ミスドのミスターがミスだったら百合になるのにな令嬢
コンビニのスイーツコーナーに、ドーナツが置かれるのを見るようになった。
表面がチョコでコーティングされ、
中にカスタードクリームの入ったフレンチクルーラーである。
プリンやシュークリームと一緒に冷やされており、
通常ドーナツの常温的な美味しさや、温めた時の美味しさとはまた違う喜びがある。
「……あかんわ」
スイーツコーナーにずらりと並ぶフレンチクルーラー、
その光景を見て、ミホスの胸に去来するのは一抹の危機感である。
(昔、コンビニ各社が一斉にドーナツの取り扱いを始めたことがありましたわね、
結局、レジに並んでいた期間は僅かでパンの隣に並ぶに留まりましたけど。
しかし……示し合わせたかのような冷蔵ドーナツは一体……
マジでミスドのタマを取りに行く気でっか!?)
ミスド――ミスタードーナツについて今更説明の必要はないだろう。
ドーナツ以外も取り扱うドーナツ専門店である。
ずらりと並ぶドーナツを、トングで威嚇しながら取りたいだけ取り、
取った分の対価を払うというシステムの店だ。
その活動は日本に留まらず、海外展開も行っており、
当然ミホス達の住む異世界も例外ではない。
今回のフレンチクルーラーは、そのミスタードーナツの隙を突いたものだ。
ミスタードーナツは凍らせても美味しいタイプのドーナツを確かに扱っている。
だが、そのメインとしては温かいからこその美味しさである。
故に、スペースの問題もあるが、
ミホスがよく行くフードコート型の店舗では、常温ドーナツしか扱っていない。
以前のドーナツに関しては、ミスドで良くない?の声もあった。
だが、冷やしフレンチクルーラーはミスドでは提供しづらい商品である。
それをコンビニは元々持っていた冷蔵スペースを用い、
冷やして美味しいタイプのフレンチクルーラーを提供しようというのだ。
フレンチクルーラーを1個購入し、コンビニから退店したミホスは
片手に魔導携帯端末、片手にフレンチクルーラーを持ち、
魔導ツイッターをチェックしながら、フレンチクルーラーを口に放り込んだ。
疑いようのない美味しさである。
よく冷えたクリームは目の覚めるように甘く、
しかしドーナツが負けているわけではない。
生クリームの土台となってどっしりと構えた美味しさがある。
フレンチクルーラーのゴミをゴミ箱に放り捨てると、ミホスは愛車に跨った。
「あかん……ミスド行かな!!」
最早、一刻の猶予も無い。
コンビニ各社は本気でミスドを殺す心づもりである。
そうはさせぬ、急ぎミスドへと向かい――ドーナツを購入するのだ。
ミスドのドーナツ、それはシャトレーゼのシュークリームに並ぶ、
幼少期の思い出の味であった。
噛めば、ドロリとしたクリームが溢れるカスタードクリーム。
食べる前はクリームパンと同じように思えるのに、実際に食べると全く違っていた。
フレンチクルーラーはクリームもないのに、
甘くて、そしてオシャレだった。
そして、マダガスカルバニラ――まるでアイスを飲んでいるかのようで、
子供心にあれほど、新鮮なものはなかった。
割と取り扱っていない店舗があって、涙したこともある。
幼少期の頃は、もっと食べたいと思っても1個、2個で終わりだった。
だが、今は違う。
ドリンクバーで腹を満たしている分、金があるのだ。
近隣のイオンへと自転車を走らせ、フードコートコーナーへ。
トングとお盆を持ち、トングをカチカチと打ち鳴らす。
ライトアップされたドーナツたちが、ずらりと並んでいる。
トングでドーナツを威嚇しながら、選ぶその様は――奴隷を購入する成金である。
上部に目をやれば、メニュー表がある。
マダガスカルバニラの取り扱いはなし。畜生。
「ふっ……」
ドーナツの一覧を見て、ミホスは笑う。
(子供の頃は1,2個しか食べられなかったドーナツ。
今は別の意味で1,2個がきついですわ……
なんかもう、あかん。
ミスタードーナツのミスターが竿役的な意味合いにすら思えてきますわ)
BBQフランクフルトとポン・デ・リングを注文し、
フードコートの給水器で水を汲む。
ポン・デ・リングのもちもちとした食感ほど、心地よいものはない。
そして、BBQフランクフルトである。
皮は香ばしく、中のフランクフルトは肉汁を滴らせるほどに濃厚である。
(どうでもいいけど、
マックのアップルパイって皮サクサクで中身トロットロやけど、
火傷しそうなぐらい熱いですわよね……
もっとも、きれいな薔薇に棘があるように、
その熱さこそが、
マックのアップルパイの美味しさを引き立てていると言えるねねんけど)
「にしても……やっぱ、ミスドのパイ美味いわ!!」
子供の頃はドーナツが好きだったけど、今はミスドのパイが好き。
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