第53話 お前に何がわかる

「さあて、次はあたしの番っスね! ダンテさんはどこにいるっスかね!」


 ジョージさんの屋敷から出て数分。華麗にポーズを取りながらイスタが登場した。


「あー、その話もう終わったよ」


「終わった!? 終わったってなんスか!? あたしのここまでのワクワクを返してくださいよ!?」


 イスタは僕の肩を掴みグラグラと揺らす。そんなこと言われたって、終わったものは終わったんだから仕方ないだろう。


 ダンテさんは一週間前から行方不明。どこに行ったかは誰も知らない。


 冒険者協会はダンテさんについて何も教えてくれない。それどころか罵声まで浴びせてくる始末だ。あそこで聞き込みはできないだろう。


 そして、ダンテさんの知り合いである、勇者パーティの子孫のエラルドさんも同時期に行方不明。よって、ダンテさんの居所を知っていそうな人はこの街にいそうにない。


 おまけに、冒険者協会が開催する『英雄闘技会』の景品には、エラルドさんが管理している神器が選ばれているらしい。二人の失踪と何か関係があるのか……?


「なるほど、意味わかんないっスね!」


 イスタはカラッとした様子で答える。本当に考えて発言しているんだろうか。


「あたし、そういうのよくわからないんで、何か食べにいきません? みんな何かしら食べてるって聞いたっスよ!」


「残念だけど、そうはいかないなあ。ダンテさんが見つからない以上、これから地道に聞き込みをしないといけないから」


「そんなぁ!? だったらあたしはこのスイーツへの気持ちをどこにやればいいっスか!?」


「その辺に捨てるとか?」


「適当に答えてんじゃねえっスよ! せめて食べ歩きできるやつ、片手でお手軽に食べられるやつでもいいんで…………おい無視するんじゃねえっス!!」


 面倒だったので道端に彼女を放置して歩き出すと、後ろからイスタが追いかけてきて僕の頭にチョップを入れた。


「ん? あれは……」


 その時、道の先に見覚えのある姿を見かけた。僕はその人物の方へ駆けよる。


「おーい、アルベール!」


「……お前か」


 そこにいたのは、アルベールだった。背中にレイを背負って、ポケットに手を突っ込んで歩いていた。


「怪我はもう大丈夫なの?」


「お前に言う必要はない」


「……大丈夫みたいだね」


 アルベールは僕と視線を合わせようとしない。まあボコボコにしてしまったからなあ……嫌われているのかも。


「アルベールは一人で観光?」


「……明日、これに出る。その手続きだ」


 アルベールは僕に一枚の紙を見せてきた。


「英雄闘技会?」


 それは、カフェでレティと一緒に見た、英雄闘技会のポスターだった。どこかからむしり取ってきたのか、角が破れている。


「これって、各地の冒険者ギルドの1位しか出場できないやつだよね? アルベールって参加資格あるの?」


「ない」


「しかも開催は明日って書いてありますにゃ! 今から何とかするんですにゃ?」


「する」


「断言してますけど、完全にやべーやつっスね……」


 参加資格ないのに出場しようとはこれいかに。真剣そうなアルベールを見て困惑していると。


「この大会で勝ち抜けば、神器が手に入る。なんとしても、力が欲しい」


「いや、参加資格ないんから出場できないって言ってますにゃ。話聞いてます?」


「だったら、冒険者協会に言って出場するだけの話だ」


「センパイ、この人常識ないんスかね?」


 神器ーズもたいがい常識ないと思うけど……確かに、アルベールが言っているのは無理な話だ。


「それに、冒険者協会の会長は怖いよ。F級だってわかった瞬間、僕をさんざん罵倒してきたんだから」


「構わない。俺はなんとしても、力が欲しい……」


 止めようとする僕の話を一切聞かず、アルベールは上を見てグッと拳を握り締めた。


 その姿を見て、前にレイと話したことを思い出した。アルベールは力を求めている。彼が危険な道を進まないように止めてほしいと。


「ねえ、アルベール。力って、そんなに必要なのかな?」


「どういう意味だ?」


「困ったことがあったら、僕も力になれるよ。だから、意固地に一人で強くなろうとしなくても――」


「お前に、俺の何がわかる!!」


 言いかけたその時、アルベールが叫び、鋭い眼光でギロリと僕を睨みつけた。


「どうしてそこまで俺に関わろうとする? 何も知らないくせに、知ったような口をきくな!!」


「関わるよ。だって僕たち、仲間じゃないか!」


「仲間……だと?」


 その単語を聞いた瞬間、アルベールは僕の胸倉をつかんできた。


「戯言もいいかげんにしろ。俺はお前のことを仲間だとは思っていない! 二度とそんなふざけたことを抜かすな!!」


「でも、僕は君のことを仲間だと思っているし、困っていることがあるなら協力したい!」


 僕が言い返すと、アルベールは舌打ちをした後、手を離し、くるりと僕に背を向けた。


「……何とでも言え。俺は絶対にお前のことを認めない。お前の力も、言葉も、全て否定するほどの力を手に入れる」


「それは、『大切なもの』を失ったから?」


「……ああ、そうだ。俺は力のなさで、大切なものを失った。だから、力を求める。誰にも負けない男になる。俺自身のやり方で」


 アルベールは言葉を絞り出すようにしてそう言い残し、僕に背を向けて歩き出した。


「センパイ、言い返さなくていいんスか?」


「……うん。今は、言い返しても意味がないと思う」


 改めてアルベールと話してみてわかった。彼の心は、やっぱり泣いている。どうすることも出来なくて、ただがむしゃらに生きているだけだ。


「いつか、アルベールもわかってくれる時が来ると思う。その時まで頑張るよ」


「そうですか! じゃあ何か食べに行くっス!」


 ……こいつ。よっぽど何か食べたいらしいな。


「しかたない。もう夕方だから、お腹いっぱいにならない程度にね?」


「やったっスー! 意外と言ってみるものっスねー!」


 ピョンピョンと飛び跳ねて喜ぶイスタ。こんなに喜ばれると、悪い気はしない。


 空を見上げると、もう日が傾き始めていて、オレンジ色の夕日が僕らを照らしていた。


 ……結局、ダンテさんは見つからなかったどころか、話は完全に迷走してしまったけど、たくさんの人に出会えてよかった。


 明日は英雄闘技会が開催されるみたいだし、情報収集がてら、みんなで観に行ってもいいかもね。

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