第126話 反撃開始!
剣の名前が決まったところで、僕は
「……褒めてやる。不完全な剣で向かってきた時は相手にする価値もないと思っていたが、まさか貴様もその剣を握るとは」
「そうだ。この剣はお前にとどめを刺した剣だ。これさえあれば……」
「勘違いするなよ。それは昔の話だ。今の余はリオノーラを装備している」
刹那、魔王の体から殺気が放たれる。――そうだった。2000年前は調和の女神と戦っていた復讐の女神が、今は魔王に加勢しているのだ。僕はまだ戦う『資格』を得たに過ぎない。
『大丈夫ですルカさん! 私たちにも調和の女神がついています!』
「調和の女神……エリカが?」
『はい。この姿になって気付いたんです。私たちの中にはエリカの神性の一部が息をしていると。彼女は自分自身を保存するために私を――リーシャという存在を創り出したんだと思います』
そこで気が付いた。
「それが、リーシャがこれまで『エリカ』って言葉に惹かれていた理由かもね」
『ですね。そして、私たちにはルカさんがいる』
「そっか。だったら絶対負けない」
魔王の殺気を浴び続けているが、心はなんだか温かかった。僕は一人じゃない。そう思うと、自然と恐怖心も薄れていく。
「まだわからないか。ならば、余の前に立ったことを後悔させてやる!!」
魔王は一喝すると、地面を蹴って肉薄してきた。地震でも起こったかのように大地が揺れる。
魔王の動きは目で追うことはできる。問題は奴の剣戟にアルカディアが耐えられるかだけど……。
『ルカ! わらわたちを信じるのじゃ!』
ミリアの声が耳朶を打つ。僕は覚悟を決めた。
「はあッ!」
剣と剣がまじりあい、キン、と高い音が鳴る。僕たちを中心にして、竜巻のような風が吹き荒れた。
剣は折れていない。いける。これなら戦うことができる!
『センパイ、あたしたちのことを信じて思いっきり戦うっス!』
そうだ、彼女たちを――僕たちのアルカディアを信じるんだ。
一瞬の鍔迫り合いの後、魔王はすかさず剣を振り回して連撃を繰り出す。乱雑な攻撃ではない。一撃一撃が、確実に僕の命を奪うべく繰り出される。
力だけじゃない。技術も卓越している。火花が飛び散り、剣を伝って魔王の膂力を感じる。
しかし、僕だって守ってばかりじゃない。相手の攻撃は既に見えている。
「ミリア!」
『了解なのじゃ!』
ミリアの返事とともに、魔王の足元が変化し、針山のように隆起する。足場が悪くなった魔王は舌打ちをして、後方に下がった。
今だ。僕はその隙を逃さない。地面を蹴って、今度は逆に僕が魔王に斬りかかる。剣を振り下ろすと、魔王は危なげなく攻撃を防いだ。
「まだだ!」
すかさず追撃。剣と剣がぶつかり合う激しい応酬だ。僕が横一閃すると魔王は一歩引き、反撃のモーションに入る。
まさに一進一退の攻防。剣がぶつかりあった時の爆風と金属音が僕たちの戦いの激しさを物語っていた。
「すごい……エルドレインの必殺技を超える一撃を、あんなに簡単に弾くなんて!」
「ああ、さすがはルカ・ルミエールだクマ。ボクたちじゃとても太刀打ちできない!」
仲間たちの声が聞こえてくる。そんな攻防の中で、僕は魔王の隙を見つける。
「そこだッ!」
今、彼の顔はがら空きだ! そう気づいた僕は、彼の顔面に向かって一撃を入れる。魔王は一瞬目を見開いて、遅れて攻撃に対応した。
ガキン、と大きな音が響く。絶対に当たると思ったのに、さすがは魔王、ギリギリのところではじき返し、一歩後退した。
「今のでも駄目なのか!」
『いいえ、あれをよく見なさい』
レティに言われて目をよく凝らすと、魔王の頬に小さな切り傷が出来ているのが見えた。紙で切ったような一本の切り傷からは、血がツー、と垂れる。魔王はそれに気づくと、すぐに手でぬぐった。
「……まさか余に傷を負わせるとはな」
「どうだ! 次は首を斬ってやる!」
威勢よく言ってみたはいいものの、僕は既にかなり全力を出している。正直言って、魔王に会心の一撃を食らわせられる気は全くしない。
それでも、かすり傷を付けることは出来たんだ。このまま順調に戦えばいつかは――!
「<
魔王は指先に白い光を灯し、頬の傷をなぞった。裂け目のようになっていた傷が、一瞬のうちに癒えていく。
『えっ、こいつ亡者なのに回復魔法を使ったっスよ!?』
くそっ、なんでもありか。そりゃ一筋縄ではいかないよな。
「……いいだろう。ならば実力を追加で
耳を疑った。聞き間違いじゃなければ、魔王が追加で1割って――
思考を巡らせたその時だった。僕は腹部に強烈な痛みを覚える。そして気付く。瞬きの間に魔王が僕の目の前まで接近していて、腹を殴打していたということに。
「ガハッッ!!」
肺から酸素が失われる感覚。胃の内容物が出口を求めている。衝撃が全身に伝わって、僕は上空へ吹っ飛ばされた。
んなバカな。いきなり僕の目の前に現れて、パンチだと!? そんな超人的なことが出来るわけないだろ!!
とにかく、上空から復帰する方法を考えなくては。アルカディアにはレティの防御のスキルもあるはずだから、これでもダメージはマシなほうなんだ。考えろ、考えろー―!!
「逃がすわけないだろう」
嘘だろ。さっき僕をパンチで打ち上げた魔王は、何故か上空の僕の背後にいる――!!
振り返ると同時に、顔面に伝わる激しい衝撃。殴られたのだ。
吹っ飛ばされる瞬間、魔王の無表情が目に焼き付いた。こいつはまだ本気なんか出しちゃいない。せいぜい出して実力の2割というところだ。
僕は見くびっていた。魔王の力を。復讐の女神の力を。そんな絶望の念とともに、僕は30メートルの上空から地面にたたきつけられた。
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