第100話 1時間目:歴史
その後も諸々の手続きを済ませると……どうやら、僕もエリーと同じ教室で授業を行うことになっていることがわかった。
たしかに護衛のためならそれが一番なのはわかるけど、僕みたいな学のないやつが授業に混ざって大丈夫なのだろうか。
というわけで、僕には教室のエリーの右隣の席が当てられることに。
1時間目は歴史の授業。垂れた犬耳の先生が教壇に立った。
「それでは、本日は古代の歴史を学んでいこうと思います。教科書を開いてください」
僕はもちろん教科書なんて持っていないので、エリーと机をくっつけて見せてもらおうとする。
「ちょっとそこのあなた! 生徒の勉強を妨害しないでください!」
その時、先生がすごい剣幕で僕のことを怒鳴りつけてきた。
「えっ、でも僕は教科書持ってないし……」
「それはあなたの都合でしょう。そんなことをしてエレアノールさんの成績に影響があったらどうするつもりなんです?」
そんなこと言われてもな……というか、この先生当たりが強くないか。
理由ははっきりわかっている。どこの馬の骨とも知らない平民が護衛にやってきてエリーに馴れ馴れしくしていたら気に入らないだろう。
「わかりました。じゃあ本を増やせばいいですよね?」
「どういう意味ですか? 本を増やすなんて、書き写しでもしないかぎり無理でしょう!」
「いや、複製魔法を使うんです」
僕はエリーの教科書に手をかざす。リムの能力で複製魔法を使うと、たちまち本が二冊になった。
「こ、これは……!? あなた、なぜ複製魔法なんか使えるんですか!?」
先生が驚いた顔で騒ぎ始める。教壇から降りて本をぺたぺた触り始めた。
「複製魔法は古代に生み出された魔法であり、開発した人間も完璧に複製することはできなかったというのに!?」
信じられないと言った表情で本の手触りを確認し、ページをめくる。素材はもちろん、一言一句間違っていない完璧なものだ。
えっ、複製魔法ってすごいものなのか。なんかとんでもないことしちゃったなあ。
たしか最後に使ったのは、みんなでお絵描き大会をした時に筆記用具を増やしたんだっけ。そういうしょうもないことに使っちゃ駄目なタイプの魔法だったのか。
「わ、わかりました。特別にその教科書で授業を受けることを許可します」
先生が食い下がったその時。
「ハァハァ、し、失礼します!!」
教室のドアが開けられる。決河の勢いでなだれ込んできたのは、僕に絡んできた獣人三人だ。
「あなたたち。遅刻ですよ。どうしたのですか?」
そりゃ遅刻もするだろう。僕に幻を見せられていたんだから。
「そ、それが! 気づいたら時間が経っていて……!」
「そんなふざけた理由が通るわけありません! 廊下に立っていなさい!!」
三人は肩を落としてトボトボと廊下へ歩いていった。どうやらここは古典的なタイプの学校らしい。
「えー、それでは授業を再開します」
それから、先生による歴史の授業が始まった。
内容は、約2000年前。この時代は神話の時代と言われている。先生の話によるとこうだった。
神話の時代。調和の女神・エリカが起こした光の爆発によって世界が生まれる。
調和の女神は光と闇を生み出し、大地と海を生み出し、風と自然を生み出し、最後に人間を生み出す。
そうして世界に光が満ち満ちていたころ、世界の
そんな影から生まれたのが、復讐の女神・リオノーラ。
リオノーラと聞いてすぐにピンときた。ネクロスが言っていた名前だ。
『世界は美しくなる。リオノーラの名のもとに』。これは、復讐の女神を賛美する内容だったのだ。
リオノーラは影の世界――つまり冥世の主となった。争いに勝つことが出来ずに死んだ弱いモンスターたちを肯定し、愛した。
いつしか彼女は、現世を支配することを考え始めた。冥世にいる弱者たちに力を与え、その中で一番出来が良かったものを『魔王』にして、現世へと侵攻を進める。
対する調和の女神は、生命体を変容させることはせず、戦うための『武器』を作り出した。一番知恵があった人間という種族の男にそれを渡し、勇者と名付ける。
この勇者こそが、僕にメッセージを残した勇者アレン・カーディオだ。
そのあとは僕も知っている結末。勇者は魔王に勝利するが、調和の女神は復讐の女神によって滅ぼされてしまった。
その代わり、復讐の女神も封印されて、好き勝手が出来なくなってしまったそうだ。
そして、今は調和の女神と復讐の女神の子供たちがそれぞれ役職について、争うことなく世界を治めているのでした、ということ。
「――以上で、古代の範囲を終了します」
先生はぱたりと教科書を閉じる。同時に、学校の鐘が鳴らされた。
なるほど、勉強になったな。調和の女神と復讐の女神にも名前があったなんて知らなかった。世界にはまだまだ知らないことがあるんだな。
また教科書をパラパラとめくっていると、1000年前のページにエルドレインの肖像画が載っていた。『神器を求めた
神器が欲しくて現代まで蘇ってくるんだからすごい執念だよなあ。彼と話したことがある僕って偉人と知り合いということになるのかな?
「明日はテストなので、しっかり勉強をしてから臨んでくださいね。次の授業に遅れないように」
犬耳先生はそれだけ言い残すと、教室の外へ出ていった。入れ替わりに、三人の獣人の生徒たちが戻ってくるのを見て、僕は内心でほくそ笑んだ。
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