考える灯花
「テッサったら、私がいるのに他の女とデート?」
聞き覚えのある女の人の声。
確か、給仕をしていたフゥマって女の人。
「いや、これはそんな色っぽい話じゃなくてな……」
「あっ、しかもこの娘ってカガリと一緒にいた子でしょ?いつの間に仲良くなってんのよ」
フゥマさんはウェーブのかかった赤髪を揺らし、テッサの隣りに座る。
「昨日今日会ったばかりの相手と色っぽい話じゃなかったら、こんな所に何の用なの?」
声からは嫉妬や怒った雰囲気は感じられず、どちらかというと面白そうなことを
「いや、カガリがもう一人いたツレの男と2人で買い出しに出たらしくてな。置いてけぼり食らったコイツと尾行中だったんだが……」
ユウ氏達の席を見ると、そこには既に別の客が座っていた。
「なによ、居ないじゃない」
「あぁ……。フゥに気を取られてる間に出てったみたいだな」
今すぐ追いかければまだ捕捉できるのでござろうが、ここはフゥマ氏にも話を聞いた方が良さげでは?
「えっと、確か"トーカ"ちゃんだっけ?ウチのテッサに何か変なことされなかった?」
するわけねーだろ……。とテッサ氏がボヤく。
「いえ、全然!カガリ氏の話を色々聞かせてもらえたりして拙者としては大助かりでござる!」
口元を
「それにしてもトーカちゃん、変わった喋り方ね?仕事中だから詳しく聞けなかったけど、あなたたちどこから来たの?」
どう答えるべきでござろう?
カガリ氏の時と状況が違う故、正直に"異世界から来た"と話して信じてくれるかは謎でござるし……。
「おいおい、聞いた限りじゃ色々とワケありって感じだし、あんまり詮索しない方が良いぞ?」
テッサ氏が助け舟を出してくれた。
「なにそれ?また仕事関係の話なの?」
「……まっ、そんなとこだ」
お茶を
「……そう言えば、2人は親密そうに見えるでござるがどういった関係なので?」
話題を変えるために2人の事を訊くでござる。
「んん、まぁ有り体に言うとだな……」
「夫婦よっ!」
言葉を選んでいる様子だったテッサ氏を待たずにフゥマ氏が言い切る。
「ほほぉ。お二人とも若く見えたので恋人同士かと思っていたでござる」
「うん!二年前にテッサから告白して付き合いだして……」
"あーあ、また始まった"と言わんばかりにテッサ氏は顔を手で覆ったものの、満更でもないのかその口元は笑っている。
まぁ、拙者もユウ氏と似たような関係にあるので、きっと周りからもこんな風に見られているのでござろう。
「もう少しお金が貯まったら広い家に引っ越して子供も作って……」
おっと?まだ続くのでござるか?
「女の子ばかりだとテッサが肩身の狭い思いをしそうじゃない?だから最初は男の子が良いなって……」
マズいでござる。
ユウ氏達を追うべきでござったか……。
「おいフゥ、将来の話はそんなもんでいいだろ。トーカが置いてかれてるぞ」
「あら、そう?それじゃ私達の話はこのくらいにしておいて。やっぱりトーカちゃんはあの黒髪の男の子が好きなの?」
「もちろん!ユウ氏は拙者の
承認は得てないでござるが。
「やっぱり?でも、トーカちゃんみたいに派手な子に対して少し地味な子って印象ね……」
「ユウ氏の魅力は少し見ただけですぐにわかるようなものではないのでござるよ〜」
少し得意気に拙者は語る。
「で、その
「え、それ本当?カガリって女の子だったの?」
「フゥマさんも知らないでござるか?」
親しげだったフゥマさんでも知らないのでござるか……。
「私は男の子だと思ってたんだけどなぁ」
「
「女の勘よ」
見事な即答でござった。
「カガリってばいつも単独で行動してるから恋人が居るのかもわかんないのよねぇ」
確かに、それがわかれば万事解決でござる。
「ま、あの男の子もトーカちゃんのこと嫌ってるようには見えなかったし、ちゃんと態度で示し続けたらいつかは受け入れてくれるんじゃない?」
まさに継続は力なりでござるな。
「……女二人で盛り上がってるとこ悪いが俺はそろそろ帰るぜ。支払いは済ませとくから、あとは尾行を続けるも解散するも好きにしたら良いさ」
そう言うと、テッサ氏は席を立った。
「今日は色々とお世話になり、かたじけのうござる!」
「こっちこそいい暇つぶしになったよ。それじゃあな」
「あ、待ってよテッサ~!」
店を出るテッサ氏をアフマ氏が追いかける。
「じゃあねトーカちゃん!カガリに負けないよう頑張ってね!」
手を振るフゥマ氏に拙者も手を振り返して見送る。
そしてこれまでの整理をするために考え込む。
カガリ氏は基本的に
親しげに話す友人でも性別すら知らず謎。
10年前に起きた戦争に参加していて、見た目と実年齢が一致しない悩みを持っている。
「つまり……。性別と年齢が不詳のぼっちキャラ?」
そんな人が何故、見ず知らずの拙者達にここまで良くしてくれるのでござろう?
異世界の知識や技術の獲得?確かに教科書やスマホを見て驚いていたし……。もしくは拙者達の知識の中にあるかもしれない"海の向こうに渡る希望"が欲しいとか?
「なんとなく
テッサ氏の話を聞いた感じだとお金のためでも無さげ?
むむむ……。
「考えれば考えるほどわからなくなるでござる……」
敵か味方か。
味方ということにしとくでござる。そっちの方が楽でござるし。
やはり頭脳労働は拙者ではなくユウ氏に任せるべきでござるな。
「そうと決まれば長居は無用、再び追跡するでござる」
「さっきさ……」
市場を歩きながらカガリに話しかける。
「食堂に居た女の人とすれ違ったよね?声掛けなくて良かったの?」
赤いクセっ毛の女の人。
確か、名前は"フゥマ"って言ったっけ?
「ん~、向こうには向こうの予定があるだろうし、休みの日にまで声を掛けない方が良いかと思って」
「そっか……」
僕も学校の外で友達を見てもわざわざ関わろうとしないし、その気持はわからなくもない。
「二人とも、服は僕が渡したもの以外は制服と"ジャージ"って服しか無いんでしょ?とりあえず宿に戻ったら下着や普段着を持ってきて貰おうね」
そう言うと、カガリは手に持っている木の板で作られたリストのような物に文字を書き出した。
「それってなんなの?」
「注文票だよ。これに店の区画番号と買うものを書いて、宿の人に渡すんだ」
「ふんふん?」
「今回は三人分の物資を馬車に載せての長旅だからね。大荷物を持って何度も宿と市場を往復は面倒だから、多少の手間賃を払って運搬の得意な業者に運んでもらおう」
あ、そこは手間賃取られるんだ。
「ロンダバオの大浴場は水着入浴だしこれも買っとかないとね」
水着……と聞いて、宿でのことを思い出す。
同年代の女子の中でも
引き締まった部分と豊かな部分による
灯花がよく知らない同級生や上級生にモテるのは当然か……。
「ユウ?難しい顔してどうしたの?」
カガリが下から僕の顔を覗き込む。
「えっ!?なんでもない!ちょっと考え事してただけ」
「そう?だったら、灯花ちゃんの水着のサイズを教えてくれる?」
「ひゅい!?」
焦りすぎて変な声が出た。
「あれ?知らないの?だったらどうしようかな……。宿にいるなら戻って聞かなきゃだし」
カガリには灯花を縛り付けて来た事を話していない。
「い、いや~、そういえばあいつ前に大きさの自由が利く水着が良いって言ってたような……」
これはうちに遊びに来ていた時に言っていた事だ。僕の妹はそれを聞いて信じられないものを見たような表情で固まっていたが。
「ふむふむ、なるほど」
リストの横の方に何やら文字を書き足した。
「じゃ、とりあえず今日はこんな感じだね」
「買い物終わり?」
「うん」
それじゃ、あとは宿に戻って灯花の縄を解いてやるか。
「今夜から少しずつ
いよいよか。
正直、逃げるだけの足手まとい状態に不満はあったから強くなるなら望むところ。
ただ一つ、思うことがあるとすれば。
「異世界に行っても勉強ってしないといけないんだな……」
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