第115話 死神は笑う
「ハハハハハハハハ!! どうした!? 私のような羽虫一匹殺せないのか!?」
「黙れ! <クリムゾン・フレア>!!」
僕の手のひらから展開された魔法陣から、紅蓮の炎が放たれる。火炎弾はネクロスの体を覆い、焼き尽くす。
「熱い! 熱いぞ! 全身が溶けるような熱さだ!!」
炎に包まれたネクロスは地面に倒れる。普通の人間だったら死んでいるはずだが――こいつはそうではない。
次の瞬間、ネクロスの体が爆発する。風で炎は吹き飛び、土埃が立った。
煙が消えると、目の前にはまた、無傷のネクロスの姿があった。これで5回目。
炎で焼き続ければ、相手は復活することしかできないから無力化できると思ったんだけど……そう上手く話は進まないらしい。
「何をやっても無駄なのだよ。お前だって知っているだろう? 神器の圧倒的な力を!」
彼の言う通りだ。神器が他の道具たちと比べて圧倒的な効果を発揮することは、僕が一番よくわかっている。
リーシャで胴体を切り裂いても、ミリアの一撃で叩きつぶしても、イスタの弓矢で磔にしても、リムの魔法で焼き尽くしても、何をしても死なない。
不死身だ。この男はまさしく、死を超越してしまったのだ。
『ルカさん! あのローブを脱がせればいいんじゃないでしょうか!?』
『残念だけどそれは無理ね。さっき炎を浴びたのに、あのローブは傷一つない。普段なら興味あるところだけど……そうも言ってられないわ』
残念だが、今あいつを倒すための手段は思いつきそうもない。不幸中の幸いで、相手は僕に傷をつけることはできないから、何パターンかの倒し方で弱点を探るしかない。
「そんな悠長にしていていいのかな?
「何を言ってるんだ……?」
問いかけた刹那。
「もう5回も私を殺して
ネクロスが地面を蹴って、こっちに突進してきた。僕は驚く。彼の声にではない。彼の速さにだ。
「くっ!」
リーシャで素早く彼の胴体を捉え、真っ二つに切り裂く。しかし、僕は驚きを隠せないでいた。なぜなら、彼のスピードが格段に上がっているからだ。
今まで、ネクロスはあんなに速い動きは見せなかった。わざと隠していたようには思えない。だとすれば答えは一つ。
「気付いただろう? 邪神器には復讐の女神の祝福がある。私は攻撃を受ければ受けるほど、身体能力を高めることが出来る!!」
やはりだ。わざと力を隠していたわけでないのなら、戦いの最中に進化したと考えるのが妥当。
ネクロスは攻撃を受ければ受けるほど強くなる。つまり、彼は今、死んだ分だけ強くなっているのだ――!
「これで6回。いいのかなあ、また強くなってしまった」
状況が変わった。ネクロスを倒す方法を早く考えなければいけない。戦いが長引けば長引くほど、奴は強くなってしまう!
「さあ、次はどんな方法で私を殺してくれるんだ!?」
ネクロスはケタケタ笑いながらまた突進してくる。やはり、速度はさっきよりも速くなっている!
『ルカ。あなたは攻撃しないで、防御は私に任せて』
「レティ! 大丈夫なの!?」
『この程度、造作もないわ。その代わり、あなたは奴を倒す方法を考えなさい』
ネクロスは、猛獣のように爪を立ててひっかく動作をする。彼の指先には紫色の炎が宿っていて、心臓をえぐり取る悪魔のようだ。
生身で食らえばひとたまりもないだろうが、僕の体はレティが守ってくれている。攻撃の反動は受けたが、ダメージはない。
「チッ……神器か……」
ネクロスは口惜しそうに下唇を噛む。肉に歯が突き刺さって、ツーと血が垂れた。
これでネクロスを殺すことなく、作戦を考えることができる。
しかし――こいつを攻略する方法なんてあるのか?
攻撃すれば、今よりさらに強くなる。攻撃しなければ街で暴れだすかもしれない。カシクマに頼んで別次元に隔離するという手もあるが、彼女は今ドラゴン退治の真っ最中だ。
『ルカさん! あの邪神器を破壊するというのはどうですか!?』
「そんなこと出来るの!?」
『それは無理な話なのじゃ。復讐の女神のものとはいえ、神器は神器。わらわのパワーを以ってしても相打ちってところじゃろうな……』
相打ちではダメだ。悪いが大事な
『でも、神器を破壊するっていう話はいい筋いってる気がするわ! 問題は、何で破壊するか……』
『メイカになんとかしてもらうとか……でも、到着するのを待ってたら魔王に追いつけないっス!』
神器たちがあれやこれやと話を進める中、僕はネクロスの攻撃を受け続ける。
駄目だ、話がまとまる気配がない。邪神器を破壊するにしても方法がない。打つ手なし、というやつだ。
「つまらない! そうやって攻撃をしてこないなら、街の人間を殺してやる!」
ネクロスはしびれを切らして地団太を踏む。そろそろ限界だ。やはりネクロスを攻撃するしか――。
「ルカ!!」
そう思った時だ。僕とネクロスしかいないはずだったその場所に、一人の少女の声が響く。
扉を開けて立っていたのは、エリー。生まれたての小鹿のように震えた足で、こっちを見据えていた。
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