練習と小さなアクシデント
「はい、じゃあコレを持って」
カガリの部屋について早々、僕は長さ15センチくらいの細長い棒を渡される。
「どこぞの横丁で売ってそうな杖でござるな」
確かに、昔見た映画に出てきた魔法の杖に似ていると言えば似ている。
「ただの道に落ちてた木の棒なんだけどね。初心者が
特に凄い物というわけではないらしい。
「まず、初心者は
カガリは自分の胸を左手の人差し指で差し、その指先を胸から右肩、肩から腕、腕から右手の人差指まで順番になぞる。
「その練習にこういう木の枝があると"力の向き"を視覚で理解しやすいんだ」
無くても別に良いんだけどね。とカガリは続ける。
「ユウは既に
そう言うと、カガリは人差し指を真上に立ててなにやら唱え始めた。
「"光よ照らせ……発光の聖法、シロズナ"」
カガリの指先がぼんやりと光っているように見える。
「灯花ちゃん、明かりを消してくれる?」
「了解でござる」
灯花がロウソクの火を消す。
「
その言葉通りに、指先の光が強くなったり弱くなったりを繰り返した。
「感覚を掴む為にユウもやってみよう」
「うん。やってみる」
とりあえず、
「"光よ照らせ……発光の聖法、シロズナ"」
杖の先が弱々しいものの、白く光っている。
「おっ、一回目でちゃんと出来たね。それじゃ、次は
カガリに言われて、なぞった道筋に力の流れが通るのをイメージする。
光がだんだんと強くなっていき、カガリの指先よりもずっと明るく光っている……が。
「ユウ氏、ちょっと
光の強まりが止まらない。
部屋をぼんやりと照らす強さだったのが蛍光灯くらいの明るさになり、そこから更に強まって僕は目を細める。
「カガリ氏の指先みたいに少しずつ光を弱くしないと、近所迷惑レベルの明るさになるでござる……」
光を弱めるようにイメージするのだが、明るさは増すばかりで遂には目が開けてられなくなり……。
「|眩しっ!」
一際大きく光って、スイッチが切れたようにプツっと光が消えた。
「……ロウソクの火を点けようか」
部屋が普段の明るさになる。
「ユウは力の加減が苦手なのかもね……」
正直、自分でもあんなに際限なく明るくなるとは思わなかった。
「でも、初めてでここまで出来たのは充分優秀だよ!」
単純かも知れないが、"優秀"と言われて少し嬉しい。
「ただ、"力の向き"の感覚を最初から掴んでる人は
何事も練習……か。
「
「シフ……あぁ、あのめっちゃ足が速くなるアレでござるな」
あぁ、アレね。
「見た感じユウなら3日もあればものにできそうだし、出発は3日後のお昼過ぎ頃にしようか」
期限も決まり、やるべきことも明白になった。
「その間に、灯花ちゃんは文字を勉強して読めるようになろうね」
「……勉強でござるなぁ」
特別に苦手と言うわけでもないだろうが、やはり僕たち学生は"勉強"の二文字に気が
「それじゃ今日はそろそろ寝よう。
RPGなら一晩で全快するでござるしな。と灯花が言い解散する。
「2人共、おやすみ」
「おやすみ」
「おやすみでござる~」
カガリの部屋を出て、僕と灯花はそれぞれの部屋に戻った。
「寝る前にもう一回だけやってみようかな……」
僕は部屋の扉と窓がしっかりと閉まっているのを確認して木の棒を右手に持つ。
「力の流れをイメージ……と」
自分の胸部から肩、そして腕を
「"光よ照らせ……発光の聖法、シロズナ"」
棒に光が灯る。
注ぎ込む力の流れを少しずつ増やしていく感覚。
光がゆっくりと強まっていき、部屋全体を照らす。
ここから、今度は光を弱めるために少しずつ力を絞っていく感じでイメージする……。
「あれ?」
部屋全体を照らしていた光が、最初のぼんやりした明るさに弱まる。
"強めて、弱めて"を繰り返して調節すると、イメージした通りに明るさがコントロールできた。
「……さっきのアレは一体なんだったんだ?」
上手くいくならそれで良いかと1人で納得し、机の上に棒を置いて服を脱ぐ。
そのままベッドに飛び込み、布団にくるまって目を閉じた。
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