精霊の音

カルビャ

第1話

「なぁなぁ、武志、なんかさ、さっきの世界史で出てきたなんとか王とかって憧れない?」

「えっと、アレキサンダーだっけ?そうか?...まぁでも、確かにいろいろできそうだな、権力あるし」

「なぁ、優樹は?」

「...あっ...うん.......」

「聞いてなかったか。じゃあいいや、武志、そんでさ...」

今日もだった。いつものことだ。いつも話さないから話せない。変わろうとしたっていざ話しかけられるとこの様で。

別に誰かが悪いわけじゃないのはわかってる。

ただ、情けないと思ってしまうのは事実だった。

「変わりたい...」

とはいえ、変われることはない。

今日も、そして明日も。



ただぼーっと歩いていた。

家に帰って本を読む。その日々を続けるために。

「お前が悪いんだろ!」

「いやいや、お前が...」

人間、そんな声が聞こえれば、なにはともあれ振りむくだろう。

僕がそこで見たのは、人間じゃない、小学生くらいの大きさだろうか、そんな、片方は緑、片方は赤で、マスコットという方がいい何かの喧嘩だった。

少し可愛らしいと感じながら、見てしまう。

ただ、喧嘩は止まりそうにもない。


別に、止める必要なんてなかった。

でも、変わりたいと言った。

そんなことが、頭から離れなかったのか、

「どうしたの?」

声をかけた。

「...人間?俺たちのことみえてるのか」

「いやいや、そんなはずは...いや、うそだろ?」

「...あの.....」

「うわ!見られてる!逃げろ!」

「あっ」

そのまま二匹は逃げていく。

「待って!」

追いかけていくと、いきどまりには、そこそこの大きさの穴があった。

穴を覗くと、光が漏れている。

「これは......」

僕の中で、何かが変わると、思った。

だから、躊躇はなかった。



穴にはいると、そこには小説で見るような、

そう、異世界というもの。

まぁ、どっちかというと、植物とか幻想的な方。

「すごい...すごい....」

ただ、それしか言えなかった。

こんな、非日常が、あり得ないって思ってたものが。

「おい、お前か」

「はい?」

「ちょっとこい」

「へ?」


赤い何かにつれられて、しばらく。

目の前には、ひげがはえ、長老という感じの何かがいた。

「こほん。お主が我らの事が見える人間じゃな?」

「まぁ...」

「本題からはいるぞ?昔、精霊が見える人間がやって来たのじゃ。その人間はとても賢く、我らを導いた。」

僕以外にもいたのか...

「そこで、我々はその功績をたたえ、王の座をあげたのじゃ。」

...すごいな。僕にはそんなことできないぞ...

「そこでじゃ。お主、この王冠を受け取ってくれるか?」

「...はい?」

「お主は我らが見えるのじゃ、王としての資格はある。それに、今はわしらで内政はまわるからの。」

「...それなら......」

重いものを背負わされることはない...だろう。

それからは、あっというまで、すぐに戴冠式が終わって、なんだか、夢見心地のようで。

それからの生活は、王として政務を、という訳ではなく、普通に視察という名目で町を見回っていた。

正直なところ、政治は、ほかの精霊で事足りるのだ。

しかも、戦争は、はるか昔に、例の人間が終わらせたらしく、平和。

することがない、お飾り。


だから、ぶらぶらしていた。

裏路地にはいると、そこには、一匹の精霊をみんなで囲んでいた、...いわゆるいじめが、起きていた。

「...あの」

話しかけると、

「あっ!」とか「王様?なんで!?」

とか言って散り散りに逃げていく。あとに残ったのはたった一匹、いじめられていたピンクの精霊だった。

「あの...」

「......大丈夫です...から。」

「でも。」

「失礼...します...」

「あ...」

精霊は向こうにいこうとしている...

僕は、無力だ。......

でも、変わりたいって思ったから。

「待って!」

踏み出した。勇気を出した。


「自分は、音楽ばかりしていて、それで。いつのまにか、どんくさくて、見放されてて。」

「だから、どうにもできないから、しかたないんです。だから、」

なんだか、自分と同じだな、と思った。

『自分に自信が持てない』

....どうにかしてあげたいと、思った。

「ねぇ...音楽って、何してるの?」



家に案内されて行ってみると、そこにはピアノが1台おかれた、シンプルな部屋だった。

「...今まで聞かせたことないんですけど、王様が望むなら...」

それは、美しい演奏だった。

音楽をやっていない僕からしても、感動してしまうような。

とても、良い曲だった。

静かで穏やかな旋律がゆっくりと終わり終わりを迎える。

僕は、思わず立ち上がり、拍手をしていた。

「すごいよ..本当に...」

この感動は異世界に入って幻想的な風景を見たときに似ていた。

まるで、違う世界に連れていかれるような。

だから。

「みんなにも聞いてもらったらどう?」

「え...!いや、そんなことは...」

「だって、綺麗だった...この演奏を聞いてほしい」

「でも、」

「自信を持っていいって」

「...」

それから僕は、音楽会を開くことにした。

王として、そういうことはできた。

娯楽の提供ということで納得してもらった。

そして、あの精霊を、だしてもらうことにした。

絶対に、聞いてほしかった。だから。


「自分が、出ても良いんでしょうか」

「大丈夫、保証するよ」


音楽会は、順調に始まり、そして、あの精霊の演奏は、観客を魅了するにたるもので、とても、あの時に聞いた時よりも、美しく。


そして。


僕は、夢から醒めた。

気づいたのだ。僕には、こんなことができないと。

政治を回して、人々を、助けることはできず、この美しい曲で人を癒すこともできず。

あの人間のような、戦争を終わらせたような英雄にだってなれない、ただの凡人だと。


王様という、被り物が、重く感じた。


「ありがとうございました!おかげで、人気者になれたんです!」

「うん。そうか...」

「絶対に忘れませんから!」


重かった。今はただ、眠りたかった。


「どうしたんですか、最近」

「...」

「元気が無さそうですよ、...」

「...」

「やっぱり人間でも、悩みってあるんですか?」

「...あぁ。.......」

「..........ははっ」

「?」

「ごめんなさい!...いや、人間って、あの伝承みたいな感じで、悩みなんてないんだと思ってたんです、だから、自分たちと同じで悩むんだなって」

「そりゃ...そう...」

.........

....違う。ずっと、自分は。姿が違うから、同じに見えてなかった。

だけど、同じなんだ、

同じだったんだ...

「僕は...」

話した。

僕は、全然すごくないってことを。

話した。

僕は、凡人で、何もできないことを。


「本が好きなんですか?」

「...うん。」

「...大丈夫ですよ。僕だって、音楽でこんなに人気になれたんですから。きっと、本でだって、すごいことできますよ。だって、僕と同じみたいだから」

「そっか...ありがとう」



別れてから、走った。自分の中で、どうしても、やりたいことができた。

「王様を止める!?」

「うん...僕は、やっぱり、元の世界に帰りたいなって...」

「どうしても、...ですか?」

「うん。どうしても、帰りたいんだ。」

「...そうですか...」

「ごめんなさい。すぐにやめることになって。」

「いいえ。伝承の中でも、人間は、最後にいなくなってしまったのです。...本当は、ずっといてほしかったのですが...」

「ごめんなさい。本当に。」

「そんなに謝らなくてもいいですよ。確かに、困るは困るのですが...仕方ないですね」



そして、帰る日になった。

僕は、最後に、会いたい人は決まってた。

「本当に帰っちゃうんですね...」

「ありがとう。やりたいことができたんだ。」

「やりたいこと...ってなんですか?」

「本を書こうと思って。」

「本?」

「うん。だから、向こうの世界で、君みたいに、人気者になるからさ」

「...そうですか。寂しいけど...頑張ってください」



そして、穴を通る。


「んん...」

目が覚める。

「あれ、寝ちゃってたのか」

原稿をまとめる。

「懐かしい夢だったな...」

やっぱり、この内容を書いたからか。

まるで、嘘みたいだけど、本当にあった世界。精霊たちの暮らす国。

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