第128話 神器VS邪神器
「終わりだ!」
魔王は声を上げて肉薄すると、剣を振り下ろしてきた。恐ろしく速い一撃。しかし、僕には見えていた。剣が上から下に動くその過程が。
「そこだッ!」
龍が滝を昇るように、僕は魔王の剣の方向に逆らって剣を上に薙ぎ払った。剣と剣がぶつかった瞬間、アルカディアが光を放つ。
「何ッ!」
魔王の体勢が崩れる。剣を弾きとばすことに成功したのだ。魔王の表情が一気に崩れるのが見えた。
すごい。あれだけ脅威に感じていた魔王の一撃が、『軽かった』とすら思えるほどだ。これがアルカディアの絆の力か。
そして、僕はこの好機を見逃すわけにはいかない。魔王は剣を弾かれた反動で、手が挙がってしまっている。胴のガードががら空きだ。
「くらえッ!」
一歩踏み込んで、魔王の腹部に横一閃を食らわせる。光の斬撃が彼の体を真一文字に切り裂き、後方へ吹っ飛ばした。
「くっ!!」
魔王が顔を歪める。初めてまともなダメージが入った証拠だ。彼は飛ばされながらも体勢を崩すことはなく、地面に足を着いてズザザザ、と音を立てて滑った後、摩擦で立ち止まる。
「……まさかここまでとは。少し認識を改めなければいけないな」
「どうだ! やる気になったか!?」
「勘違いするな。まぐれで当たっただけの一撃に価値などない。……ただ、お望み通り本気は出してやろう」
魔王はそう言うと、右手を自分の腹部に当てた。そのままグッと手を握ると、何もない空間から今度は2メートルはあるような、巨大な漆黒の斧が出現した。
そうだった――こいつは邪神器をいくらでも作り出せるんだった。本当にチートだな! やっぱりさっきまでのは力の一端に過ぎないんじゃないか!
「
さっきの剣よりもパワー型だな! だったらこっちも、力で押し切る――!
「ふんっ!」
魔王は斧を両手で持つと、地面に思いきり叩きつけた。ズドン! という嫌な音がして、地面にミシミシとヒビが入っていく。
次の瞬間、割れた地面が徐々に別れていき、1ミリほどの隙間は1センチの割れ目に。そして1メートルの崖に変化していった。
「ミリア! ここは君の力で行こう!」
『うむ! 派手に舞うのじゃ!』
<地殻変動>で、まずは崖を元の地面の形に修復する。そして次に、魔王の足元の地面を何か所か隆起させて、足場を悪くしていく。
「うおおおおおおおおお!!」
魔王が姿勢を崩したタイミングを見計らって、僕は魔王に接近する。剣に炎を宿して、袈裟斬りを仕掛ける。
魔王は素早くそれを見切って体をよじって回避。そのまま斧を横に振りはらって攻撃に転じた。
威力は文字通り、山を真っ二つにするほどだ。しかし、スピード自体は大したことがない。胴のあたりにくる一撃を、僕はジャンプで回避しつつ、剣を振り上げる。
「<
炎を纏った神聖剣の一撃。それはまるで不死鳥が獲物をついばむようだ。
その威力とスピードに、魔王は対応することが出来ず、肩に一撃を食らってしまう。魔王は苦痛に顔をゆがめて後退した。
「くっ……図に乗るなよ!」
魔王は素早く回復魔法を自分に付与し、患部を修復していく。このままじゃ埒が明かない。畳みかけるぞ!!
「イスタ! 次は君だ!」
『吹き荒れてるっス! 勝利の風が!!』
イスタのスキル<インフィニティ!>を使うと、アルカディアが二本に分裂した。二本の片手剣。つまりは二刀流!
<スピード!>で瞬間移動を使い、魔王の目の前に姿を現すと、僕は二本の剣で連撃を仕掛けた。
「ならば……
次に魔王が生成したのは、二本の短剣だ。包丁ほどのサイズの漆黒の短剣は、キン、キン、と軽い音を立てて受け流した。
刃渡りが短い分、相手の方がスピードは速い。しかし、裏を返せばリーチはこちらの方が分がある!
一進一退の攻防。魔王が接近して放つ一閃を、右手のアルカディアで弾く。今度は左手のアルカディアで突き攻撃で反撃をするが、魔王はこれもはらりと躱して次の攻撃を狙ってくる。
その場の思い付きの攻撃ではない。おそらく、お互い100手は先を見据えて戦っている。至近距離で、お互いが一歩も退かずに猛攻を繰り返す。
火花が散る中、魔王がこれまでよりも一歩近くへ踏み入ってきたのを、僕は見逃さなかった。
「ここだ!」
魔王の短剣の刃が僕の腕をかすった。しかし、躊躇している暇はない。僕はもう片側のアルカディアを持つ力を強める。
「<ダイレクト!>!!」
魔王の目が大きく見開かれる。僕はアルカディアを魔王の腹に向かって思いきり投げつけた。矢が命中するようにして魔王の腹部をアルカディアが貫き、後方へと運ぶ。
「ぐああああああああ!!」
アルカディアはイスタの弓の力を持った剣だ。投擲するにはもってこい。魔王は声を上げてゴロゴロと地面を転がった。
「何故だ! 何故余が貴様なんぞに押されている!?」
「気付いてないのか? お前はさっきから、僕の攻撃に合わせて神器を生成している。つまり、後手に回っているということだ」
魔王はハッとした表情になる。そして、悔しそうに下唇を噛みしめて僕を睨み据えた。
「うおおおおおおおおお!!」
魔王は腹に突き刺さった剣を引き抜いて叫ぶ。血が滝のように流れる腹に、回復魔法をかけようとした。
しかし――彼の腹に空いた風穴は、いつになっても治る気配がない。魔王は焦りの表情を隠せていない様子だ。
「『打ち消した』からね。お前は魔法を使うことはできない」
『そうね、ちょっと残酷だけど……逃げ道は封じさせてもらったわ』
「馬鹿な! 余の崇高な魔法を撃ち消しただと!? そんなこと出来るはずがない!!」
アルカディアになったことで、リムの魔法も強化されているらしい。魔王はもう、自分の傷を治すことができない。
「ふざけるな……! 貴様は余をどこまで愚弄すれば気が済む!!」
魔王は血をダラダラ流しながら吠えた。そして、再び漆黒の剣を生成して握り締める。
「だが……復讐の女神の加護によって、余は今、これまで以上に強化されている! この
『奴の剣から今までで一番の魔力を感じるわ。きっとこの辺り一帯――国が一つ吹き飛ぶほどの威力の攻撃が来るでしょうね』
レティの冷静な分析が伝えられる。ここが正念場ということだな。
「レティ! 僕の体のガードを最小限にして、みんなに被害が行かないようにしてくれ!」
『いいのね? あの一撃を食らえば、あなたの体がもたないかもしれない』
「構わない!」
僕が即答すると、レティは少し呆れたように笑った後、『わかったわ』と返した。僕は剣に意識を集中させる。
『ルカさん、今までで一番の魔力みたいです。怖いですか?』
リーシャが問いかける。魔王の剣には、今も黒い魔力が集中している。大気が揺れているのが肌で分かる。
「……いいや。僕には仲間がいるから。絶対に乗り越えられるって信じてるんだ」
むしろワクワクしてるくらいだ。今の僕たちなら、魔王を超えるほどの一撃を放つことが出来る。
リーシャは僕の言葉を聞いて、ふふっと笑った。
『……そうですね。絶対に勝ちましょう。いや、絶対に勝てます。これまでミラクルを起こし続けてきた私たちなら!』
「ああ。僕はいつだって一人じゃなかった。絆の力は、今も僕たちの力になってくれている!」
僕は目を瞑って、アルカディアに力を籠める。この一撃に、僕の全てを懸ける。
『ルカ君! 準備オッケーだよ!』
『そうっス! いつでもぶちかますっス!』
『さあ、思いっきり舞うがいい!』
『私たちの渾身の一撃、興味があるわ。見せて頂戴』
『……ルカさん!』
僕は目を思いきり見開いた。剣を大きく振り上げる――!
「<
「<セイクリッド・フルバースト>!!」
白と黒の斬撃がぶつかり合う。両者の渾身の一撃は互いを飲み込もうと、稲妻のようにバチバチと反発しあいながら、エネルギーを爆発させていく。
僕はこの一撃を喩える術を知らない。僕がこれまで見てきた中で、最も激しいぶつかり合い。
僕の肌が灼けるような感覚と、服の裾が風で揺れるのだけがわかる。光の先にある魔王の姿なんて、もう見えちゃいない。少しでも気を抜けば、この体は消し飛ばされてしまいそうだ。
全身を駆け巡る興奮と熱量を放出するため、僕は大きく叫んだ。
「いっけえええええええええええええええ!!」
光と闇は爆発的に膨れ上がり、辺り一帯を包み込んだ――!!
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