに会った岩にぶつけて、その岩を破壊してみせたのだ。


 火の玉を出すだけでも凄いのに、それが岩を破壊するほどの威力を秘めている。今まではこの術を見せただけで大抵の人間を恐怖に震えさせたものだった。


 だが、朝陽の反応は違った。


「す、すげー! 魔法だ! おい、ポアロン見たか! 俺の創った世界は魔法があるんだ! すげー! 正に夢の世界じゃねえか」


「創造神様、落ち着いて下さい。貴方がこの世界をお創りになった時にそう願ったから、当然のことでございます」


 朝陽の反応を見て、ゴーンは呆気に取られていた。魔法を見て恐怖する者はあっても、羨望の眼差しで見る人間はいなかったからだ。


「な、き、貴様ら! この余を恐れぬだと! どういう神経してんだ貴様らは! 余を恐れろ! そして降伏するのだ! 絶対的な神の力の前に」


「いや、お前別に神じゃねえし。お前はただの人間。神を名乗るな。烏滸がましい」


「なんだと!」


 朝陽の発言にゴーンは苛立った。魔法を見せつけて、恐れないならまだしも、自身を神ではないとはっきり言い切る。その朝陽の態度に無性に腹を立てたのだ。


「許さん! 貴様はもう終わりだ!」


 右手の石の刃を朝陽に向かって刺そうとする。その時だった。ゴーンの石の刃は粉々に砕け散ってしまった。


「な! よ、余のストーン・ガントレット・タイプBが……」


「なんと傲慢で身の程知らずな人間だ。創造神様に手を出すなどと……天に唾吐く行為に等しい」


 ポアロンはゴーンを睨みつけた。ゴーンはそれに対して後ずさりをしてしまう。ゴーンはこの時、理解した。今まで魔法を身に着けたのは自分だけだと思っていた。しかし、この人間と、鳥はそれに類する力を持っているのだと。


「今は余1人では分が悪いか……貴様ら覚えておけよ! 余の千を超える兵で貴様らの命を刈り取ってやる!」


 その捨て台詞を吐いてゴーンは逃げ出してしまった。


「いやー。危なかったですねえ。創造神様がまだ魔法の力に目覚めてないことがバレたらやばかったです」


 ポアロンは羽で自身の頭をぽりぽりと掻きながらそう言った。


「なぬ!? 俺ってまだ魔法使えなかったの? この世界を創造したのに?」


 朝陽は驚いた。この世界を創造するほどの力を持っているのだから、自分は当然魔法の1つや2つは使えるものだと思っていた。


「当たり前じゃないですか。創造神様は魔法の素質こそありますが、まだ修行をしていない身。貴方は精々、思い通りに地形を変形させたり、想像した生物を生み出したりするのが関の山です」


「マジかよ……ん? あれ? 冷静に考えれば地形変形ってやばくね? 俺、魔法を習得する必要ねえじゃん」


「いやいや、ちゃんと習得してくださいよ。下民ですら魔法が使えるのに創造神様が使えなかったら示しが付かないじゃないですか」


「あ、あのー……」


 朝陽とポアロンの2人が会話で盛り上がっていた時に、先程ゴーンに殺されかけていた娘が声をかけてきた。


「助けていただきありがとうございました。あなた方は天の使いですか?」


「いや、使いなのはこっちの変な鳥だけ。俺は天の使いどころか、神そのものだから」


「ちょっと、変な鳥とはなんですか! これでも、毛並は人並に気を遣っているんですよ」


「なに、毛並と人並でちょっと韻踏んでんだよ。上手くねえから」


「ふふふ。不思議な人たちですね。あれほど、お強いのにゴーンのように全く恐れを感じません。むしろ、どことなく暖かさを感じるというか、懐かしいような安心するような」


 恐怖で引きつっていた娘の顔は笑顔になった。その様子を見て、朝陽もニヤリと笑うのであった。


「ほっほっほー。懐かしさを感じると言ったか小娘よ。それもそのはず、こちらのお方はこの世界と生命を創った創造神様なのだ。本来なら、貴様らのような下等生物が口をきける立場のお方ではないのだ」


「へー。貴方、創造神様さんって言うんですね」


「ダメだ……この原始人さる。知能レベルが低すぎて創造神の意味がわかっていない」


 ポアロンは呆れている。


「いや、俺の名前は創造神様じゃなくてな……まあ、ライズって呼んでくれ。その方がしっくりくる」


「はい、わかりましたライズさん」


「【さん】はやめろ無礼な。せめて様をつけろ! 様を!」


 ポアロンは神に対して無礼な娘を叱り飛ばした。しかし、娘は鳥の戯言として受け取り、無視をした。


「私の名前はサエカと申します。よろしくおねがいしますね。ライズさん。可愛らしい声の鳥さん」


「ああ。よろしくなサエカ」


「可愛らしいとは何事だ! 私は偉大なる創造神様に仕える高貴な身分のもの! 可愛いなどという形容はやめろ! 美しいといえ」


「はいはい。美しい鳥さん」


「うむ。わかればよろしい小娘よ」


「ところでサエカ。さっきのゴーンとかいうやつは何者なんだ?」


「ゴーンですか……奴は最近現れた不思議な力を使う魔導士です。奴に多くの集落が滅ぼされました。私の集落も……私以外のみんな殺されて……」


 そういうサエカの目には涙が溜まっていた。


「お願いしますライズさん! 鳥さん! ゴーンを倒す手助けをしてください! 私の両親、兄、そして集落のみんなの仇をとりたいのです!」

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