第40話 階段を昇れ
一段、また一段と階段を昇り続ける。上を見てみるが、まだまだ長く、先は見えない。
「すごいねこの階段。昇りきれる気がしないや」
『なんせ最上階まで続いているからの。かなり長くなっているのじゃ』
外から眺めた感じだと、この城は5階建てかそれ以上の高さであるようだった。一階から一気に上がろうと思えば、そりゃたくさん歩くことになるよね。
『ルカさん、急がないとさっきの男が壁を破って追いかけてくるかもしれませんよ?』
うっ、そうだった。アルベールがミリアによる
そこから歩き続け、最上階についたのは2分ほど昇った先だった。
「ここが最上階か……」
階段を昇りきった先は、小さな部屋になっていた。ご
「ねえ、ここが、神器が置かれている部屋で間違いないんだよね?」
『なんじゃお主。疑っているのか?』
「そうじゃなくて、階段を昇った先にこんな宝箱が堂々と置かれているのって怪しくない?」
『心配するな。わらわは神器の気配に向かって階段を作り出したのじゃ。間違いなくその宝箱の中に神器がおる』
「よいしょっと!」
安全だと考えたのか、リーシャが人間の姿になる。それを見て、レティとミリアも後に続いた。
「ルカさん、私もそうだと思います!
「そうね。中に興味があるから、早く開けてほしいわ」
神器ーズに
箱の中には、草原のように綺麗な緑色の弓が入っていた。
月のような整った、しなやかな形の弓。僕はあまり弓には詳しくないけど、間違いなく今まで見てきたものの中で一番心を惹かれる。そして、これは神器に違いないと確信した。
弓を手に取ってみる。間近で見ると、ますます美しさが際立っているようだ。ところどころに施された
『あたしのことを起こしたのはアナタっスね! センパイッ!』
その時、例のごとく弓から緑色の光が放たれる。
「とうっ!」
同時に、僕の手を何かが蹴り上げるのを感じる。驚いて前を見ると、ひとりの少女が地面に着地し、両手を上げて『Y』のポーズを決めているではないか。
「ふっふふ~! お初にお目にかかるっス。
走る姿は突風で、立った姿は
少女は、突然長い口上を語り始め、華麗にポーズを決めたッ!
「「「「…………」」」」
そして、室内は沈黙が支配した。
「え? な、なんスか? カッコよかったっスよね? 一生懸命考えたやつなんですけど」
「うーん……微妙だなあ」
「ありよりの大なしですね」
「ないわね」
「お主、本気でカッコいいと思ってやってるのじゃ?」
「うわああああああああああああああ!!」
僕たちのバッシングを聞いて、少女は涙目になって声を上げた。
弓と同じ綺麗な緑色の髪を、サイドテールにした少女だ。緑色の瞳はまるでエメラルドのようで、爽やかな印象を受ける。
少女は騒いだと思ったら、今度は膝を抱えて床に座り始めてしまった。
「うううう……ひどいっス。せっかく頑張って考えた口上なのに……そんなに言わなくたっていいのに……」
「ご、ごめんごめん。僕は嫌いじゃないよ」
「……本当っスか? センパイは、さっきの口上、カッコいいと思うっスか?」
「う、うん。センパイって言うのはよくわからないけど。好みは人それぞれでいいんじゃないかなあ」
「ヒソヒソ……ルカさん、神器をなだめるのが上手くなりましたね」
「ヒソヒソ……まったくなのじゃ。神器たらしなのじゃ」
後ろで神器二人がごにょごにょと喋っているが、面倒なので無視しておこう。
緑色の髪の少女に変化した、嵐弓ツイスタリア。後輩口調で、僕のことを『センパイ』呼ばわりする、
「そうだ、センパイ! これはどういうことなんですか!? あたし、人間の姿になっちゃいましたよ!?」
「うん。それは僕のスキルの効果なんだ。説明したいところなんだけど……」
説明したいのは山々なんだけど。後からアルベールが追ってくると思うと、ダラダラと説明している時間もない。
何やら彼は神器に執着していたし、途中でばったり会おうものなら、斬りかかってでも奪いに来るだろう。
「とにかく、説明は後だ! 僕と一緒に来てくれないかな? 詳しい話は落ち着いた場所でするよ」
試練はツイスタリアを手に入れることが目的なんだから、これで達成だろう。あとは彼女を連れてカシクマのところまで戻れば、試練達成――
「ルカさん! 何か来ますよ!」
「え? 何かって何さ?」
「来ます! 伏せて!!」
リーシャに言われるがまま、全員がその場に伏せる。
刹那、部屋がグラグラと揺れ始める。いや、これは建物自体が揺れているのか!? なんなんだ一体!?
すると、僕たちがいるのと反対側の壁が突如として爆発した! 壁が破れ、向こう側の外の景色があらわになる。
そして、穴からは巨大な真っ黒のドラゴンが顔をのぞかせていた!!
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