第99話 幸先の悪い学校生活!
後日。僕は朝からドグランズの街を歩いていた。
隣を歩くのは、この国のお姫様、エリー。普段はドレス姿の彼女だが、今日はいつもと違って、ブレザーに身を包んでいる。
今日は、彼女の登校日。久しぶりに学校に行くからか、彼女は心なしかスキップをしている。
ユグちゃんからもらったエリクサーの力でスキルの効果を抑えることが出来たので、エリーは数日前からようやく外に出ることができている。
しばらく独りぼっちで部屋の中にいたものだから、よほど外に出るのが嬉しいらしい。最近は笑う回数や口数も増えてきた。
神器たちやアルベール、セシルとも仲良くやっているようで、楽しそうで何よりだ。
中でも一番仲がいいのは、メイカ。
見れば見るほど二人の瞳はそっくりで、まるで双子なんじゃないかと疑うほどだ。目と髪の色が違うのと、エリーの背が少し伸びたら、完全に瓜二つだろう。
「ねえ、ルカ? 私の格好、変じゃない?」
エリーは灰色のプリーツスカートを揺らし、僕に聞いてくる。赤茶色のブレザーは彼女の小柄な体にフィットしていて、いい調子だ。
「うん。似合ってるよ」
「そっか、ならよかった」
エリーは満足したようにはにかむと、進行方向を指さした。
「あれが私の学校だよ」
彼女が指をさした方向には、赤い屋根の立派な学校が立っていた。ドグランズには大きな建物が多いが、中でもお城についでひときわ大きな建物だ。
校門の方を見てみると、身なりのいい獣人たちが、ゾロゾロと敷地内に進んでいる。エリーが通っているっていうことは、そこそこ裕福な子たちが通っている学校なんだろうか。
校門の前まで来ると、エリーが僕の前に立って、くるりと振り返った。
「私は生徒のゲートから入るから、ルカは一般のゲートで受付を済ませてきて。私の護衛って言えば伝わると思う」
言われて見てみると、校門は二つのゲートに別れていて、右は生徒用、左は一般用となっている。セキュリティは万全なようだ。
「わかった。ちょっと行ってくるよ」
僕はエリーに言われた通り、左のゲートから敷地へと入っていく。すぐ目の前に赤レンガの小さな建物があって、あれが受付なのだと合点した。
「すみません、エリー……じゃなくて、エレアノール姫の護衛として入校したいのですが」
「ああ、聞いていますよ。何か身分を証明できるものはありますか?」
僕は懐から冒険者カードを取り出し、窓口のおじさんに差し出した。
「……? あの、失礼なんですが、これは本当にあなたで間違いないのですね?」
「はい。そうですが何か?」
「いえ、失礼ですが、あなたはもしかして平民なのですか?」
ん。なんか嫌な予感がするぞ。
「それに、冒険者のランクがF……失礼ですが、本当にエレアノール姫をお守りする役割の方でいいんですよね?」
やっぱりこのパターンか。
おじさんは悪気があって言っているわけではない。この学校は貴族の子供たちが出入りするような学校で、僕はFランク冒険者の平民だ。変な目で見られるのも仕方がない。
「とにかく、エリーには確かに頼まれているんです。通してもらえますか?」
「は、はあ……かしこまりました。お通りください」
おじさんに一礼して、僕は敷地へと進む。ひと悶着は合ったものの、ちゃんと通ることはできたし、まあいいだろう。
それにしても、幸先よくないなあ。久しぶりにFラン扱いされたぞ。これ以上続かなければいいけど……。
「おい! お前!」
ん……? これはもしかして僕を呼んでいるのか……?
ほとばしる嫌な予感。僕が声をした方を見てみると。
そこにはサル、タヌキ、キツネの三人の獣人が立っていた。三人ともブレザーを着ているから、ここの学生だろうか?
僕の中の嫌な予感を助長させたのは、彼らの表情だ。全員がニヤニヤと笑ってこっちを見ている。僕の人生の中でこれほど既視感のある表情ったらない。
「お前、エレアノール姫の護衛らしいな?」
「そうだけど、何?」
「悪いことは言わないから、やめとけよ!」
「なんで?」
「お前みたいなFラン冒険者の雑魚には務まらないからだよ!」
サル、タヌキ、キツネの三人は順に言うと、ゲラゲラと笑いだした。
またこれかあ。なんでこういう時の悪い予感はいつも当たるんだろうか。最近になってようやく回数が減ってきたと思ったのに。
「おい、なんとか言ってみろよ!」
サルの獣人は僕の胸をドンと小突いてきた。やれやれ。
「じゃあ言わせてもらうけど……君たちはモンスターを倒したことはあるの?」
「ないぜ。だけど訓練で鍛えてるから、実戦だって余裕に決まってるだろ!」
「それに、俺たちは貴族だぜ? 直接手を下すんじゃなくて、国のために頭を使うのが仕事だ。お前みたいな手足なんざ、頭がなきゃ動けないからな!」
三人はまたケタケタと笑い始めた。腹を抱え、僕のことを馬鹿にしている。
僕は、そんな彼らの様子を
魔法でちょっとした幻影を見せている。彼らの目には僕が映っているのだろうが、現実には何もない。彼らは虚無に向かって語り掛けている。
まったく……手加減したつもりなんだけど、楽しそうに笑ってるなあ。技術訓練では幻影への対抗方法とか学ばないんだろうか。
ま、あと10分くらいすれば魔法は解けるので、彼らも現実に戻ってくるだろう。
しかし、厄介だなあ。もしかして、また絡まれたりするのかな?
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