第69話 ライオス&ブルーノVS吸血鬼幹部
「おらああああああああああッッ!!」
ライオスの拳が吸血鬼の顔面をとらえ、リンゴを砕くようにして破壊する。
セシルが闘技場へ走っているその時、ライオスとブルーノの二人は次々と襲い来る吸血鬼たちの対処に追われていた。
「ははっ! 俺も意外と捨てたもんじゃねえな! 敗北の味を知ってまた一回り強くなれたぜ!」
次々と吸血鬼たちを薙ぎ払いながら、ライオスは楽しそうに笑った。
「危ない! <
その時、一本の光の弓矢が、ライオスにとびかかった吸血鬼の顔面を貫く。血しぶきが飛び、吸血鬼は地面に転がった。
「ヒュー、助かったぜ」
「ライオスさんが敵を引き付けてくれるから僕も助かってますけど、あまり無理しないでくださいよ!?」
「わかってるよ。アンタがいるから安心して暴れられるってもんだぜ!」
ライオスは語尾を強め、同時に吸血鬼の顔面を殴る。ブルーノも後方から彼を支援し、次々と吸血鬼たちを倒していく。
「もう30匹くらい倒したんじゃねえのか? 思ったより楽勝だな!」
「油断はよくないと思いますけど、正直そうですね。なんというか、あまりにもあっさりしすぎっていうか……」
軽快に笑い飛ばすライオスと、不安そうな表情を浮かべるブルーノ。反応の仕方は対極だが、二人とも内心で、吸血鬼に対して呆気なさを感じていた。
「あら、あなたたちね~?」
二人が吸血鬼をまた一体倒したその時。一人の女性の声が耳に入った。
紺色のパーティドレスに身を包んだ、黒髪が美しい女性。真っ白な肌と対照的に黒が大人らしさを強調する。しっとりとした雰囲気に、女性らしい肩と胸元の
「綺麗な姉ちゃんじゃねえか。こんな状況じゃなければ声をかけたいくらいだぜ」
「ふふふ。それは嬉しいわ。あなたみたいに強そうな男性にそう言ってもらえるなんて」
女性は落ち着いた様子でそう言って、ライオスたちの方へ近づいてくる。
「ライオスさん! 市民の方です! 保護しないと!」
「まてよブルーノ。こんな状況で吸血鬼に遭遇しないで、悠々と歩いてくるような人間がいると思うか?」
そこでブルーノは気付く。向かってくる女性は、あまりにも落ち着きすぎている。そして、ドレスを着ているのに、それはあまりにも綺麗に整っている。まるで走った様子がない。
「アンタ、何者だ? ……いや、聞くのも野暮だよな」
「そうね。野暮かもしれないわね。でも、特別に答えてあげる」
女性は、落ち着いた雰囲気のままにこりと笑った。
「私はアスモ。真祖ファシルスに言われて、この街の吸血鬼たちの監督をしているの。よろしくね」
二人の中の予感は的中する。やってきたその女性は、吸血鬼だったのだ。
「おいおい……吸血鬼ってのは知能がないんじゃなかったのかよ……」
「そんなことはなくってよ? 花だって、赤い色や青い色、道端に咲く花や花瓶で飾られる花があるでしょ?」
「……で、アンタは綺麗な見た目をして獲物を確実に仕留めるトリカブトってところか」
「あら、よくわかってるじゃない」
ライオスとブルーノの間に緊張が走る。アスモと名乗る女性は、おそらく他の吸血鬼よりも圧倒的に強い。だというのに、殺気のようなものは全く感じられないのだ。美しい姿勢で、ただ立っているだけ。それが逆に恐怖心をさかなでる。
「さあ、踊りましょう? 私、強そうな殿方は嫌いじゃないわ」
「悪いけど、俺は女とは腕相撲はしないタイプでね……」
「そうなの。じゃあ、こちらから行くわね」
刹那、アスモは地面を蹴ってライオスの方へ肉薄する。その速度は、二人が今まで体験してきたものとは次元が違う速さであった。
「下がれ! ブルーノ!!」
ライオスが腕を前でクロスしてガードをすると、腕に爪でえぐられた跡が出来て血が噴き出す。彼のすぐ目の前にはアスモがいて、彼女の頬にポツリと血が一滴垂れた。
「ちょっと意外ね。今ので終わりだと思ったんだけど」
アスモはぺろりと舌なめずりをして血をなめとった。ライオスの背筋にゾクリと恐怖が走る。
「悪いな。ちょっと見惚れちまっただけだ、ぜ!」
ライオスが語尾のタイミングでパンチを入れるが、アスモは攻撃をひらりとかわす。
「それは嬉しいわ。でも、ここでお別れね」
アスモの真っ赤な爪がライオスの顔に近づく。紅を塗ったような美しいその爪が目を貫こうとするのが、彼にはスローモーションに見えた。
「ライオスさん! 逃げて!」
その時、ブルーノの声が上がって、直径1メートルほどの火球が放たれる。アスモは素早くそれを目視して後方へ下がった。ボールのような火球は建物にぶつかり、爆発音を立てた。
「大丈夫ですか! ライオスさん!」
「ブルーノか。助かったぜ」
息を切らしながら、ライオスは謝辞を述べる。ブルーノが放った炎魔法によって危機を逃れることができたのだ。
「魔法って便利なのね。少しだけ厄介かもしれないわ」
ブルーノとライオスは一か所に集まり、アスモを見据える。彼女に焦った様子は全くなく、言葉とは裏腹に余裕がにじみ出ている。
「ブルーノ。奴の攻撃は俺が引き付ける。だからお前は遠方から支援してくれ」
「わかりましたけど……ライオスさんは大丈夫なんですか」
ライオスの腕にはアスモのひっかき傷が刻み込まれており、血がダラダラと流れている。普通の人間なら吸血鬼になってしまうだろう。
「俺は
ライオスは腕をグルグルと回し、再びアスモに向き直る。
「男らしくて素敵ね。でも、いつまで余裕でいられるかしら?」
再びアスモが接近してくる。ライオスは素早く身構えるが、吸血鬼の速度に追いつくことはできない。
「うおおおおおおお!!」
「外れよ」
思いきり振りかぶってパンチを出すが、アスモに回避され、カウンターで顔面に回し蹴りを食らう。ヒールの硬さと蹴りの衝撃を同時に喰らった。
「まだ、まだァ!」
失神しそうになりながらも、ライオスは連撃を繰り出す。それらは全て空を切り、アスモのしなやかな体をとらえることはなかった。
「押せばいいってわけじゃないのよ。やるなら徹底的に、確実にね」
次の瞬間、ライオスの腹部に複数の衝撃が襲う。アスモの目にも止まらない連撃が入ったのだ。局所的に馬車にはねられたような殴打にやられ、ライオスは地べたに転がった。
「まだだ……負けてたまるかよ……」
ライオスは小刻みに震えながら、ゆっくりと起き上がろうとする。口から血を吐き、既に骨は折れているだろう。
「あら? まだ立ち上がるのね?」
「ああ……腕相撲は、
「そう。でも、私はもう飽きちゃった」
アスモがライオスにとどめをさそうとしたその時。
「その勝負、ちょっと待ったっス~~~~!!」
三人だけだったその場所に、今度は別の少女の声が響く。
「よく頑張ったの、おぬしら。ここからはわらわたちの出番じゃ!」
そこには、三人の少女たちが立っていた。
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