第49話 冒険者協会に響く
僕たちはライオスの意見を参考に、冒険者協会へと歩き始めた。
「ライオスさん、いい人でしたね! 私のことも褒めてくれましたし!」
ちょっと強面でチンピラっぽく見えるけど、腕相撲が好きなだけの気のいいお兄だったな。彼は今日もあの席でギルドを見守り続けるんだろう。
「それじゃ、冒険者協会の本部にれっつらごーです!」
リーシャが人差し指で天を高く差したその時。
『よいしょっと』
ストックバッグのなかから鎧が飛び出し、淡い光とともにレティが人間の姿に変わった。
「レティ! もしかして、もう交代の時間!?」
「ええ、私はあの家で本を読めるからどっちでもいいんだけど。ミリアが早くしろってうるさいから」
淡々と述べられたレティの言葉に、リーシャはがっくりと肩を落とした。
「そんなあ……まあ、美味しいクリームソーダも飲めましたし、いいとしましょう。それじゃ、ルカさん。頑張ってくださいね!」
「うん。リーシャもしっかり休んでね」
リーシャは剣の姿に戻り、バッグの中へと飛び込んでいった。
「……で、これから私たちはどこに行くのかしら?」
「冒険者協会だよ。そこに行けばダンテさんに会えるかもしれないんだ」
「なるほど。じゃあ私はそれについていけばいいのね。行きましょう」
「「…………」」
リーシャの後だからかもしれないけど、レティが相手だとこんなに話がスムーズに進むのか……なんか感動だ。
「ルカさん、さっそく神器一人システムが機能し始めてますにゃ」
「だね。これは思ったよりいいかもしれないぞ……」
「……? 早く行きましょう。私は興味あるものに出会う時間を大切にしたいの」
大人しすぎて逆に動揺しながらも、僕たちは冒険者協会へと足を進める。
「ここかあ……」
冒険者協会本部。そこはギルドを含めた他の建物とは比べものにならないほど大きな建物だった。
背丈の倍はあるような
庭には綺麗な緑色の芝生が生えていて、噴水まである。物語で見るお屋敷のようだ。
庭を
「すごい……ほかのお店の何倍も大きいですにゃ」
ミカインは商業の街。歩いているとそこかしこにお店があったけど、この規模はまさにけた違いだ。それだけ冒険者協会が力を持っているということだろう。
やや緊張しながらも、僕たちは冒険者協会の扉を開けるのだった。
扉の向こうには、図書館のような大きな空間が広がっていて、デスクで仕事をしている人々が見える。あわただしく動き回ったり、書類を作るため筆を走らせたりしているのが見える。
正面には、正装に身を包んだ女性がカウンターの向こうに立っている。いわゆる
「いらっしゃいませ。何か御用でしょうか?」
丁寧にお辞儀をする女性。こんなに
「ダンテさんっていう人を探していて、ここにも何度か来ている人みたいなんです。その人がいないかを聞きたいんですが……」
「ダンテ・デオダートですね。かしこまりました。少々お待ちください」
受付の女性はペコリと頭を下げると、後ろに下がって、椅子に座っている男性に声をかけた。
1分ほどして、女性が受付に戻ってくる。その表情は先ほどまでと違い、少し暗くなっている。なんだろう、気のせいか?
「失礼ですが、冒険者カードをご提示いただけますか?」
「わかりました」
僕は懐からカードを取り出し、女性に手渡した。
彼女はカードを見て、少し悲しそうな顔をする。嫌な予感がした。
「申し訳ございません。個人情報であるため、お教えすることはできません」
「えっ!? 教えてくれないんですかにゃ!?」
女性は頭を下げ、きっぱりと断る。
おかしいな。さっきまでなんだか教えてくれそうな雰囲気だったのに。
「あの、ダンテさんの知り合いから頼まれてるんです。それでも駄目なんですか?」
「申し訳ございません。決まりですので……」
『教えられない』ということは、知ってはいるということなんじゃないか。ライオスの話は正しかったわけだけど、教えてもらえないんじゃな……。
「どうしても駄目なんですかにゃ!?」
メイカが負けじと尋ねたその時。
「教えられないと言っているだろう!」
受付の向こうの、奥の席から声がした。
やってきたのは、やせ細った体の中年のおじさん。綺麗な
「あなたは?」
「私は冒険者協会会長、ルドルフ・パリヤーノだ」
会長……ってことは、ここで一番偉い人!? 確かに、鼻の下に蓄えたヒゲといい、つまのような白髪といい、貫禄がある見た目はしている。
「会長さん! どうしてメイカたちにダンテさんのことを教えてくれないんですかにゃ!?」
「決まっているだろう、そんな人物は知らないからだ! それに、君はF級だろう!? そんな下級の人間に教えられるわけない!」
ルドルフ会長は、顔を真っ赤にして怒鳴りつけた。
「そんな! F級なことは、今は関係ない――」
「関係ないわけがあるか! いいか、F級冒険者っていうのは冒険者の中でも最も価値がない人間だ。日銭を稼ぐのがやっとな役立たずに、時間を割くわけがあるか!!」
その言葉は、これまで嫌というほど言われた
「生きてるだけでクズみたいな人間なのに、会長であるこの私に迷惑をかけるな! そんな時間があるなら、クエストの一つでも攻略したらどうだ!?」
まるで人間として扱われていない。どうしてF級というだけでこんなに否定するような言葉をぶつけてくるのだろう。なんだか悔しくなった。
その時、レティが僕の前に立った。
「レティ?」
「じゃあ、あなたはダンテという人物については知らないのね?」
「なんだお前は。知らないと言っているだろう! さっさと消え――」
「だったら、なぜ受付のこの人は『ダンテ』と言っただけで『ダンテ・デオダート』という名前だとわかったのかしらね」
レティの言葉に、ルドルフの眉がピクリと動いた。
「おおかた、この女性が後ろに行ったときにあなたが指示したんでしょうね。つじつまが合っていないわ」
ルドルフの表情に余裕がなくなる。ギリギリと歯ぎしりする音が聞こえてきた。
「うるさい! そんなことは言っていない!」
「言っていないじゃなくて。私たちは確かに聞いたの。あなたの意見には興味がないわ」
「黙れ! そうだ、お前が間違えて聞いたんだ! F級の耳は腐っているからな!」
「そう。で、あなたの実力はどんなものなのかしら? 見た感じ、F級以下って感じだけど。耳が腐っているのはあなたじゃないかしら?」
「うるさい! 出ていけ! F級の分際で私に口答えをするな!」
その瞬間、警備の人たちがぞろぞろと僕たちの周りに集まってきた。
「ルカ。戦うわ。素手でも十分でしょ?」
「駄目だよレティ。一般の人をケガさせたらこっちが犯罪者だよ」
僕たちは大人しく、警備の人たちに引きずられて外へ出た。
ルドルフは、肩で息をしながらこちらをじっと睨みつけていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます