第79話 みんなで復興

「ルカー! こっちおねがーい!!」


「はーい! 今行くー!」


 吸血鬼たちの騒動から一週間。僕たちはミカインの街の復興に尽力していた。


 僕を呼んだのは、幼馴染のセシル。すっかり現場監督に慣れたようで、僕を含めた作業員にテキパキと指示を飛ばしている。


「これをあっちに持って行ってほしいの! お願いできる?」


「わかった! 任せてよ」


 セシルが指した場所にある角材を抱えあげ、僕は歩き出す。


 まだ一週間しか経っていないが、街は見違えるほどに綺麗になった。壊れていた建物はみんなの力で半分ほど修理することが出来た。


 午前中に修理を行って、午後はほとんど自由時間。毎日が充実している。ルシウスに殺されかけてから一気にイベントが集中していたので、ようやく一息付けたという感じだ。


 このまま平和な日々が続いてくれれば最高だなあ。折を見てクノッサスに戻りたい気持ちもある。なんにせよ、この日常が愛おしい。


「わっしょい! わっしょい!」


 角材を持って歩いていると、どこからともなくお祭りのような掛け声が聞こえてきた。声の方を見てみると。


「むはははは! どうじゃ! わらわのことを称えるのじゃ! よきにはからえ!」


 ……なんとなく予想はしていたけど、神器ーズがいた。


 木でできた神輿を、ミリアを除いた四人が担いでいる。ミリアは神輿の上に載って胸を張って笑っている。なんだこれ?


「みんな、何やってるの?」


「あ! ルカさん! これはですね、神輿ですよ!」


「いや、それは見ればわかるんだけど。なんで神輿みこしで街を行脚あんぎゃしようという発想になったの?」


「木材が余ってたから、何か作ろうと思ったんス。そこで、レティが神輿のことを教えてくれたからみんなで作ったっスよ!」


 なるほど、レティの入れ知恵か。しっかりとした出来で、感心しそうになるクオリティだが、本当にろくなことをしないな。


「なんで私までこんなことを……」


 トホホとため息をつくリム。神器ーズのまとめ役である彼女でも、今回ばかりは付き合わされるはめになってしまったらしい。本当に苦労している。


「遊ぶのもいいけど、迷惑にならないようにするんだよ?」


「「「「はーい!!!」」」」


 リムを除いた四人は元気よく返事をし、再び神輿を担いでどこかへ行ってしまった。僕は保護者として止めるべきだったんだろうか。いや、もう面倒だから角材を運んでしまおう。



「だーかーら!! 何回言ったらわかるんですかにゃ!!」


 しばらく歩いていくと、今度は聞き覚えのある声と語尾が聞こえてくる。声のする方に歩いていくと。


 声を上げているのは、パーティの整備士担当のメイカ。彼女の前には、無表情のアルベールが立っていた。


「どうしたの、二人とも?」


「ルカさん! アルルが言うことを聞かないんですにゃ!」


「アルルって呼ぶんじゃねえ」


 日常生活を過ごすにつれ、アルベールにはアルルというニックネームが付けられてしまったようだ。本人はかなり不服そう。


「なんで8×8で木材を組み合わせるのに、61本しか木材を持ってこないんですかにゃ!? それじゃ足りないですにゃ!」


「8×8は61だろ」


「にゃ!?」


「だから、8×8=はっぱ61だろ」


「「!?」」


 そうだ、アルベールは8歳で親を亡くして、そこから協会の孤児院こじいんに引き取られたんだっけ。復讐に命を燃やしていたくらいだし、勉強なんかそっちのけだろう。


「……6×7は?」


「43だ」


「…………4×3は?」


「13だろ」


 これは……ひどいぞ。アルベールは真顔で言っているから、ふざけているわけではない。


 アルベールは……めっちゃ馬鹿だ!!


「……わかりましたにゃ。次からは64本持ってきてくださいにゃ」


「それだと8×8にならないだろ? 木材を余らせていいのか?」


「あーもう!! 面倒ですにゃ!! さっさと行ってくださいにゃ!!」


 アルベールはメイカに背中を押され、舌打ちしながらもしぶしぶと木材を取りに行く。僕はその横について歩いた。


 ……なんだかんだでアルベールも丸くなったよなあ。吸血鬼の一件の前のとがった感じじゃない。少しだけ柔らかくなったような気がする。


「……なんだ、俺の顔に何かついているのか?」


 本人はそれに気が付いていないようだが、アルベールはこの短期間でだいぶ変わった。


「いや、メイカに怒らないのかなと思って。昔だったら『叩き斬ってやる!』とか言いそうなところだけど」


「……あいつには、レイの借りがあるからな。しかたなく聞いてやっているだけだ」


 一応、メイカに感謝はしているんだ。本当に、アルベールは変わったなあ。


「……なんだ。何を笑ってるんだ」


「笑ってないよ」


「笑ってるだろうが!! 気持ち悪いな!!」


 アルベールはそう言うと、ダッシュで走り去ってしまった。まったく、素直じゃないのは変わらない。

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