第83話 気持ち新たに
「これは……普通の家に見えるが? ルカ、他人の家に勝手に上がっていいのか?」
お弁当をみんなで食べたあと、僕たちは適当な家の扉の前に立つ。ミハイルさんは事情がわかっていないのでいぶかし気な態度だ。
しかし、驚くのはこれからだ。僕が扉を開けると。
「そ、そんな馬鹿な!?」
途端、ミハイルさんが驚きの声を上げる。それもそのはず、扉の先は別の土地の風景が広がっていたからだ!
「間違いない、アニガルドの街だ……それも、王城があるドグランズの街ではないか!?」
扉をくぐり、ミハイルさんは街の風景を見渡す。彼の言う通り、正真正銘、本物の街である。
カシクマの能力、<ドア・トリップ>。扉を隔ててしまえばどんな場所にも行ける優れものだ。これさえあれば世界各地、どこでも旅費ゼロなのだ!
『ねえルカ君、これってひょっとして不法入国なんじゃ?』
『リムは細かいこと気にしすぎっス! 世界はつながってるんだから、国境なんて幻想にすぎないっスよ!』
イスタの言っていることは間違っているが、今回はリムには目を瞑ってもらおう。
「まったく、相変わらずやることが規格外だな、ルカは……」
「本当、どこからツッコめばいいのやら……」
扉の先のアニガルドをのぞき込み、ライオスとブルーノの二人が半ば呆れたようにつぶやく。
「二人も来る?」
「いや、俺はもうしばらくこの街の復興を手伝うことにするぜ。冒険者協会の立て直しもやりたいと思ってたんでな」
「僕も、あくまでジョージさんの使用人なので遠慮させてください。旅のお手伝いができなくて申し訳ないんですが」
二人にはそれぞれ予定があるようだ。まあ、予定もなしにフラフラ冒険者している僕が特殊なわけで。
「ちなみに、他のみんなは……」
「もっちろん! メイカはルカさんの行くところにはどこへでもついていきますにゃ!」
「私もだからぁぁぁぁ!! 私はこれまでの10年も、これからもルカと一緒だから!!」
「「むっ!!」」
女子メンバーは大声で挙手をした後、またバチバチと火花を散らし始めた。新しい旅先でもこの争いが続くのかと思うと胃もたれがしそうだ。
「俺も行く」
アルベールもまたやる気のようだ。腕を組んでバンとカッコよく言っているが、彼もまた予定がなく、おそらく何も考えていないのだろう!!
とにかく、不安はあるがメンバーは僕とミハイルさんを含めて5人。そこに神器ーズが加わると思うとツッコミで体がもつかどうかわからないが、困ったらリムに助けてもらおう。
「さあ、行こうか!」
僕たちは扉をくぐり、ライオスとブルーノの二人に手を振ってアニガルドへと足を踏み入れる!
「すごい……ここがアニガルドかあ……」
扉を閉じた後で、辺りを見渡す。ミカインの街はレンガ造りが多いのに対し、ここは木造の建物がずらっと並んでいる。どうやらここは住宅街のようで、人通りはミカインとさして変わらない。
猫耳の獣人の女性が、女神のような白い布を纏った像。人が集まっている大きな噴水。タイルの地面をゴロゴロと音を立てて竜車が走る。
ミカインと同じような都市。だけど、ミカインとはところどころ違うところがある。歩いている獣人の市民たちを見て、改めて異国感を覚えた。
そして、何よりもミカインと違うのは、遠くに見える王城の存在だ。あの赤茶色のレンガの城こそが、ミハイルさんが勤務しているファリパスト城というやつなのだろう。
「ここがドグランズ……」
メイカはキョロキョロと辺りを見回し、小さな声で呟いた。なにやら感銘を受けているような、そんな様子だ。
「メイカはドグランズに来たことがあるの?」
「メイカは覚えてないですけど、小さい頃はここに住んでたらしいですにゃ。パパとママが出会ったのもこの街だとか」
となると、メイカの原点となる街ってわけだ。彼女に思い入れがあるのも当然だ。
「ルカ。ひとまず王城に行こう。姫を探すために、まず君が城の状態を見るのが一番だろう」
そう言って、ミハイルさんは王城に向かって歩き始めた。さすがは土地勘があるようで、迷う様子がない。僕たちもそれに続いて歩き出した。
「あ、ミハイルだー!」
「おーい! ミハイルー!」
街を歩いていると、タヌキの耳の少年たちが楽しそうな声でこちらに手を振って、元気よく駆け寄ってきた。
「ミハイル
「わかってるよー! ミハイル、いつも街を守ってくれてありがとう!」
「俺、大きくなったらミハイルみたいな兵士になるんだ!」
「そうか。だったら、ちゃんと両親の手伝いもすることだ」
「「はーい!!」」
二人の少年は返事をすると、また元気よく走り出す。
「ミハイルー! 今日も見回りかー!?」
「ミハイルじゃねえか! また勘違いして暴走するんじゃねえぞー!」
街を歩けば、ミハイルさんの名前が聞こえてくる。小さな子供から老人まで、人々は彼の名前を呼んで、嬉しそうに話しかけるのだった。
不器用で一直線なタイプだけど、裏返せば真面目ということ。彼は街の人からすごく信頼されている。何より、彼を見た人々がそれを表している。
すごいなあ。僕もいつかはあんな風になれるだろうか。市民の安全のために戦うなんて、まさにヒーローじゃないか。
「ルカ。そろそろ着くぞ」
ミハイルさんを憧れのまなざしで見ていると、彼がピタッと立ち止まった。
いつの間にやら、僕たちの前には巨大な城がそびえ立っていた。
到着。ファリパスト城。遠くから見るよりも、やっぱり大きく感じる。今まで見てきたどんなモンスターよりも大きい。
前にカシクマが作り出した空間にお城があったが、あれよりも一回りも二回りも大きい。赤レンガ造りの巨大なお城は、僕たちを迎えるようにして敢然と立っていたのだった。
「さあ、入るぞ」
ミハイルさんの後に続いて、僕たちも門をくぐって城の中へ入っていく。門番さんに不法入国がバレるんじゃないかとヒヤヒヤしたが、特に問題はなかった。
「うわー! すごい!」
城の扉が開いた瞬間、セシルが目を輝かせながら声を上げた。
入り口に敷かれた真っ赤なカーペット。キラキラと輝くシャンデリア。良質な服を身に纏った獣人たち……城の内部はまさに異世界だった。
「ミハイルさん、僕たちはどこに向かってるんでしょうか?」
「君たちにはまず戦士長に会ってもらう。姫を探すならば、彼から話を聞くのが一番だろう」
そう言って、長い廊下の中、ミハイルさんはある扉の前で立った。
おそらく、彼の言う戦士長がこの部屋の中にいるのだろう。その人が、姫様の失踪について何か知っている……?
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