第90話 二人の真価

「ギエエエエエエエエエ!!」


 マタンゴが豚のような鳴き声を上げる。アルベールの大剣の餌食になり、向かって来たマタンゴたちはバタバタと倒されてしまった。


「楽勝だったな」


 さすがはアルベール。幼少期から鍛錬を積んできただけあって、雑魚モンスター程度なら瞬殺だ。


「もー! 私が活躍するはずだったのに!」


「まだ先は長いんだから我慢しろ」


 初陣で出番がなかったから、セシルは少し不満なようだ。


「それにしても、こうも入り組んでいると、階段を見つけるのも一苦労ね……」


「壁を触りながら進むと、必ずゴールにたどり着くと聞いたことがある。やるぞ」


「……それ、一番時間がかかるって有名なやつよね?」


 たしかに、ダンジョンは普通に攻略しようとすると1階層あたり30分は時間がかかる。それは昔の僕が実証済みだ。単純計算で50時間は攻略に当たらないといけなくなるのは考え物だ。


『ねえ、ルカ君! ちょっといい?』


 その時、リムがバッグから僕に話しかけてきた。


『ダンジョン探索なら、便利な魔法があるわ! <探索指針コンパス>っていう魔法よ!』


 なるほど、補助系の魔法か。僕は言われた通りに、魔法の発動を宣言する。


 すると、突然目の前に半透明な板が現れた!


 これは、リーシャの<サンシャイン>で現れるステータスにそっくりだ。一か所、赤い点が発光していて、迷路のようなものが書かれている。


「これってもしかして……ダンジョンの地図!?」


 赤い点は僕の現在地を表しているようだ。ところどころに白い点が動いているのは、おそらくモンスター。旗が立っているところは階段がある場所だろうか。


 すごい。この魔法があればわざわざ階段を探さなくても一直線で階層を攻略できる。おまけにモンスターの位置情報付き。


 正直、今回もミリアがダンジョンの構造を変えて終わり、みたいなオチにならないか不安だった。神話の時代のダンジョンらしいし、あんまり雑には扱いたくないのだ。


「二人とも、行く方向は僕が指示するから、二人はモンスターを倒して」


「いや、いい。壁を触って進めばゴールにたどり着けるからな」


「だからなんでそんなに脳筋なの!? そこはルカに従っておきなさいよ!!」



 ちょっと抜けているところはあるけど……ここからの二人は本当にすごかった。


 アルベールは剣で、セシルは魔法でモンスターたちを蹂躙じゅうりんしていき、ノーダメージで階層を突破。


 <探索指針コンパス>の効果もあって、一階層あたり10分もかからないほどで攻略することができた。


 S級パーティの魔導士ウィッチに、命を懸けて鍛錬を積んできた吸血鬼狩りヴァンパイア・スレイヤー。二人とも実力は折り紙付きだ。そこんじょそこらのモンスターでは勝負にならない。


 10階層、20階層と難なく進んでいくと……例のごとく、24階層の階段は他の物とは少し見た目が変わっていた。


 つまり――フロアボスだ。


「これが噂で聞いたフロアボスってやつね……! 黄金の獅子ゴールデン・レオのデマだと思ってたけど、まさか本当とはね」


「二人とも、気を付けてね」


 セシルもアルベールも、強いとはいえ、フロアボスも強力なはずだ。気を抜けば命の危険もある。


 二人は意を決したようにして階段を昇る。僕も続いて黒曜石の段を踏みしめた。


 <探索指針コンパス>の地図に視線を落とす。階段の先は大広間になっているようだ。やはりここはフロアボスの間で間違いないらしい。そして、部屋の中心にはポツンと一つの白い点が。


「ちょ、ちょっと何よアレ!!」


 階段を昇り切ったその時、セシルが大きな声を上げた。


 彼女が指さしたその先には――巨大なゴーレムが立っているではないか!


 全長15メートルはある巨人。体は鈍色にびいろの岩石で出来ていて、ゴツゴツとした巨大な手のひらをこちらに向けていた。人間なんて軽く握りつぶすことができるだろう。


「ゴオオオオオオオオオ!!!」


 ゴーレムは思いきり雄たけびを上げると、土砂崩れのような勢いで拳を振り下ろしてきた!!


「ちょっと、無理無理無理!! こんなデカいモンスターがいるなんて聞いてない!」


「なんだあいつは? 岩のくせにどうやって動いてるんだ」


「言ってる場合か! あんな一撃を食らったら死んじゃうわよ!!」


 逃げまどう二人。ゴーレムは逃がすまいとしてどんどん追いかけまわしていく。


 一方僕は手を出すことができないので、リムの力を使って<透過インビジブル>という魔法を使っている。この空間から、僕の気配は完全に消えている状態だ。


 フロアボスは、二人にとって格上の相手。二人が成長するためにも、それにどのように対処していくのかを見守る必要がある。


「セシル! 逃げてばかりじゃなくて戦うぞ!」


「そんなこと言ったって、攻撃しようにも隙が無いじゃない! 死んだら終わりよ!」


 二人はどうにも攻めあぐねているようだ。逃げ回るばかりで、体力を消耗してしまっている。


「……よし。とりあえずぶった斬ってみるか」


「無理だから! こういうのは、まず作戦を考えて……」


「そんなことを言ったって、俺は作戦なんか思いつかない。考えるならお前が考えてくれ」


「……あーもう! わかったわ! 私は後方支援と指示を行うわ! だから、アルルは前衛で戦える!?」


「簡単な話だ」


 セシルが指示を飛ばした瞬間、アルベールが立ち止まって、追ってくるゴーレムの方を向いた。大剣を引き抜き、構える。


「ゴオオオオオオオオ!!」


「さあ決めよう。どっちが固いかを!!」


 ゴーレムが拳を振り下ろしてくるのと同時に、アルベールは大剣を横なぎに振るって、攻撃をはじき返す。高い金属音が鳴り響き、火花とともに強風が吹き荒れた。


「うおおおおおおおおお!!」


 大剣をものすごい勢いで振り回し、ゴーレムの攻撃を次々に跳ね返していく。アルベール得意の、<適当に剣を振り回すやつ>だ。


 重い大剣を振り回すことができる彼の膂力は凄いものだが、驚くべきなのは、自分の何倍も大きいゴーレムと対等に打ち合える彼の体の強さだ。


「アルル、ナイス! 下がっていいわ!!」


 その時、後方にいたセシルから再び指示が。アルベールはゴーレムの攻撃をいなすと、地面を蹴って後退した。


「<雷撃殲陣ライトニング・ゾーン>!!」


 セシルが魔法の発動を宣言すると、ゴーレムを中心にして巨大な魔法陣が生成された。


 刹那、ゴーレムの頭上に白い光の球が生成され、一気に巨大化した後、稲妻いなづまとなって降り注ぐ!!


 見ているだけで肌が焼けるような威力の雷に、滝のようなスピード。本物の稲妻と遜色そんしょくがない。たった一人でそれを再現することができるのは、セシルの才能あってこそだ。


「ゴオオオオオオオオ!?!?」


 稲妻を直撃で食らったゴーレムの体がボロボロと崩れ始め、破壊されていく。数秒のうちに、ゴーレムはただのガレキの山になってしまった。


 二人とも、気付いてくれたようだ。


 アルベールは、自分の体の強さを活かして戦士ウォーリア的な立ち回り――つまり、攻撃を引き付ける役割が向いている。しかし、彼は今までソロだったので、自分が戦うしかなかったのだ。


 セシルは、ルシウスの指示で、前線で戦うことが多かった。しかし、彼女の本領はむしろ後ろで戦うときに現れる。


 彼女の戦況を判断する力はすさまじい。そして何と言っても、練り上げられた高威力の魔法。彼女がすべきだったのは、後衛でサポートしながら戦う役割だ。


 そのことに気付いてくれたようで、僕も満足だ。そして、二人は十分頑張って戦った。


 ――あとは、僕の番だ。

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