第45話 ヴァンパイアスレイヤーの献身
カシクマの能力で、部屋がずらっと並んだ廊下へ行き、神器ーズとメイカに部屋を選ばせる。一番大きい部屋に誰が入るかでかなりもめていたが、僕は疲れているので勝手にやってもらうことにした。
部屋で休む前に、気になることがあったので、僕はリビングへと戻った。
奥の部屋を覗いてみると、アルベールがベッドの上で横になり、静かに寝息を立てていた。
『ルカ様?』
「レイ、ごめん。起こしたかな?」
『
用事があったのは、アルベールが持っている大剣、ヴァンパイアスレイヤーことレイだ。主人が寝ている間も、まるでメイドのようにそこで
「少し、聞きたいことがあるんだ。一緒に来てくれるかな?」
『……ええ。私も、ルカ様にお話したいことがあります』
僕はレイを手に取り、アルベールを起こさないようにゆっくりとドアを閉め、リビングへと向かった。
「ここでいいかな?」
『構いません。安定した場所ならどこでも』
ソファにレイを寝かせ、僕は机を挟んで向かい側のソファに座った。
「えーっと、僕から聞いてもいいかな?」
『そうしましょう。おそらく、私が言いたいこととルカ様がお聞きになりたいことは一致していると思われます』
それなら、話は早い。単刀直入に言ってしまおう。
「アルベールは、どうしてあそこまで神器に――いや、力を求める?」
最初に会った時から、ずっとそうだった。
彼は力を求め、常に何かに追われているようだった。カシクマに対して怒鳴り散らしていたのに、神器の話を聞いた瞬間にすぐに切り替えて神器を求め始めた。
試練が始まるなり僕を攻撃してきて、神器をなんとしても手に入れようとしてきた。とんでもない執着だ。
あれは普通じゃない。実際に剣を交えてわかった。同時に、きっと何か理由があるはずだと。
『アルベール様は昔、ご自身の力のなさで大切なものを失ったことがあります。だから、彼にとって力と言うのは全てなのです』
「大切なもの?」
『はい。彼にとってかけがえのないもので、当時の彼にとっては全てでした。アルベール様はそれを失って以来、力に拘泥するようになりました』
やっぱり、ああなったのには原因があるんだ。
「その『失ったもの』が何なのかは教えてくれないの?」
『申し訳ございません。私の口からそれを話すことはできません。きっとそのことを話すのは、アルベール様にとって良くないことだと
確かに、レイの言う通りだ。無意味に
「レイはアルベールとはどれくらいの付き合いなの?」
『もう7年ほどでしょうか。まだ声変わりもしていない小さな少年が、自分よりも大きな剣を手に取って言ったのです。『ヴァンパイアスレイヤー、俺に力をよこせ』と』
「そのヴァンパイアスレイヤーっていうのは本名なんだ……」
「そうですわ。その名の通り、
ということは、アルベールが力を求めるきっかけになったのは、ヴァンパイアが関係していることなんだろうか。いや、こんなこと考えるのも野暮だな。
「アルベール様は、力を欲しています。私を手にした時からずっと。返り血にまみれ、汚泥を舐め、地べたに這いつくばりながら、強くなるために前へ進んできました」
「あの体力は、その過程で得たものってこと?」
「その通りです。アルベール様はいつしか、感覚が
アルベールの目つきは、少し前に見たルシウスのものと近いものを感じる。なにかに取りつかれて、常に渇きを満たそうとしているような、そんな目だ。
「つまりレイは、僕にアルベールをなんとかしてほしいってことだね」
「お察しの通りです。もしアルベール様が暴走をするようなことがあれば、ルカ様に止めていただきたいのです。私は剣ですから、彼をどうすることもできないのです」
レイは
「……わかった。約束するよ。もしアルベールが危険だと思う場面があったら、絶対に止めてみせる」
「感謝いたします。もしこの姿が剣でなければ、何かお礼をすることができたのですが」
「別に構わないよ。僕もアルベールのことは気になっていたんだ」
「ルカ様が、ですか?」
「うん。僕も少し前、リーシャに会うまでは力を欲してた時期があったんだ」
パーティの荷物持ちをしていたあの頃。僕はルシウスたちの背中を見ながら、強くなりたいと思っていた。
自分に力があれば、こんなみじめな思いをしなくて済んだのに。毎日そんなことを思っては、悔しさで拳を震わせていた。
「もしかしたら、僕もアルベールみたいになってたかもしれない。だから、放っておけないんだ」
「……ルカ様ほどお強い方でも、そんな気持ちがあるのですね」
「僕は強くないよ。ただ神器のみんなに出会えただけ。だからこの力は誰かのために使いたい。そう思うんだ」
「ルカ様は立派です。やっとわかりました。ルカ様の本当の強さは、力ではなく心なのですね」
それから少し喋って、僕はレイをアルベールの寝室に戻した。
彼女は別れ際まで礼儀正しく、落ち着いた声のトーンで僕に『おやすみなさいませ』と告げた。
彼女の想いを、僕は叶えてあげたい。僕はそう思い、寝室の扉をしめ、自分の部屋に戻った。
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