第81話 お弁当で修羅場!
「ルカさーん! お昼ご飯を作ってきましたにゃー!」
河原にやってきたのは、お弁当箱を持ったメイカ。組み手で疲れてお腹がすいたので、とてもありがたい。
「……で、なんで三人ともボロボロなんですにゃ?」
「あはははは……」
初めて魔法が使えると思って、僕としたことがエキサイトしてしまった。魔法を撃った直後にミリアの地形操作スキルを使い、アルベールとライオスをレティに守ってもらわなければ、危うくこの辺り一帯は焼け野原になっていただろう。
とんでもない魔法だった。リムの能力なら、本当にどんな魔法でも使えるんだ。それも、ざっくりとしたイメージというだけでも。神器ーズのみんなに言えることだけど、やはり
「お、ブルーノもいるじゃねえか!」
「ルカ様、失礼します」
メイカの後ろで恭しく頭を下げたのは、
「行って来たの? 師匠さんとのお別れ」
「はい。師匠の身辺の整理が終わって、ようやく落ち着いてきたところです」
ブルーノの師匠、エラルドは吸血鬼に殺された。死体が見つかっていないから行方不明として処理されているけど、ダンテさんの話を聞く限り、死んでいるので間違いないだろう。
「三人とも修行してたんですか? 今度は僕も混ぜてくださいね!」
「もちろん! ブルーノの魔法も見せてほしいと思ってたんだ!」
ブルーノと話していると、鼻腔に美味しそうな臭いが漂ってくる!
「さあさあ! 冷める前にみんなでご飯を食べましょうにゃ!」
メイカがシートを広げ、お弁当箱を展開している。中には色とりどりの具材が詰まっていて、出来立て特有の湯気が上がっている。秋の日を浴びて、照り映えているようだ。
「すごい……! これ全部作ったの?」
「そうですにゃ! メイカはルカさんの整備士! つまり、サポートはお任せということですにゃ!」
メイカはとにかく料理が上手だ。さらには汚いカシクマの家の掃除までこなし、神器ーズをなだめるのも彼女がやっているんだからすごい。
弁当箱に入っていたサンドイッチの一つを手に取り、一口。噛んだ瞬間にシャキシャキと心地いい食感がして、ベーコンのしょっぱさが口の中に広がる。
「これは……美味いな! 上腕二頭筋がパンプアップしてきたぜ!」
本当に、美味しすぎる。ライオスも気に入ったようで、膨れ上がった力こぶをぺたぺた触って喜んでいる。
「そうでしょう! ルカさんは一生このサンドイッチが食べられるんだから幸せ者ですにゃあ!」
一生……?
「ルカァーーーーーーーー!!」
その時、バタバタと激しい足音がして、セシルが颯爽と登場した。
「……どうしたの、セシル?」
「私もお弁当を作ったわ! 食べて!」
彼女が持ったお弁当箱には、同じように色々な食材が詰め込まれている。メイカの料理よりは見栄えがよくないが、昔から時々、彼女は僕に料理を作ってくれる。
僕が実際に食べようとしたとき、周りの目が気になった。みんながセシルのお弁当を凝視して、ギョッとしている。
「な、なんですかにゃ、それは……?」
「なにって、紫色のから揚げだよ」
「から揚げは紫色じゃないですにゃ!!」
たしかにから揚げは茶色だけど……セシルが作るから揚げは紫色だ。昔から。
「それ、美味いのか……?」
「うん、美味しいよ」
僕は瘴気を放つから揚げを一つつまんで、一口で食べた。うん、変わらない味だね。セシルが作るから揚げは少しスパイシーだ。
「そんなに気になるならライオスも食べてみなよ」
「それじゃあ、俺も一口……」
ライオスは恐る恐る、から揚げをつまんで口に放り込んだ。次の瞬間、彼の目が飛び出す!
「あがががががが……!?」
ライオスは膝から崩れ落ちれ、気を失ってしまった。何かうわごとのようなものを呟いている。
「ライオス!? どうしたの!?」
「ルカさん、やっぱりその女に騙されてますにゃ! そのから揚げは毒ですにゃ!」
メイカは僕を庇うように前に立った。セシルを威嚇しているようだ。
「な、何よ! 私はただお弁当を作っただけじゃない!」
「紫色のから揚げをですかにゃ!? ルカさんも、そんなもの美味しそうに食べちゃ駄目ですにゃ!」
「いや、僕はどっちも美味しいと思うけど……」
セシルの料理は、確かに見た目は普通じゃない。でも、味は美味しいと思うんだけどなあ。メイカが言うような毒が入っているなんてことはない。
「パーティの台所メイカが握ってるんですにゃ! メシマズは引っ込んでてくださいにゃ!」
「メ、メシマズ!? 言ったわね! あなたこそ、ルカに近づきすぎじゃない? 私はもう10年はずっと一緒にいるんだから!」
「じゅ、10年……10年も一緒にいて何もないってそれはもう……」
「うるさい! とにかく私が大量リードなのには違いないから!」
うーん、少し目を話していたら喧嘩が始まってしまったぞ。二人とも目に炎が宿っていて、謎の争いをしている。
「「ルカ|(さん)はどっちの料理の方が美味しかった|(ですにゃ)!?」」
二人はごちゃごちゃと喧嘩をした後、そろって詰め寄ってくる。
『これは……修羅場ね』
『レティ、修羅場ってなんスか?』
『痴情のもつれのことね……あれはどっちと答えても得をしないことが多いわ』
『うわー、センパイご
レティもイスタも他人事だと思って! これ、僕はどうすればいいんだよ……。
「姫ッ!?」
答えあぐねていたその時、一人の男の声が土手の方から聞こえてきた。
「な、なんのこえだろう!?」
好機とばかりに僕は話をそらし、声がした方を見る。
声の主は、犬の獣人だった。メイカのように耳や尻尾だけが動物というタイプではなく、全身にネイビーの毛が生えている。顔も完全に犬だし、どちらかと言うと犬が二足歩行で歩いているように見える。
「姫様! こんなところにいらっしゃったのですね!」
犬の男は土手を駆け下りて、僕の前にいるメイカの手を掴む。
メイカが、姫様……?
「ええええええええええ!?!?」
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