第52話 戦士と魔導士
屋敷の中に通され、応接室の中に。会食用の長机を囲み、僕たちは席に着いた。
「むしゃむしゃむしゃ!! うむ、これはなかなか美味しいのじゃ!」
「ミリア! もう少し行儀よく!」
目の前に置かれたクッキーをバリバリと食べるミリア。その様子はまるで餌にありついた犬だ。
「構いませんよ。ミリア様、おかわりもございますから、お好きなだけお召し上がりください」
「わあいなのじゃ!」
パウロさんがいい人で良かった……こんなことやったら普通は出禁だよ。
ため息をつきそうになったその時、部屋の扉が開かれる。
「失礼、遅くなってしまったね」
部屋に入ってきたのは、燕尾服に身を包んだ壮年の男性。金髪をオールバックにしていて、低く落ち着いた声で喋った。
「やあ、君がルカ・ルミエールだね。パウロから話は聞いているよ」
おじさんは僕の前にやってきて、僕の手を包んで握手をした。一瞬で理解した。この人が屋敷の主人だと。
「私の名前はジョージ・ソリアーノ。気軽に名前で呼んでくれたまえ」
「わかりました。初めましてジョージさん。屋敷に僕たちを招いてくださってありがとうございます」
「とんでもない。君にはうちの
そう言って挨拶をした後、ジョージさんはメイカとミリアとも握手をして、席に着いた。
さすがは主人。動きに品と落ち着きがあって、オーラのようなものを感じる人だ。
「それで、要件というのは?」
「はい。僕たち、ダンテ・デオダートさんという人を探しているんです。冒険者協会に聞いても情報を教えてくれなくて、困っていたところをパウロさんに」
「なるほど。ということは、ブルーノに話を聞きたいというわけだね?」
僕は首肯した。勇者パーティの
「ブルーノさん、さっき言ってた
「ブルーノでいいですよ。僕は魔導士エラルドの弟子なんです」
エラルド。それが勇者パーティの
「もちろん、師匠は
つまり、ブルーノさんにとっては師匠の知り合いってことで、
「ちなみに、そのエラルドさんとお会いすることは?」
「……それが、できないんです」
メイカが聞くと、ブルーノさんが下を向いて表情を暗くした。
「5日前に、師匠の家を訪ねたんです。そしたら、姿がなくて。それから毎日通っているんですが、師匠が家にいるのを見てないんです」
「どこかに出かけているという可能性は?」
「師匠は、孤児だった僕に魔法を教える時間以外は、ずっと研究に打ち込んでいるような人です。どこかに外出するようなら、必ず僕にお使いをさせるか、必ず連絡をしてくれるはずなんです」
つまり、何かがおかしいというわけだ。長く連れ添って来たブルーノさんが言うなら、違和感のあることなんだろう。
「それに、師匠がいなくなって少ししてから、英雄闘技会のポスターに『優勝者には神器が
そうか、勇者パーティの子孫たちは、それぞれの役職ごとに役割があるんだ。
そして、
「それにしても、また冒険者協会ですにゃ! やっぱりあそこはおかしいですにゃ!」
「何かあったのですか?」
「そうですにゃ。ダンテさんについて聞こうとしたら追い出されたんですにゃ!」
「それ、僕も同じです! 師匠のことなんて知らないの一点張りで!」
うーん……これはややこしいことになってきたぞ。
勇者パーティの子孫であるダンテさんとエラルドさんが一週間くらい前を最後に失踪。ダンテさんはエルドレインの復活に駆け付けることはなく、エラルドさんが管理する神器は冒険者協会に……。
「ダンテとエラルドの二人が冒険者協会に協力しているんじゃないかの?」
「それはありません! 二人とも誠実な人間で、そんなことは絶対にするような人じゃないです!」
長く連れ添って来たブルーノさんは弁明するが……正直、今の状況ではなんとも言えない。
何かの事故で、たまたま二人の姿が見えないだけかもしれない。冒険者協会が悪事を働いている可能性もあるし、ミリアが言っているようにダンテさんとエラルドさんが何か仕組んでいる場合もある。
でも、冒険者協会が勇者パーティの子孫を利用するようなことはできるのだろうか? 二人とも実力者のはずで、襲われても自衛はできるはずだ。それに、神器を賞品に出されるなんて、盗品でもない限り本人が関わっているとしか思えない。
まだ証拠が不十分すぎて、どう考えればいいかわからない。カシクマにも意見を聞きたいところだ。
「……頭がこんがらがってきたのじゃ。眠いから寝ていいのじゃ?」
「駄目に決まってるでしょうが。さすがに自由すぎるって」
クッキーを完食し、寝ぼけまなこのミリア。こいつ本当に何しに来たんだ。
「よし、わらわは帰るぞ! 難しいことはルカに考えさせるのが一番じゃろ。……っと」
ミリアは席を立って伸びをした後、ブルーノの席に歩いていった。
「お主」
「ぼ、僕ですか?」
「うむ。わらわは難しいことはちっともわからんが、お主の師匠がいなくなって、不安になっているのはわかる」
ミリアが言うと、ブルーノさんは座ったまま、ズボンのすそをぎゅっと握った。
「……はい。正直、すごく不安です。こんなことは今までなかったので。急にいなくなった上に、神器まで冒険者協会が持っているなんて」
「そうじゃろうな。だがな。お主はエラルドのことを信じるのじゃ」
「信じる……ですか」
「そうなのじゃ。他でもないお主が信じなくてどうする? わらわには詳しいことはわからんが、これまで自分が見てきたエラルドを信じてやるのじゃ」
「……わかりました、ありがとうございます。ミリア様」
「それでよい。じゃ、わらわは帰ってフカフカのベッドで寝るのじゃ」
そう言って、ミリアは床に置かれた僕のバッグに入っていった。
「ルカさん、ありがとうございました。ミリア様のおかげで心が軽くなりました」
「そ、そっかあ。それはよかった」
ミリアはクッキーを食べて適当なことを言っただけなんだけど、あれでよかったのだろうか。気が楽になったって言うなら別にいいか。うん。いいことにしよう。
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