第39話 潜入、城内!

 アルベールを振り払い、僕は急いで大きな門扉もんぴを押し開ける。


「お邪魔しまーす」


 中に入ると、そこには赤じゅうたんの玄関が。と言っても、あまり広くない。すぐ目の前にはレンガ造りの壁があって、道が左右に分かれている。


『これは迷路パターンじゃないですかねー。右か左に進めって話だと思いますよ』


 また迷路かあ。迷路はもう常闇の洞窟で嫌というほどやった。入り組んだ道と、その進路を阻むモンスター! という感じだろう。


「とりあえず、左に行ってみようか……」


 僕は少しめんどくさく思いながらも、左の方へ道なりに沿って進んでいった。


「そういえば、カシクマは『嵐弓らんきゅうツイスタリア』って言ってたけど……みんなはどんな神器だか知ってる?」


「知らないのじゃ。わらわにも他の神器に関する記憶はないのじゃ」


「でも、名前からして弓の神器であることは間違いなさそうね」


 弓の神器かあ。今までは近距離きんきょり戦闘向けの神器たちばかりだったから、長距離で戦えるようになるのもいいことだ。


『ルカさん、来ましたよ!』


 分かれ道で左に進んでからしばらく直進していると、開けた空間に出た。高い天井の大広間。そして、当然のようにモンスターが待ち構えている。


「なんだアレ、クモ?」


 金属の体で出来たクモのようなモンスターが何匹か、赤じゅうたんの上をっている。大きさは僕と同じくらいだろうか。


 見たことのないモンスターだったので、すかさず<サンシャイン>を発動してステータスを確認する。


▼▼▼

メタルスパイダーⅢ型 レベル22

特徴:人工モンスター。魔力を動力にして動く

▼▼▼


 人工のモンスターってことは、機械の一種ってことだろうか。生命体じゃないなら外で見かけたことじゃないというのも理解できる。


『ルカさん! 数が多くなってきてますよ!』


 リーシャに言われて見てみると、クモの数は既に10を超えている。どこから湧いてきているんだろうか。本当にクモみたいだな。


 目の部分が赤く光り、こちらを見ているのがわかる。一体ごとの強さは大したことないとは言え、こうもわらわらと湧いてくるとなると気が滅入ってくる。


「そうだ、こういう時こそ、新技を試してみようか!」


『新技ですか?』


『なんじゃ! わらわを使うのではないのか! ズルいぞ!』


 ミリアは不服そうだが、残念ながらリーシャを使った技だ。


 この前のエルドレイン戦で、数が多い敵に対処するのは大変だと思っていたんだ。事実、彼が召喚したアンデッド軍団を倒すのは骨が折れた。


 だから、モンスターを一掃することができる技。空から流れ星が降ってきて、すべての敵を倒すようなイメージで。


「行くよ、リーシャ!」


 僕は剣を高く掲げる。すると、天井に向けた切っ先に、リーシャの光のエネルギーが集まっていき、光の球に変わっていく。


 球は少しずつ膨張ぼうちょうするのを続け、ついには半径1メートルまで大きくなった。


「<スターダスト・フォーリング>!!」


 そのまま一気に剣を振り下ろすと、斬撃によって光の球が飛散ひさんし、まるで流星のようにクモのモンスターたちの方へ落ちていく。


 光の流星を食らったクモのモンスターは、ぶつかったところが激しく損傷そんしょうし、小規模の爆発を起こした。


 流れ星なんて言うものだから威力は低く感じられそうだが、そうではない。何と言ってもリーシャの光の力に僕の斬撃が混ざっているのだ。一撃でも食らえば雑魚モンスターならひとたまりもないだろう。


 爆発した後の床には、元々モンスターだったクモたちの残骸ざんがいが散らばっていた。体が金属でできているから、パーツの手足が多い。


『すごい! 本当に一掃しちゃいましたよ!』


『リーシャ。今の光はどうやって様々な角度に飛ばしたの?』


『そりゃあもう、私のコントロールですよ! ちゃんとモンスターに当たるように飛ばしてるんですから!』


 えっへん、とばかりにリーシャが言う。力こぶを作り、ぐっと強調している彼女の姿が目に浮かんだ。


『むー……』


 リーシャとレティが騒いでいる中、ミリアは少し不服そうな声を漏らした。


「どうしたの? リーシャより目立てなかったのが悔しかったとか?」


『それもそうなのじゃが……この迷路、ずっと続くのかの?』


 僕たちが差し当ったのは、廊下よりは少し開けた空間と言えるだろう。しかし、それもただの大広間という感じで、上の階は見えない。


 よく目を凝らしてみると、部屋の奥にはまた別れ道のようなものが見える。また道を選べということだろう。


『また右か左を選ぶんですか!? めんどくさいです!!』


『そもそも、さっきの選択は合っていたのかしら? 戦闘になったってことは間違っていた可能性もあるわ』


 二人の言う通り、この試練は謎が多い。先が見えない上にめんどくさい。カシクマはなんだってこんなわけのわからないことをやろうと思ったんだろう?


『あーもう、わらわは飽きたのじゃ! ルカ、わらわを壁に打ち付けるのじゃ!』


「別にいいけど……なんで?」


『いいからはよせい!』


 ミリアに急かされ、僕はしぶしぶハンマーに持ち変え、思いきり壁に向かって振り下ろした。


 次の瞬間、ゴゴゴゴゴゴゴ、と唸るような音がして、建物が揺れ始める。天井から土埃つちぼこりのようなものがパラパラと降ってきた。


「な、なに!?」


『案ずるな。わらわの能力じゃ。黙って見ておれ』


 ミリアに言われ、ぼけっと部屋を眺めていると、天井に穴が開き、みるみるうちにそこから階段が生えてくるではないか!


 階段が僕たちの目の前まで作られると、建物の揺れは次第に収まっていく。ピタリとも動かなくなった時には、石レンガで出来た頑丈そうな階段が出来上がっていた。


『めんどくさかったから建物の構造を変えてやったぞ。これで一気に最上階まで行けるのじゃ』


「……それアリなの?」


 迷路を解くのがめんどくさかったから、そもそも構造自体を変えちゃおうっていう考えか。ミリアさん半端ねえ。


『わらわがアリと言ったらアリなのじゃ! 白いものもわらわの前では黒になるからな』


「言ってることめちゃくちゃだなあ……まあいいや。試練は楽な方がいいよね」


 僕は内心では少し心配しつつも、階段を昇って城の最上階を目指す。

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