第91話 巨神と戦った虎

「二人ともお疲れ様。あとは僕がやるよ」


 僕は二人に回復魔法をかけて、階段に向かって歩き出す。戦いの後なので、二人とも呼吸が荒い。


「これで終わりか? 俺たちはまだ出来るぞ」


「やめた方がいいよ。僕の勘だとこの後は多分――いや、とりあえず見た方が早いね」


 常闇の洞窟を攻略した経験から、なんとなくこの後の展開は読むことができる。僕は先陣を切って階段を昇った。


「え――嘘でしょ!?」


 階段の先に広がっていた光景に、セシルが声を上げた。


 26階層で僕たちを待ち受けていたのは――さっきのゴーレムにそっくりなモンスター。サイズこそ一回り小さいが、何と言っても数が多い。見えるだけでも3体もいる。


 やはり、フロアボスの次の層からは攻略の難易度がグンと上がる。フロアボスを討伐することが前提になるからだろう。これは常闇の洞窟と同じだ。


 さっきのボスゴーレムのレベルを<サンシャイン>で見たところ、25だった。今目の前にいるゴーレムたちはそれより少し小さいから、23くらいだろう。それでも、セシルたちよりレベルは高い。


 二人の限界は25層だ。だから後は僕がやる。


 ――とはいえ、こんなところ・・・・・・で時間をかけるつもりは毛頭ない。


「<閃光の群衆フラッシュ・モブ>」


 魔法の発動を宣言すると、白い光の球体が僕の体の周りに現れ、一直線に敵に向かっていった。


 さっきセシルが<雷撃殲陣ライトニング・ゾーン>という魔法を使っていたが、どうやら僕が放った光の球体は、一個一個が同等かそれ以上の威力であるようだ。


 光の球は光線となってゴーレムたちを貫き、一瞬で木っ端みじんにしてしまった。数秒のうちにあっさりと撃破できた。


「さ、急ごう。1階層5分かかってもあと75回も繰り返したら6時間くらいかかっちゃうからね」


「「……」」


 おや、二人が固まってしまっている。どうしたんだろう?


「なんか、間違ってる気がする」


「何が!?」


「私たちが頑張って倒した相手をこうも一瞬でっておかしくない? ルカが出てくるまで、今回のダンジョン攻略のベストバウトになりそうな勢いだったのに」


 そんなこと言われても……。


「そもそも、なんでそんなに強くなっちゃったのよ? もう神器がうんぬんって話も通用しない気がするんだけど」


 言われて見れば、どうしても僕と他の人とでレベルの上がり方にこうも差があるのかは気になる。


「レティ、解説してほしいんだけど」


『ルカの場合は、リーシャの力で強い敵を倒せたのが原因ね。レベル1だったあなたは、リーシャの力で+40レベルの相手と戦うことが出来たの』


 なるほど、だからそのぶん早くレベルが上がったってことか。確かに、エルドレインと戦った時は僕の方がレベルは低かったけど、圧倒することができた。


 要するに、僕はあまりすごいわけではない。さっきの魔法だって、リムがいなければ使えないものだ。


 よし、今日のダンジョン攻略でもっと強くなって、僕自身が活躍できるようにならないと!!



 そこからのダンジョン攻略は、とんとん拍子進んでいった。


 リムの<探索指針コンパス>で階段の位置を把握しつつ、モンスターを撃破。魔法攻撃が効率はいいが、さすがに飽きてくるのでリーシャ・ミリア・イスタも使ってみる。


 強いモンスターと戦うのは吸血鬼の真祖ファシルス戦以来だったので、なんだか久しぶりにリフレッシュできたような気がする。


 神器たちの上手い使い方を考えつつ、モンスターを倒していく。気づくと既に99階層まで来ていた。


「もう99階層か。意外と早かったなあ」


「おかしい……絶対におかしい……」


「あいつ、本当に人間なのか?」


 後をついてくる二人は何やらお疲れなようで、ぼやきながらもゆっくりと歩いている。さすがに6時間もぶっ通しで歩いたら疲れるのも無理はないだろう。


「二人とも、次は100階層だよ。階段が豪華になってるから、ボスがいると思う。もう少しだから頑張って!」


「なんで戦ってない私たちの方が応援されてるのかしら……? これってあっていいことなの……?」


 セシルたちを励ましながら、100回目の階段を昇っていくと、そこには恒例のフロアボスが。


「グルルルルルル……!!」


 目に悪い黄色に黒いライン。金褐色の瞳は真っすぐにこちらを睨み据えて威嚇している。毛を逆立てて唸る、巨大な四足歩行の獣がそこにいた。


「これって……虎?」


 どこからどう見ても、サイズが大きい虎だ。前にテンペストライオンというデカいライオンと戦ったことがあるが、あれと大きさは変わらない。


 だが――このモンスター、テンペストライオンとは比べ物にならないほどのオーラを纏っている。強い。


「貴様カッ!! コノ世界樹ノ先ヲ行カントスル者ハッ!!」


 次の瞬間、虎が咆哮する。なんと、人間の言葉で喋り出したのだ。


「我コソハ、世界樹ノ守護者『ハンキウス』ッ!! コノダンジョンノ最後ノ砦ッッ!!」


「待って、ハンキウスって……大昔に世界で暴れた巨神タイタンと戦ったっていう!?」


「如何ニモ!! 巨神タイタンノ猛攻ヲ越エ、未ダ無敗ッッ!!」


 な、なんだって!!


「ココマデキタ人間ハ初メテダ!! 相手ガ誰デアロウト、容赦シナイ!!」


ハンキウスは前足で助走をつけ、光のような速さで走ってくる!!


 今までのダンジョンのモンスターの中で、一番早い! 巨体に弾き飛ばされ、僕は木の壁に叩きつけられた。


「ルカ!」


「我ガ神速ニハ、何人タリトモ追イツケヌ!!」


 ハンキウスの前足に殴りつけられ、さらに壁に直撃した。まるでゴムボールを壁に当てたように、跳ね返っては別の壁にぶつかるので、動くことができない。


 ハンキウス……巨神タイタンを倒した?


 世界樹の最後の守護者?


「ドウシタ! ソノ程度カッ!!」



 ってことは、これでダンジョン攻略は終わりだ!!!



「よかったーーーー!!!」


「何ッ!?!?」


 僕は声を上げると、激突した壁を蹴り、地面に戻る。


 ふう。よかった。これ以上ダンジョンが続くようなら、アルベールとセシルの体力を鑑みて、一度帰ろうか悩んでいたんだ。


 最後だと言うならば――遠慮する必要はない。


「リーシャ、アレ、行くよ!」


『アレですね! トラさんにミラクル見せちゃいましょう!!』


 リーシャを手に取り、一気に全身に力を籠める。剣身から白い光が放たれ、部屋全体がまばゆく光る。


「何ダコノ光ハッ!? 貴様、何ヲスルツモリダッ!?」


 野生の勘で危険を察知しているのだろう。ハンキウスは体勢を低くして身構えた。


「イイダロウッ!! ナラバ我モ、全力ノ一撃ヲ打チ込ムッ!!」


 僕の一撃に対抗するために、ハンキウスもこっちを睨み据えたまま、低く唸り始める。彼の体から真っ赤なオーラが放たれている。


「<セイクリッド・ストライク>!」


「<神獣猛打貫血牙ブラッド・ファング>!!」


 僕とハンキウスは激しくぶつかり合う。赤と白のオーラはまるで雷のようにバチバチと空間を駆け巡り、樹全体が揺れている――!!


「リーシャ、僕とハンキウスのパワーバランスはどんな感じ?」


『うーん、そうですねえ……33対4って感じじゃないですか?』


「ナ、何ダトオオオオオオオオオオ!?」


 ハンキウスはあっさり僕たちの攻撃に打ちのめされ、一気に後方へと吹っ飛ばされる。壁に叩きつけられると、バタリと地面に倒れた。


「見事ダ……初メテ負ケルノモ、悪クナイ……」


 満足そうに気を失ってしまった。


 いよいよ……この先に、神器がある。

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