第73話 全てを癒す潮騒

「これってもしかして……神器!?」


 ダンテさんは首肯する。5本目の神器、こんなところにあったのか!


 それにしても綺麗な杖だなあ。神器ーズに共通して言えることだけど、まるで光に包まれているような美しさだ。まさに芸術品の領域。神器級ゴッズのアイテムはどれも武器オタクの血が騒ぐ。


「よし、いくよ……」


 思いを込めると、杖は僕の手のひらの中で水色の光を放って、人の姿に変化していく。数秒して、僕の前に立っていたのは一人の女性だった。


 他の神器たちより大人びていて、見た目は20歳くらいに見える。髪は水色のロング。まるで川のせせらぎのように透き通っていて、さらさらと揺れている。まるで海のように深い青色の瞳で僕のことを見つめている。


「あなたたちは……もしかしてエルリーシャ!? シュレティングにヴァーミリア、ツイスタルテまで!」


 アクアリムは驚いて神器ーズの名前を呼ぶ。これまでにないパターンだ。彼女は神器の名前を覚えている!


「僕はルカ・ルミエール。神器の所有者だよ。僕のスキルは神器を人間にすることができるんだ」


「なるほど、それで私や他の神器たちが人間の姿に……って! あなたたち!」


 状況を把握したアクアリムは、突然表情を変えてライオスたちの方へ駆けよった。


「ひどい傷……今すぐ治さないと!」


「これか? ケッ、大したことねーぜ。腕相撲で鍛えてるからな!」


「駄目に決まってるでしょう! ルカ君、私を使ってこの二人を癒してあげてくれない?」


 私を使って、という意味はなんとなくわかる。おそらく、彼女のスキルを使ってということだろう。僕は<サンシャイン>を発動する。


▼▼▼

装備品:

海杖かいじょうアクアリム

スキル:

大いなる海の癒しオーシャン・ヒール

対象の傷を癒す。その程度は所有者のレベルに比例する。

穢れを浄化する祈りプライ・フォー・ピュリフィケーション

対象の状態異常を回復する。その程度は所有者のレベルに比例する。

永遠に続く魔術への憧憬マジカル・ロンギング

魔力が続く限り、どんな魔法でも行使することができる。

▼▼▼


 リーシャやミリアのように前衛で戦うタイプの能力というよりは、サポートに回ったり、調整をしたりする方が得意そうなスキルだ。


「よし、やってみよう!」


 アクアリムは杖の姿に戻り、僕の手に収まる。ライオスとブルーノに向かって杖を振って<大いなる海の癒しオーシャン・ヒールを発動すると、水色の光が二人を包む。


「おおおお……? なんだこれ!?」


「傷が……治っていく!」


 みるみるうちに二人の痛々しい傷がふさがっていく。まるで逆再生をしたようだ。まるで嘘だったかのようにして傷は消えてしまった。


「これで大丈夫ね」


「すごいよアクアリム! 傷がすっかり治っちゃった!」


「リムで結構よ、ルカ君。それに、怪我してる人を治すのは当たり前のことでしょう?」


 人間の姿に戻ったリムは、他の神器たちと違って大人っぽさを感じる女性だ。


「ルカ。このまま真祖のところに行くの?」


「うん。早くしないとアルベールが危ないから」


「それならそれで構わないわ。ただ、街にも吸血鬼たちがわらわらいるから、早く片付けるのが得策よ」


 レティに言われて気が付いた。そうだ、この赤い霧は日の光を遮っているから、下級の吸血鬼たちが街の人を襲っているんだった!


 まずはそこを解決しないと、被害が増えていくばかりだ。一人で当たっていくんじゃ時間はいくらあっても足りないし、助けられない人も増えてしまう。どうすれば……うーん……。


「そうだ!」


 わかった! 一人でやろうとするから駄目なんだ! 神器の力を使えば!!


「イスタ! リム! 力を貸して!」


「待ってましたあ! そろそろあたしが活躍するころだと思ってたっス!」


 イスタは名前を呼ばれると、ビシッとポーズを決める。リムはそれを見てドン引きである。


「イスタってそういうタイプだったのね……もっと物静かなイメージだった」


「へ? あたしはいつもこの通りっスよ! それでは行っちゃいましょう!


 走る姿は突風で、立った姿はなぎのよう。ビュウビュウ吹かせる心の風で、今宵も謎をスパッと解決! 呼ばれなくてもやってくる、あなたの心に神風起こす!


後輩系こうはいけい美少女、嵐弓らんきゅうツイスタリア! ここに参上ッ!」


 得意の口上を披露し、弓に形を変えるイスタ。その様子をポカンと口を開けて見ていたリムは、続いて杖に姿を変えた。


「イスタ! 矢を撃ちまくって、この街にいる吸血鬼を全部倒すんだ!」


『は!? 何言ってるっスか!?』


「できないの!?」


『できますけど……とんでもないこと考えるっスね、センパイ』


 イスタの了承も得たところで、僕は空に向かって思いきり弓を引く。パッと手を離すと、緑色の光を放つ矢が1本、空に向かって打ち上げられる。


 矢は2本、4本と増えていき、数百本にまで分裂した。


 空を埋め尽くすほどの矢たちは散り散りに落下し、流星群のように降り注ぐ。イスタのスキル<コントロール!>は、矢の軌道を変えて吸血鬼にだけ攻撃をすることができるという優れた能力だ!


『これで街の吸血鬼は全滅したっスよ! さっすがあたし! あまりの実力に風吹きますよ~』


『でも、吸血鬼になりかけている人間がまだ残っているわ!』


 人間が吸血鬼になるまでには時間がかかる。だからまだ吸血鬼が全滅したわけではない!


「そこでリムの力を借りたい! この街一帯に状態異常回復スキルの効果をかけたいんだ!」


 リムのスキル<穢れを浄化する祈りプライ・フォー・ピュリフィケーション>は状態異常を回復効果がある。『その程度は所有者のレベルに比例する』と書いてあったから、僕なら街全体にかけることも出来るはずだ!


『一か八かだけど……ルカ君のことを信じてみる! やってみましょう!』


 僕は首肯し、杖を天高く掲げた。


 すると、水色の光が空に広がり、まるでオーロラのように輝く。状態回復の効果をもたらす光は、街全体に広がって人々を癒す。


「すげえ……雪みてえだ……」


「それに、僕が一本放つのがやっとだった弓矢をあんなに……」


 水色のオーロラが消えると、街の人々の状態異常が回復した。これで吸血鬼は真祖以外、全員倒すことができた!


「よし、これでアルベールたちを助けに行けるぞ! みんな、闘技場には近づかないでね!」


「ああ。後はアンタに任せるぜ、ルカ!」


「ルカ様。真祖をお願いします」


「ルカ君。神器たちは君に任せたよ」


 三人のメッセージを受け取り、礼をする。


 神器たちをバッグに入れ、僕は会場に向かって走り出した。

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