第112話 復活した死者たち
※※お話の前に※※
今まで冥世の門は片側開きの扉(?)みたいな感じで書いてたんですが、両側開きの門っぽいタイプにしました!許してください!
※
ルカがネクロスと戦闘をしているその時。街中のあちこちで悲鳴が上がっていた。
街を埋め尽くしているのは、冥世から這い出てきた亡者たち。火に焼かれた後のように、全身が水膨れになっている男。爪と髪が異常に伸びた女。おおよそ人間とは呼べないような
目的はただ一つ。一度死んだものとして、生にしがみつくため。かつての栄光を取り戻すため。そして、自分と同じ苦しみを生者に与えるため。蛇のように長く伸びた舌で、生きる人々の命をなめとろうとしていた。
「住民は建物に避難しろ! 兵士たちが来るまで時間を稼ぐんだ!」
逃げ惑う人々と逆方向に向かって、兵士ミハイルは走っていた。か弱い市民たちに避難を勧告し、彼らを守るために武器を持つ。
「ミハイルさん!」
その時、ミハイルの方へ向かって二人の少年少女が駆け寄ってくる。セシルとアルベールだった。
「二人とも無事だったか! 突然謎の生き物が町中に溢れてしまって……」
「ミハイルさん、単刀直入に言うわ。冥世の門が開かれたの」
セシルは知っている情報を事細かに説明した。世界の危機であるということを伝えるとミハイルは驚いたが、すぐに話に耳を傾けた。
「なるほど、よくわかった。ユグドラシル殿は私たちにどうしろと?」
「ミハイルさんは市民の避難誘導と、街にいるこいつらをなんとかしてほしいの! 私とアルルは冥世の門を閉じる!」
「承知した。他の兵士たちに状況を伝えるとともに、人命を優先する! そちらに救援は必要か?」
「不要だ。そんなことより、こいつらをなんとかすることに集中しろ!」
アルベールは大剣を横なぎに振り回し、異形の亡者たちを斬り捨てて言った。胴体が真っ二つになった亡者たちは、溶けた氷のように地面に吸い込まれていく。
「そうか。では二人とも、後は頼んだ!」
「ミハイルさんも頑張って!」
三人は亡者たちを倒しながら、それぞれ別の方向へ走り出す。進路の先にはまだまだ敵がうごめいていた。
*
「ついた! 冥世の門!」
道中で市民たちを助けながら、二人はやっとのことで門にたどり着く。いつもは閉じているはずの門が、両側に分かれて口を開けているようだ。
そして、中からはフラフラと重そうな足取りの亡者たちが湧いてきている。門の内側から聞こえるうめき声から察するに、まだまだかなりの数が控えているだろう。
「というか、これは……」
「多すぎでしょおおおおおお!?」
セシルは思わず叫ぶ。湧き出てくる亡者の数が尋常じゃない。ざっと見た感じで百人は優に超えている。
もはや大群だ。おそらく、今この街で一番活気がある場所はここだろう。二人はその数に絶句した。
「どーすんのよ!? さすがに多すぎるでしょ!?」
「騒ぐな!! 一人残らず
「話聞いてなかったの!? 何匹倒しても、門が開いてる限り無限に復活してくるんだってば!!」
大剣をぶん回して亡者を一掃するアルベール。しかし、焼け石に水という様子で、倒している間にそれ以上の数の亡者が門から湧き出してくる。
「撤退よ撤退! 勢いで救援はいらないとか言ったけど、こんなの二人じゃどうしようもないわよ!」
「待て! あれを見ろ!」
背を向けて走り出そうとするセシルの首根っこを掴み、アルベールが門の方を指さした。
山のような亡者たちにまぎれた向こう側。ひとりの少女がうつむいて立っている。茶色の髪のその少女は、まさしく二人が探していたメイカだ。
「メイカ! おーい! こっち見なさいよー!」
セシルは魔法を展開しながら声を上げるが、声は全く届いていない。メイカはただ呆然として門の脇に立ちつくしている。
「門を閉じるためにはあいつの力が必要なんだろ? だとしたらここは突進あるのみだ」
「このおバカ! 突進したら私たちが死ぬでしょーが! まずメイカのところまで行けないから!」
「でも戦わないと前にも進めないだろ。ここはやはり気合で……」
「もうやだこの子! 『後退する』って言葉が辞書にないの!?」
二人がもめていると、近くで地響きが起こる。地震ではない。何か大きいものが動いている音だ。
「ずいぶん楽しそうだナ、お嬢さんたちィ~?」
二人の体を大きな影が塗りつぶす。二人はおそるおそる声がした方向――斜め上を見る。
そこに立っていたのは、体長4メートルはあろう、巨大な二足歩行の豚だった。
「「なんだこいつーーー!?!?」」
「よくぞ聞いてくれたナ、俺様は魔王軍幹部の一人、貪欲のピッグ様だ! 魔王様に続いてはせ参じたゾ!!」
ピンク色の肌をした豚。その顔は中年の太り散らかしたおじさんに豚鼻を付けたような醜いものだった。
「お嬢さんたち、冥世の門を閉じるとか言ってるナ? 悪いけどそんなことはさせないんだナ!」
鼻息をふがふがと荒くしながら、豚は背に背負った棍棒を引き抜いた。自分たちの背丈よりも大きい棍棒を見て、二人は顔を青くする。
「よし、俺のレイとどっちが硬いか勝負だ!」
「んなもん勝てるわけないでしょうが! 逃げるわよ!!」
戦おうとするアルベールを引っ張り、セシルは走り出す。どう考えても戦力差が違いすぎる現状、セシルの判断は正しい。
「ハハハハハハ!! 逃げても無駄なんだナ!」
ピッグは棍棒を振り下ろし、地面にたたきつける。二人の背後で大きな地鳴りが起こり、爆発のような音が鳴り響く。
「うわああああああああああ!! もう嫌なんですけどおおおおおおお!!」
セシルがアルベールを引きずりながら涙目で叫んだその時。
「恐れるでない! この程度の
背後から聞こえてくる、低く雄々しい声。聞き覚えのあるその声に、セシルは思わず足を止めて振り返った。
「あ? なんなんだナお前……」
「<神器よこせパンチ>ッッ!!」
振り返ったピッグの胴体がゴムボールのように歪み、一気に後方へと吹っ飛ばされる。ピッグの巨体は一人の男のパンチによって、遥か彼方の壁に叩きつけられたのだった。
「嘘、あなたは……」
セシルは、パンチを放ったその人物を知っていた。うっすらとではあるが確かな記憶。声を聞くだけでそれが思い出され、全身に鳥肌が立つ。
その人物は――古代王エルドレイン・アインザックⅡ世。まさにその人である。
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