養命酒を買ったのでたまにはちゃんとレビュー令嬢

飾り気の少ない赤い箱を自転車の籠に入れて、ミホスは自宅へと帰還した。

ドンと流し台の上に、それを置き、中の物を取り出す。

何かしらの液体で満たされた、薄茶色のガラス瓶である。

異界の言語で「薬用養命酒」と札が貼られていた


「買ってしまいましたわ……」


魔導インターネットには欠片の叡智も存在しない、ただ誘惑だけが存在する。

魔導ツイッターを覗けば、常に何かしらの商品に対する体験レポートがあって、

スポンサーに金でも貰っているのか、

あるいは同じ地獄に仲間を引きずりたい亡者でもあるかのように、

魅力的な文言で以て、自身の購入した商品をおすすめしてくる。


真実か、嘘か、判断することに意味はない。

結局の所、購入して、自分で試すまでは判断することは出来ない。

インターネットには、ただ自分の側に引きずりたい手だけしか存在しない。

どの手を取るか、あるいは誰の手も取らぬか、だ。

誰もが自分にとっての真実のみを語る。


そして、ミホスは薬用養命酒はアルコール度数が14あるという言葉に引かれ、

薬用養命酒を購入することにした。

健康は嘘を吐く、だがアルコール度数は真実だ。


専用のプラスチック容器(20mlを測れるように内側に線が引かれている)を取り、酒を注ぐために瓶を傾ける。とく、とく、とく、とく、という音が耳に心地よい。

まずは匂いを嗅ぐ。

薬用と聞いて想像したのはビーフィータージンである、

あれは強烈なる草の匂いを持っていた。

だが、薬草の匂いはたしかにするが、

それよりはどこかフルーティーな甘い香りである。


一口だけ口に含む。

一瞬だけ甘さが口の中を走り抜けて、喉に落ちる時には熱の塊になっていた。

強烈なアルコールが喉を焼き、火の玉になって胃に落ちる。

熱い、そして美味しい。


「……なるほど」

ミホスは水筒のコップだけを持ちだして牛乳を注ぎ、

残った養命酒を放りこんで一気に飲んだ。


牛乳で割るとアルコールの熱さが消えた。

牛乳のまろやかさに包まれて、丁度良い甘みだけが胃の中に落ちていく。


「あー、健康になった気がしますわ、寝よ」


養命酒の効果はわからない、だが酒を飲むと眠くなる。

1日60mlを三分割なので、まあまあの期間を健康のためと称して酒が飲める。

ついでに健康になると良いな、と思いを込めて酒を飲む。


いや、むしろ健康がメインである。

誰に対してでもない言い訳をするならば、養命酒は最高である。


ただ一つだけ言えることは、全く眠らないよりは眠ったほうが健康なので、

酒を飲んでよく眠れたならば、

それは健康に近づいたということになるということである。


さっき試したばかりで養命酒の効果はよくわからないが、そういうことだ。

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