第129話 光は闇を包んで
白い光が消えると、目の前で魔王が倒れていた。勝負の決着はついたのだ。
「やった! ルカが勝った!」
セシルの明るい声が響く。僕はフラフラした足取りで、魔王の元へ歩いた。
「……余は間違っていたのか」
僕の足元で彼が横たわる。他の亡者と同じように、彼の体は半分地面に沈み込んでいた。
「いや、お前は間違ってなかったと思うよ」
「なんだと?」
「お前は自分の正義を信じて戦った。僕は僕の正義を信じて戦った。それだけだ」
魔王は一瞬、不思議そうな顔をしたが、すぐに表情を平静に戻した。
「余は何度でも復活するぞ。今回のように、余を求める者が現れれば、何度でも人類に敵対する」
「そしたら、僕が何度でもお前を倒すよ。お前が神器を服従させるのが強いと考えているなら、僕は神器と協力してお前を倒す。それでどう?」
僕の言葉を聞いて、魔王はなぜかフッと鼻で笑った。しかし、その表情は今まで見た何よりも満足そうだった。
「ルカ、と言ったな。知っているか? 神器というのは喋るらしい。2000年前に勇者が一瞬だけ声を聞いたと言っていた」
「うん、知ってるよ」
神器は喋る。ポンコツで、読書ジャンキーで、自信家で、後輩口調で、しっかり者。そんな神器たちと、僕は戦ってきたのだから。
「ハッハッハ! これは傑作だ! 余にはそんなもの、一度も聞こえたことなどないわ! それが貴様と余の差か!」
魔王の体は、もうほとんど地面に沈んでいた。魔王はしばらく愉快そうに笑っていたが、最後にふうと息をつくと。
「ルカ。余は貴様が気に入った。だが――次会うときは敵同士だ。せいぜい首を洗って待っていろ」
魔王は最後に捨て台詞を残すと、水の中に沈むようにして、地面に吸い込まれていった。静寂が辺りを支配する。
『それっ!!』
その時、僕が手に持っていた神聖剣アルカディアが白い光を放ち、5色の光の球に分かれた。
そして、光の球は人の形に変化し、リーシャたちが元の姿で僕の周りを囲って立っている。
「みんな! 変化はない!?」
「大丈夫です! 今回は完全なアルカディアへの合体でしたから、記憶がバラバラになることもなかったみたいです」
リーシャの答えを聞いてホッとした。また記憶が無くなってしまったら、せっかくの楽しい旅の思い出が台無しだ。
「……ということは。終わったの?」
セシルの声を皮切りに、僕たちは目を見合わせた。そして、数秒の沈黙の後。
「終わったああああああああああああ!!」
「やったっス! ついに一件落着っスね! さすルカさすルカ!」
「一時はどうなることかと思ったのじゃ。まあ、勝てたからよしとするのじゃ!」
湧き上がる歓声。カシクマに関しては一安心して地面に座り込んでいる。
「……おい待て! 見ろ!」
その時、アルベールがぴしゃりと言い放った。彼が指をさす方向には。
「あれって……邪神器!?」
魔王が倒れていた場所に、鎧が落ちている。あれって、復讐の女神リオノーラが変身したやつだったような。
「ルカ・ルミエール! その鎧を破壊するクマ! それは危険すぎるクマ!」
カシクマは大慌てで僕に叫んだ。僕は邪神器の元へ歩いていく。
そして、目の前の鎧に手を伸ばした。
途端、鎧は白い光を放って、5つの光の球に分裂する――!
「あれ……これってさっき見たような」
「ま、まさかお前――!?」
5つの光の球は、5人の少女に姿を変えた!!
邪神器でも神器なら、僕のスキルの効果が及ぶはずと思ったのだ。結果はビンゴ。
「……何よアンタ。私たちを破壊しないって、どういうつもり?」
真っ先に口を開いたのは、紅色の髪の少女。ギャルのような口調で喋り、僕を睨みつけている。
「やあ、僕はルカだ。どういうことかと言うと……僕と一緒に旅をしない?」
「「「「「「「「はあ!?!?」」」」」」」」
その場にいる全員が声を上げた。もちろん、当の邪神器たちも。
「まさか、邪神器まで仲間にしようとしてるの……?」
「ついていけねえクマ。規格外すぎクマ」
カシクマたちは呆れているが、僕はおかしいことを言っているつもりはない。
僕は、綺麗な武器や防具を見ているとワクワクする。それは、目の前の鎧だってそうだ。
そして、僕は世界一の冒険者になりたい。だったら、こういう結論を下したって罰は当たらないだろう。
僕は、目の前の神器たちに手を差し伸べる――。
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