第51話 奇跡的な偶然

 パウロさんは相変わらず、運動したわけでもないのに額に汗をして歩いている。ふう、と息をつき、タオルで汗をぬぐった。


「ルカ様たちもミカインに来ていらっしゃったのですね。こんなところでどうしたのです?」


「いえ、ちょっと色々と……それにしても、こんなところで会うなんて奇遇ですね」


 パウロさんがミカインに住んでいることは聞いていたけど、まさかばったり会うことになるなんて。しかも協会本部からダッシュしてきたこのタイミングで。


「パウロさんは何をしてるんです?」


「私は、主人に頼まれておつかいをしているのです。この通り」


 パウロさんの手には大きな買い物袋がぶら下がっていた。中には野菜などたくさんの食材がぎゅうぎゅうに詰められていた。さしずめ今日の晩御飯という感じだろう。


「そうだ! パウロさん、ダンテって人は知らないですかにゃ?」


 その時、メイカが思いついたようにしてパウロさんに聞く。


「ダンテ……かつて勇者とともに戦った戦士ウォーリアーの子孫の?」


「えっ!? 知っているんですか!?」


「うちの屋敷の者が、会ったことがあるとか。……そうだ! 主人にルカ様のことを話したところ、ぜひともお礼がしたいと言っておりました。どうでしょう、よろしければこれから屋敷にいらっしゃるというのは?」


 なんてラッキー! たまたま助けたパウロさんがお屋敷の人に仕えている御者さんで、しかもダンテさんのことを知っているかもしれないなんて!


「ぜひ行きたいです! お願いします!」


「かしこまりました。では、ご案内いたしますね」


『ここはどうやら、わらわの出番のようなのじゃ!!』


 その時、バッグからハンマーが飛び出し、僕のあごにクリーンヒットする!


「ぐはっ!?」


 朱色の光を放ち、ハンマーは和服の幼女に姿を変えた!


「わらわの華麗なる登場なのじゃ! 喝采かっさいせい!」


「「おー……」」


 じゃじゃーん! と、決めポーズをとるミリア。メイカとレティ、パウロさんは困惑しつつもパチパチと軽く拍手をした。


「痛いよミリア! 僕の顎にぶつかって登場するのはやめて!」


「む。いいじゃろ別に。登場は勢いが大事なのじゃ! 勢いがあるかどうかで目立つ度合いが変わってくるのじゃ!」


「いくら目立つとしても駄目だから! 飛び出し禁止!」


「ちぇっ仕方ないのう……そうじゃ。レティ。そろそろわらわの番じゃないかの?」


「別に構わないわ。興味があることはやりつくしたから。……まあ、ルドルフの件は少し心残りだけど」


 レティはジャンプをした後、鎧に姿を変え、バッグの中に飛び込んだ。


「で、これからどこに行くのじゃ? わらわは美味しい菓子が食べたいのう!」


「それでしたら、屋敷のメイドに作らせますよ、ミリア様」


「お主は確か、馬車を修理した時に見た覚えがあるのじゃ。恩を返そうということじゃな。気に入った! 案内するのじゃ!」


 僕とメイカは、肩で風切りながら歩くミリアと彼女を先導するパウロさんについていった。



「こちらでございます」


 パウロさんが案内してくれたのは、冒険者協会の本部にも負けないような大きなお屋敷。白い壁に紺色の屋根がとても上品な建物だ。


「すごい……パウロさんって、こんな大きな屋敷で暮らしてるんですか?」


「使用人兼御者としてですがね。他にも何人か住み込みで働いております」


 庭の植え込みは綺麗に整えられており、日の光を浴びて美しく光っているようだ。


「うむ。なかなかの屋敷なのじゃ! わらわを迎えるにはちょうどいいのじゃ!」


「ミリア。これから偉い人に会うんだから、そういう言い方は駄目だよ」


「わかっておる。ルカに免じてちゃんと客人として振舞ってやるとするかの」


 本当に大丈夫かなあ。これからこんな大きな館の主人に会うって言うのに、ミリアが余計なこと言わないか不安だ……。


「のじゃ? あそこに誰かいるのじゃ!」


「あ、こら! 勝手に!」


 僕の言うことを聞くわけもなく、ミリアはたたたっと屋敷の庭を駆け始めた。


「ごめんなさい、パウロさん。ミリアが騒いでしまって……」


「いえいえ、いいのですよ。それに……今からあちらへ向かうつもりだったのです」


 僕たちはミリアを追いかけ、庭の中へと入っていく。端の方へと行くと、ミリアの他にもう一人、誰かが立っているのが見えた。


「な、なんですか、あなたは?」


「わらわか? わらわはヴァーミリアじゃ。ミリアと呼んでよいぞ」


「は、はあ……」


「お主、さっきまで魔法を使っていたじゃろ? もう一度見せてほしいのじゃ! よくできていたらわらわの登場の演出に使ってやってもよ――ぶっ!!!」


 僕がゲンコツをして、ミリアはようやく止まった。


「うううう……!! 何をするのじゃ! ひどいのじゃ!」


「大人しくしててって言ったでしょ。ごめんなさい、迷惑でしたよね」


「い、いえ……ユニークな方ですね」


 ミリアが話しかけていたのは、オレンジ色の髪をショートにした男性。小麦色の肌を掻きながら、困ったように笑っている。服装は冒険者のような軽装だ。


「自分はブルーノって言います。パウロさんが連れてきたってことは、お客様ですね」


「そんな感じです。ルカって言います。こっちは鍛冶師のメイカと、ミリアです」


 ブルーノと名乗る少年は、「よろしくお願いします」と言って丁寧に頭を下げた。好青年といった印象だ。


「あの、さっきミリアが魔法って……」


「ええ。自分はこの屋敷の護衛をしている魔導士ウィザードなんです。だからここで魔法の修行をしていたところで」


 ってことは、ミリアが修行の邪魔したんだな。本当になんと謝ったらいいのやら……!


「ブルーノ。ルカ様はお前に用があってきたのです」


「……自分にですか?」


 首を傾げるブルーノ。ということは、彼こそがダンテさんと会ったことがあるという人だろう。


「ルカ様。改めて紹介いたします。こちらのブルーノは、ダンテ様と同じ勇者パーティの子孫である魔導士ウィザード師事しじしていたことがあるのです」


 勇者パーティの子孫に師事……?


 ってことは、弟子ってことか!

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