第80話 河原の激戦

 陽気な昼下がり。ミカイン近郊の河原では、男たちの声が響き渡っていた。


「おらっ! どうだ! もう終わりか!!」


「うるさい。俺が腕相撲野郎に負けるわけないだろ!!」


「そうこなくっちゃな!!」


 鳴り響く金属音。飛び散る火花。アルベールが大剣を振るう相手は、腕相撲野郎ことライオスだ。彼もまた、鋼の大剣を振り回して剣戟を繰り広げている。


「どうしたどうした!? 剣のキレが悪くなってるぜ!?」


「無駄口を、叩くな!」


 アルベールが語尾に勢いをつけ、思いきり一閃すると、ライオスの大剣が宙を舞い、地面に突き刺さった。ライオスは満足そうに笑い両手を上げて降伏を示す。


「参った。腕を上げたな」


「……いい勝負だった」


 二人はこうして、毎日のように組み手をしている。僕はその監督で、傍らで戦いを見ているというわけだ。


「それにしても、一週間でかなり強くなったな、アルル。俺もうかうかしてられねえ」


「アルルって呼ぶんじゃねえ」


 ライオスも吸血鬼の一件でようやく冒険者の仕事を頑張る気になったらしく、アルベールと組み手をしながら本調子を取り戻そうとしているらしい。さすがは腕相撲チャンピオンと言ったところで、その剛腕から繰り出される一撃はかなりパワフルだ。


「そういえばルカ。お前、吸血鬼退治の報酬金は受け取らなくていいのか?」


 ライオスが僕に話を振ってきた。報酬金というのは、ファシルスを含めた吸血鬼たちを倒したことで、街の人たちからの寄付が相次いでいることだ。僕はよくわかっていないが、かなりの額になるのだとか。リーシャなら飛びつくだろう。


「うん、別にいらないかな。街の復興のために使ってくれればいいや」


 ライオスたちは僕にお金を受け取る権利があると言うけれど、そもそも吸血鬼討伐の依頼なんて受けていないし、別に名声が欲しいわけじゃない。


 そんなことよりも、街や冒険者協会の立て直しにお金を使ってあげてほしいんだ。僕としても、世界一の冒険者になるためには、それをサポートしてくれる人がいないと困る。


「まったく規格外だな……どうしたらそんなに強くなれるんだ?」


「そうだなあ……強いて言えば、ダンジョンで格上の相手と戦ったからかも。リーシャの力を借りてだけど」


 ライオスの問いかけに答えると、二人が何故か僕のことをガン見してきた。もしかして、これは余計なことを言っちゃったやつだろうか。


「アルル! 二人で協力してルカを倒すぞ!!」


「アルルって呼ぶんじゃねえ!! ……が、同意だ!!」


 二人は組み手でヘロヘロになっているはずなのに、もう勢いを取り戻して、大剣を振り回してくる。いきなりの出来事に、僕は必死にかわす!!


「ちょ、ちょっと二人とも!?」


「格上と戦えば強くなれるんだろ? 悪いなルカ! 俺の腕相撲の糧になれ!!」


 いや、そういう意味じゃないから!! と言っても、二人は既に止まってくれそうな気配もない。


 仕方ない。僕も最近はなまっていたんだ。二人に相手してもらおう!


「神器ーズ! 行くよ!」


 僕はバッグに手を突っ込むと、中からリーシャを取り出す。アルベールの一撃をはじき返して、後退した。


「よーし、行くよ!」


 もう片方の手でミリアを持つと、僕は思いきり地面を蹴り上げた。衝撃で河原の柔らかい地面が一気に崩れたので、ミリアで修復を同時に行いながら肉薄する。


「は、速っ!?」


 ライオスは慌てながら剣で対応するが、あまりにも剣筋が遅すぎる。僕が思いきり剣を振るうと、巨体が勢いで転がっていってしまった。


 久しぶりに気分よく剣を振るっているので、風で川の流れが変わったり、土地が崩れたりしてしまう。だからミリアのスキルによる修正を秒単位で行って、自然が壊れてしまうのを管理しなければいけないのが大変だ。


「そうだ! 試してみよう!」


 アルベール振り下ろしてきた大剣を躱しながら、僕はバッグに手を突っ込み、リーシャからリムに武器を持ち変える。


 そういえば、魔法を使ったのはこの前の状態異常回復で最後だったっけ。だったら、今こそ試してみるいい機会じゃないか。


 ちなみに、底辺冒険者の僕は魔法を使ったことなんかない。人生初の魔法だ。ドキドキ。


 杖をグッと握り、僕はそれっぽく頭の中で魔法を使うイメージを描く。


 魔法はその現象を具体的にイメージしないと使うことができないと本で読んだことがある。だから、セシルが使っていた魔法なら僕でも使えるはずだ。


「<閃光フラッシュ>!!」


 杖を振るうと、その先から白く強烈な光が放たれる。河原がまばゆい光に包まれた。


「「目が!! 目があああああああ!!!!」」


 できた! 目つぶし魔法、<閃光フラッシュ>。ダンジョンで荷物持ちをさせられていた時代に、ルシウスが僕にだけ何の前触れもなくこの魔法を使ったのを覚えている。おかげで僕だけ視界を奪われ、置き去りにされて危うくモンスターの餌だ。


 それにしても感慨深い。僕が魔法を使えるようになるなんて。よーし、もっといろいろな魔法を使ってみよう!


「ねえレティ。何かカッコいい魔法ってないかな? 僕でも使えそうなやつ」


『そうね、前に本で読んだ<灼熱騒乱ヴォルケニック・インフェルノ>という魔法に興味があるわ』


 か、かっこいい名前だ! なんとなく魔法のイメージもつくし、何より使ってみたい!!


『ルカ君!? 駄目よ! そんな魔法を使ったら――』


『ルカ! 派手に舞うのじゃ! あの二人に魔法をかましてやれ!!』


『そうっス! 一発お見舞いするっスよ!』


 リムが止めたってことはロクなことにならなそうな気がするぞ!! でもやってみよう!!


「<灼熱騒乱ヴォルケニック・インフェルノ>!!」


 僕が魔法の発動を宣言した瞬間、目の前に半径二メートルほどの小ぶりな太陽が生成され、爆発を起こす!!


「「ぎゃあああああああああああ!?!?!?!?」」


 僕たちは次の瞬間、大規模な爆発に巻き込まれた。それは河原を跡形もなくしてしまうような威力の一撃だった。

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