建築ゲームを極めたら、創造神に認定されて異世界を創ることになった

下垣

第一章 初めての創世

第1話 俺が創造神だって!?

「はい、どうも。こんちくわー。自称プロゲーマーのライズです。本日は、カオスアンドコスモスを実況していきます」


 俺は聖園みその 朝陽あさひ。チャンネル登録者数150万人のゲーム実況者だ。自分で言うのも難だけど、超が何個もつくくらいの人気だ。俺が実況したゲームは必ずと言っていいほど売り上げやダウンロード数が爆上がりする。そのため、俺にゲーム実況を依頼する企業も数多く存在する。


 今は、生配信中だ。カオスアンドコスモス。所謂いわゆるサンドボックスの建築系のゲームだ。


 サンドボックスとは、ゲームに明確な目的がなく、プレイヤーが自由に遊ぶゲームのこと。建築系は文字通り資材を集めて、建物を建築するゲームのことだ。例えば、木のブロックを積み上げて家を造ったり、岩場を掘って洞窟を造ったりすることができる。このサンドボックスと建築系の相性は良く、よく混合されることも多い。


「本日はなんと48時間耐久生放送をします! いえーい! どうか楽しんでいってね!」


 俺のパソコンの前には大量のエナジードリンクが置かれていた。このエナドリこそが俺のパワーの源。これさえあれば寝ずにゲーム実況することができる。正に神が創ったアイテム。カフェイン、糖分ましましで眠らなくて済むのだ。


 昨日も実質2時間しか寝てないけど、全然辛くない。眠っている間にゲーム実況ができない方が辛いからな。


 俺は早速配信のコメント欄を横目で見た。


「Kentaro : ライズさんこんにちはー」

「しずく : 今日はなにを建築するんですか?」

「カワジュン : ライズさんのカオスアンドコスモスだ!」

「乳輪☆ビーム : い き が い」

「短足おじさん : ライズさんのおやつ代   \1,000」



「はい。こんにちはー。今日は巨神兵の石像を作っていきますよ。投げ銭ありがとうございます」


 俺はコメントに丁寧に返信しながら、ゲーム作業を進める。建築素材を集めるために、坑道を掘っていく。レアな鉱石を使って、巨神兵の石像を完成させるんだ。


「ここから先はただ掘るだけの作業になります。あ、変な意味じゃないですよ。この放送は健全な放送です。くれぐれも変な誤解はしないでくださいね」


 小粋なジョークも挟みつつ、ひたすら石壁を掘り続ける作業を続ける。レアな建築素材は石壁を掘っていると一定の確率で見つかるものだ。今の俺は炭鉱夫だ。誰がなにを言おうと炭鉱夫なんだ。


「この前コンビニに行ったんですよ。そしたら、前の客が公共料金の支払いの用紙を大量に持ってきてね。もう2、3枚なら話はわかるんですよ。俺もたまにやりますからね。でも、その人20枚近い用紙を出してね。どんだけ溜め込んだって話ですよね。当然時間がかかるんですよ。俺その時アイス買おうとしてたから早く会計して欲しかったんですよね。俺のプリンアイス溶ける~って思いながら待ってたんですよ。んで、やっと処理が終わったと思ったら、次にその客がなんて言ったと思います?」


 俺はその時の人の声色を思い出しながら、精一杯のモノマネをしようとする。


「12番ください」


 うん。モノマネしてみたはいいけど、全く似てない。まあ、リスナーには正解の声色はわからないしどうでもいいか。


「てめえ、この期に及んでタバコ頼んでんじゃねえよ! もうキレそうでしたね。まだ時間を食う気かと」


 トークを交えながら素材を集める俺。一通りの素材が集まったので洞窟を抜け出して建築作業に入ろうとした。


 その時だった。俺の頭がガンガンと音が鳴っているような感覚を覚えた。心臓が素早く脈打っている。なんだこれは。一体どういうことだ。俺の体どうなっているんだ。


「あ、すみません。ちょっとエナドリ飲みますね」


 とにかくエナドリだ。エナドリさえ飲めば治る。俺はエナドリを口にした。そしたら、俺の視界がぼやけてきた。意識が遠のく。眠くなってきた。どうして、今までこんなことはなかった。エナドリさえ……エナドリさえ飲めば俺は無敵なんだ……復活できるんだ……


 俺の意識はそこで途絶えた。



「……て……きて……起きて!」


 うぅ……美少女ボイスが俺を起こす声が聞こえる。これはあれか。俺に実は生き別れた妹がいて「もうお兄ちゃんったらしょうがないなあ」って言いながら起こしてくれるやつか!


「起きろボケナス!」


 耳元で美少女ボイスが俺を罵倒する。


「悪いが、俺は罵倒されて喜ぶ趣味はない。美少女ボイスでもそれはノーサンキューだぜ」


「なに言ってるんですか。この人は。さっさと目を開けてください」


 俺は恐る恐る目を開けた。そこにはなにもない空間が広がっていた。なんだここは? 宇宙なのか? え? でも俺息できているよね? ってか、俺ってさっきまで自分の部屋でゲーム実況やってたよね? なんで? ここどこ? ってか、あの時俺は意識を失って……あれ? もしかして俺って死んだの? ここは死後の世界?


 俺は落ち込んでしまった。なんで。一体どういうこと? 俺がなにをしたって言うの? 俺はただ楽しくゲーム実況をしていただけなのに。


「あのー……」


 ん? 俺の足元から声が聞こえる。俺は下を見た。するとそこには1羽の白い鳥が首を傾げてこちらを見ている。


「あ! 創造神様! おはようございます」


「創造神?」


 俺は周囲をキョロキョロとした。しかし、なにもない空間が広がっているだけで、創造神なる人物は見当たらない。


「あなたですよ。あなた。あなたこそが、わたくしが追い求めていた創造神様なのです」


 やけに甘ったるい美少女ボイスの白い鳥は、羽ばたいて俺の肩に乗った。なんだこの馴れ馴れしいやつは。


「お前は誰だ。それに俺は創造神じゃない。聖園 朝陽っていう名前があるんだ」


「申し遅れました。わたくしは創造神様をサポートする役目を持つ神の使い。ポアロンと申します」


 ポアロンと名乗った鳥は、俺の肩の上で毛づくろいを始めた。なんだこの鳥は。焼き鳥にして食ってしまおうか。それとも唐揚げがいいかな。いや、チキン南蛮も捨てがたい。


「創造神だか、騒々しいだか知らないけど、俺を元の世界に返してくれ。俺は今生配信中なんだ。俺のリスナーが俺のことを待っているんだよ!」


 ポアロンは羽でクチバシを掻き始めた。そして、一呼吸した後に俺の疑問に答える。


「あのー。創造神様は既に死んでおられます。肉体はもう既に火葬されていますよ。今更元の世界に戻るのは不可能です」


「な、なんだって! やっぱりここは死後の世界じゃねえか!」


「いいえ。死後の世界とは違いますね。創造神様は既に死んで神に転生されております。ここは立派な現世ですよ」


「なら死後の世界と違うか」


 だが、俺は現世と言われてピンと来てなかった。ここが現世なら周りになにもなさすぎる。誰1人なに1つものが存在しない世界。そんなものがありえるのだろうか。俺も異世界転生系の話は知らないわけじゃない。俺の身に今起こっていることは正に異世界転生と同じことだ。けれど、肝心のその異世界が存在しない。なぜだ? チートは? ハーレムは? 俺のウハウハな人生はどうなるの?


「なあ。ポアロン。ここなにもないけど、俺ここで一生過ごすの?」


「なに言っているんですか創造神様。まだなにもないのは当たり前じゃないですか。創造神様がこれから世界を創るんですから」


「は?」


「あなたは創造神に選ばれました。わたくしたちの下僕が住む世界をお創り下さい」


 下僕が住む世界を創れ? 一体どういうことだ? まさか創造神って……


「俺が、世界を創っていいの? 自分の好きなように?」


「はい。そうです。あなたにはそれだけの力と権利があります。どうぞ、お好きなように世界をご創造くださいませ。そして、下僕どもに仮初の生活を与えてやってください」


 好きなように異世界を創生していい。そう聞くとなんだか興奮してきたな。俺の好きなファンタジー世界を創ったり、科学技術が発展した未来都市の世界も自由に創造できるっていうわけか。なんだったら、この世に美女しか存在しないウハウハのハーレムだって創ることが可能だ。世界規模のハーレム。正に男の夢じゃないか。


「それでは早速世界を創生してください。創造神様。さあ、世界の形をイメージしてくださいませ」


 俺はポアロンの言う通りに世界の形をイメージした。まずは地球と同じくらいの大きさと形状をイメージしよう。


 確か、地球って完全な球体じゃなくて、若干楕円形だったよな。陸と海の割合ってどれくらいだろうか。陸は3割。海は7割くらいのイメージでいいかな?


 ちゃんと生物が棲める星になってくれるといいな。できれば、コンビニで支払い伝票を一気に20もよこす奴なんかがいない優しい世界がいい。


 後、それから美人が多い方がいいよな。


 俺はいろんな思いをこの世界に込めた。そしてその俺のイメージが形になったのか、俺の前方に巨大な球体が出てきた。これが、俺が創った世界。なんか感慨深いものがあるな。


「おめでとうございます創世神様。最初の星ができました」


「ん? 最初の星?」


「やだなー創世神。この星単体で機能するわけないじゃないですか。この星に恵を与える恒星や潮の満ち引きに関わる引力を持つ衛星。それらを追加しなければ、この星は機能しませんよ」


「ああ、そうか。それもそうだな。要はこの星に対応する太陽と月を創れってことだな」


「そういうことですよ。あ、ちゃんと適切な距離で恒星と衛星を作ってくださいね。近すぎても遠すぎてもダメですから!」


「なんだ注文が多い鳥だな。お前を恒星に突っ込んで焼き鳥にするぞ」


「むほー! なんてことを言うんですか! わたくしは神の使いなんですよ。創造神様に仕える存在なのに、そんなこと言われるなんてとても悲しいです」


 ポアロンは翼で涙を拭く仕草を見せた。同情を誘っているのだろうか。


「まあ、なんにせよ。やってみるか。適切な距離のイメージはどうすればいい?」


「恒星や衛星の大きさにもよりますかね。でも大きさや距離を直接イメージするよりりかは、この星に与える影響を考えてから逆算してイメージする方がしやすいかもしれません」


「なるほど。影響は地球と同じ感じでいいか。1日24時間。1年は約365日。4年に1度の閏年があって、でも100年に1度は閏年がなくて、でも400年に1度は閏年はあると……」


「なんですかその細かい拘りは……」


「地球の暦ではこうなってるの!」


「あなた創造神なんですから、完璧な暦を創ることも可能なんですよ。そんな閏年があるようなないようなわけのわからんことしなくても」


「ああ、言われてみればそうだな。よし、面倒だから閏年はなしだ」


 閏年がなくなったことで、この星にはオリンピックはなくなるかもしれない。まあいいか。そんなものあろうがなかろうがどうでも。俺はワールドカップ派だから。


 こうして、俺のイメージ通りの太陽と月ができた。ちゃんと生物が誕生できるような環境は整ったかな?


「では、このポアロン。ちょっとした計算をします。この星に生物が誕生する確率は……76%。かなり高いですね。流石創造神様」


「うわー信用ならねー」


「ええ……破格の数値だと思いますけど」


「ゲーマーにはある教訓があってだな。味方の7割は当たらないと思え。敵の3割は当たると思えというものがあるんだ」


「面倒ですね。それ。まあ、今回がダメでもまた別の星を創生すればいいだけの話です。では、早速この星に生命の素を撒きましょう。これを撒くと原始生命体が誕生しますよ」


 そう言うとポアロンは羽の中から袋を取り出した。この中には白い粉が入っている。これが生命の素らしい。


「いきなり人間を創ることはできないのか?」


「物事には順序ってものがあるんです。まあ、創造神様の力なら原始生命体に力を加えて進化の速度を速めることができますけど」


「じゃあその方向でいくか」


 俺はこの星の海に向かって生命の素をばら撒いた。全体的にばら撒こう。色んな環境で生物を誕生させることで多様化を図るんだ。進化には多様化が必要だからな。


「よし、生命の素をばら撒き終わったぞ」


「上出来です。では、生物が進化するまでしばらく待ちましょう」


「どれくらい待てばいいんだ?」


「ざっと5億年ほどですかね」


「5億年!? 嘘だろ。そんなに待ったら、俺寿命で死んでしまうよ」


「大丈夫です。あなたはもう神なんですから寿命では死にません。それに神の感覚で言えば5億年なんて一瞬で過ぎ去りますよ。ほら、念じてください。時を加速するように」


「ああ、わかったよ。時を加速しろ!」


 俺がそう念じると、俺が創った星が超高速で回転し始めた。自転と公転を繰り返しながら確実に時を刻んでいく。


「はい。もういいですよ。5億年経ちました。これで人類が誕生しました」


「早っ!」


「本当なら魚類が両生類になって爬虫類になったりと言った過程を見たかったのですが、創造神様が早く人間を見たいとおっしゃるので仕方なくこの手を使ったまでです」


「まあな。やはり、人間こそ生物の花形だろう。」


「あ、そうそう。創造神様。この星の名前をどうしますか?」


「そうだなあ。俺の名字が聖園だからセイントパークでいいか」


「随分と安直な名前ですね。まあいいです。それでは、人類が誕生したセイントパークを見学しに行きましょう」


 こうして、俺は自分が創った世界に降り立つことになった。俺が創った俺だけの世界。この世界は一体どんな世界になったんだろう。俺は期待に胸を膨らませながらセイントパークに飛び込んだ。俺の創世記はまだ始まったばかりだ!

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