第44話 賢者はつらいよ
「ただいまー」
僕はボロボロになったアルベールを抱えて、カシクマの部屋につながる扉を開けた。向こう側は当たり前のようにリビングになっていて、現実味のなさを改めて感じさせる。
「あ、ルカさん! お帰りなさいにゃ!」
僕の顔を見るなり、ソファでくつろいでいたメイカが立ち上がり、出迎えに来てくれた。
「フフフ、音を上げて帰ってきたクマね?」
そして、彼女に抱えられて、カシクマがいたずらっぽく笑って言った。
「音を上げて……? 何が?」
「何って、攻略がきつすぎて戻ってきたんじゃないクマ? まあ、あれは三日くらいかけて攻略する城クマ。作戦を立て直すのもいいクマね……」
カシクマはうんうんと頷きながら、勝手に話を進めている。
「いや、普通にクリアしてきたけど?」
「センパイ、このクマのぬいぐるみはなんで喋ってるっスか?」
「ええええええええええ!?!? なんか増えてるクマああああああああ!!」
カシクマは大声で叫んだかと思えば、メイカの腕から飛び乗り、僕に掴みかかってきた。
「お前、何したクマ!?!? あの城は30分かそこらで攻略できるような
「そんなこと言われたって、ちゃんとクリアしたんだよ!」
「それがおかしいって言ってるクマよ!! 不正か!? お前さては不正したクマね!?」
カシクマは僕の腕に乗りながら
「その前に! アルベールがボロボロなんだ! 彼を横にしてから話を進めよう!」
まだ生きているとはいえ、アルベールが気を失っている。僕は急いで彼を運び、リビングの奥の部屋のベッドに横たわらせた。
「まったく……で、何が起こったのか説明してもらうクマよ」
僕たちが全員ソファに座り、落ち着いたところで、カシクマが口火を切った。
僕は扉を閉じて城に行ってから再び戻ってくるまでの約30分のことを、洗いざらい説明する。
出ていきなりアルベールとの戦闘になったこと。ミリアの力で城を改造して最上階まで向かったこと。ドラゴンと戦闘になったけど、イスタの力で倒すことができたこと。
カシクマは僕の話を聞きながら、何度も頷いて、頷いて、頷いて……
「んなわけあるかクマあああああああ!!!」
ブチギレた。
「いいクマか!? あの試練は、一流の冒険者が命からがら迷路を進んで、ようやく最上階にたどり着く仕様になっているクマ! 精神力と体力、その両方を試す試練だクマ! お前それを30分で!!」
「そんなこと言われたって、ミリアの力があったわけだし……」
「しかもお前、試練と関係ないところで二回も戦ってるじゃねえかクマ!! なんでそれで30分でまとまるクマ!!」
カシクマはぎゃあぎゃあと騒いだあと、肩で息をして、ようやく落ち着いた。
「で、もしかしてこれで試練は不合格になったり?」
「それはないクマ。本当に不服ではあるが……ええい、仕方ない。
「やりましたよルカさん! これで神器は4つ目です!」
一時はどうなることかと思ったけど、なんとかなってよかった。改めて、試練はこれで終わりということらしい。
「しかし……なんでお前らはそんなに強いクマ? 神器を持っていても、さすがに1日くらいはかかると思ったクマが……」
「ルカさんはちょー強いんですにゃ! エルドレインとかいう古代の王様も倒したんですにゃ!」
「ちょ、待った! 今エルドレインって言ったクマか!?」
メイカの発言に、カシクマが明らかに
「知ってるの?」
「エルドレイン・アイザックⅡ世のことで間違いないクマ? 知ってるも何も、奴の宝物の封印をしたのは勇者パーティの
ここでも出てくるのか、勇者パーティの子孫。カシクマの賢者以外にも他の役職があって、世界の維持をしてるようだ。
「で、そのエルドレインと戦ったっていうのはどういう意味クマ?」
「あいつがアンデッドになって復活したんだよ。街にアンデッドを大量発生させて大変だったんだ」
「……もうボクは驚かないクマ。あんなチート化け物がアンデッドになってパワーアップして、そんなやつと戦って平気とか、桁外れにもほどがあるクマ」
確かにエルドレインはかなり強かった。勝てたのは神器ーズが強かったからで、僕が強かったわけではない。
「なるほど、エルドレインが復活したということは、現代の
「
「……? それはおかしいクマ。エルドレインの管理はあいつの仕事のはずクマが……」
カシクマは綿が詰まった首を傾げ、ブツブツと独り言ちる。
「何かおかしいの?」
「今の代の
「うん。現場に駆け付けたのは僕だけだったよ」
「……やはり気になるクマ。何かあったのかもしれんクマ」
カシクマはさらに首を傾げ、よし、と言って手を叩いた。
「ルカ・ルミエール。お前に今の代の
「ルカさん、ミカインですよ! 美味しいものですよ!」
ミカインという単語を聞いた瞬間、リーシャが目を輝かせ、手をばたつかせて騒ぎ出す。
「もちろん、サポートもするクマ。ボクの<ドア・トリップ>を使えば、扉と扉で離れた場所を繋ぐことができるクマ」
「それって、さっきドアの先に城があったみたいな?」
「その通りクマ。例えば玄関のドアとミカインの宿屋につなげることもできるクマよ」
それは凄い。ここからミカインまで歩くとなると、また数時間かかってしまう。旅をする僕らに都合がいいことは間違いない。特に歩くのが嫌いなリーシャにとっては。
「……とはいえ、今日は試練でお疲れだろうから、部屋を貸してやるクマ。そこの扉を開ければ廊下につながっているから、好きな部屋を使って休むといいクマ」
「やったー! お泊りですよお泊り!」
「本は? この家には本はないの?」
「わらわには一番大きい部屋を用意するのじゃ! 圧倒的に目立つ部屋じゃ!」
「あたし、早く食事をしてみたいっス!」
「うるさい連中クマ……」
カシクマはため息交じりに呟き、とぼとぼと歩いていった。
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