第125話 神聖剣アルカディア

 本当に――間一髪だった。


 魔王の一撃を弾き返した僕は、振り返ってみんなを見る。攻撃を食らったのか、体がボロボロだ。


「みんな、大丈夫?」


「ええ、最初の一撃はエルドレインが防いでくれたから……でも、今のはさすがに焦ったんだから!」


「まったく……遅いクマ! 待ちくたびれクマよ!」


 へそを曲げたようにぷりぷりと起こるカシクマ。僕はその様子を見て笑ってしまった。


「……で、問題は解決したクマか? ま、ボクたちがこれだけ体を張って、収穫なしだったらキレるクマが!」


「その点は大丈夫。全部、解決したから」


 僕はそう言って、一本の剣を掲げる。白金の装飾が、光を受けてきらりと輝いた。


『聖剣エルリーシャ、完・全・復・活です!!』


 リーシャが高らかに宣言する。約15分ぶりに、彼女は万全な姿で戦場に姿を現したのだった!!


 さて、みんなのピンチにはギリギリ駆け付けることができたわけだが……状況は依然として変わっていない。少し向こうでは、魔王が面白くなさそうな顔をしてこちらを見ている。


「また来たのか。余に勝てないということはさっきわかっただろう?」


 相手は魔王。彼の声はどこか魅惑的で、同時に背筋が凍るような恐怖を与えてくる。正直恐ろしい。


 しかし、仲間が僕のために頑張ってくれたのだ。だったら次は僕が頑張る番だ!


「いいや。僕は絶対にお前に勝つ」


「……愚かだな。敗北すると分かっていて、何故同じことをするのか。こんなに醜い生物は、この世から滅ぼさなければいけないな」


 違う。負けるつもりなんか毛頭ない。僕はこいつに勝ちに来たんだ。リーシャや、他の神器たちと一緒に。


「散れ! 愚かな人間どもよ!!」


 魔王の剣に黒いオーラが宿る。来る。さっきの斬撃だ!


 まだ確証は掴めていないけど……一か八かだ。これでだめなら僕もみんなも死ぬ。


「行くよ……みんな!」


『『『『『了解!』』』』』


 地面を真っ二つに引き裂きながら斬撃が迫ってくる。僕はそれを見つめながら、リーシャを高く掲げた。


「今こそ、みんなの力を一つに・・・!!」


 その時、バッグから他の4つの神器たちが出てきて、宙を舞う。リーシャを中心にグルグルと回った神器たちは、吸い寄せられるようにしてリーシャに集まっていく――!


「なっ!?」


 魔王が驚きの声を上げた。リーシャが夜明けの太陽のようにまぶしい光を放ったと同時に、魔王の斬撃が着弾し、大規模な爆発が起こった。


「ルカ!?」


 セシルが声を上げた。攻撃を食らったけど――どこも痛くない。


 煙が少しずつ晴れていく。視界が自由になって手元を見た僕は、息をのんだ。


「な、なんだこれ!?」


 僕が握っていたのは――一本の白金の剣だった。


 特徴はリーシャとそっくりだけど、まるで違う。装飾が派手だし、サイズも少し大きい。柄の中心には彼女の瞳にそっくりな水色の宝石が埋め込まれていた。


『どうやら、仮説は立証されたようね』


「その声は――レティ!?」


 おかしい。剣からレティの声がしたぞ。


『む、これはつまりやったのじゃな! でかしたぞ!』


『うるさいっス! あたしの体で騒がないでくださいっス!』


『ちょっと静かに! ややこしくなるから!』


 続いて聞こえる、ミリア・イスタ・リムの声。これってやっぱり……そういうことだよね?


『ルカさん、私たち……』


「合体したーーーーーーーーッ!!」


 5つの神器たちが合わさって、1つの剣に姿を変えたのだ。これを合体と言わずして何というのか!?


「えーと、ルカ・ルミエール。説明してくれクマ。さっきから全然話についていけてないクマよ」


「うん、実はダンジョンの奥で……」


 ダンジョンの最深部で勇者アレンに出会った。彼が言うことにはこうだった。



「この映像は、条件を満たした人物にだけ見ることができるものだ。これから君に――真実を伝えよう」


「真実……?」


「復讐の女神には加護がある。『攻撃を受ければ受けるほど強くなる』というものだ。復讐の女神リオノーラが創り出した神器には、それぞれその効果がある」


 それはネクロスが使っていたタナトスで実証済みだ。ネクロスの場合は大したことなかったけど……厄介な能力ではある。


「だとすればこうは思わないか? 調和の女神にも加護があるはずだ、と」


 たしかに。しかし、そんな話は一度も聞いたことがない。


「答えよう。調和の女神の加護は、『絆』の力だ。神器とその所有者が心を通わせることで、真の力を発揮することが出来る」


「真の力――?」


「……僕にはそれを引き出すことはできなかった。魔王を倒すことはできたものの、ほんの一瞬の奇跡のようなものだ。僕は君がその奇跡を掴むことを祈っているよ」



 調和の女神の力。絆の力。もしそれが本当に存在するものなら――真の効果を発揮できる一番の可能性は、『合体すること』だと思ったのだ。


「みんな、大丈夫!? なんともない!?」


『私たちは大丈夫ですよ! それに、思い出したんです!』


「これは……リーシャか! なに!?」


『2000年前の出来事です。調和の女神と復讐の女神。そして勇者と魔王の戦いのことを!』


 リーシャはさらに続ける。


『2000年前、私たちは別々の存在でした。5つの神器で魔王に立ち向かった。しかし、一瞬だけ1つの存在に合体したんです。それがきっかけで魔王にとどめを刺すことが出来た』


 勇者アレンが言っていた『一瞬の奇跡』とは、そのことを意味していたのだろう。


『そして、戦いの後で私たちはまた別々に別れた。そして、記憶のピースもバラバラになったんです。だから私たちの記憶は曖昧だったんです!』


 一枚のパズルを崩して、ピースをバラバラに分けた、ということだろうか。つまり、再び彼女たちが一つになったことで、記憶は元に戻った。


「じゃ、じゃあこの剣の名前は!?」


『うーん、この姿になるのは二回目だから、名前はないですね……今付けましょうか?』


『はいはい! 『最強ミリア剣』がいいのじゃ! 何と言っても目立つ!』


『それじゃあ悪目立ちしかしないっスよ! ここは『ユニゾン!』でいくっス!』


『間を取って『カラフルソード』とか……』


 ひどいネーミングセンスだな。こんな切迫した状況なのに、と困っていると。


『……神聖剣アルカディア』


「レティ、今なんて?」


『女神の力を宿した剣だから、神聖剣。そして、ルカの名前が入ったアルカディア、なんてどうかしら』


 おお、それはいい! リーシャの名前をベースにしながらも、合体した感があるぞ。


「よーし、この神聖剣アルカディアで、お前を倒してやる!」


『『『『『おーーー!!』』』』』


 僕は剣の切っ先を魔王に向けた。

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