第33話 旅の途中で
「すんすんすんすんすん……こっちなのじゃ!」
ミリアが犬のように鼻をひくひくとさせて歩く。
「ミリアさん。その『場所』って、臭いで方向を当ててるんですかにゃ?」
「いや。なんとなくこうした方が見つかりやすいような気がするだけで、臭いは関係ないのじゃ!」
僕たちは、ミリアが言う『気になる場所』に向かっている。クノッサスの街から出て、なんにもない平原をずっと歩き、もう三時間くらいだろうか。
「エルドレインを倒したお金をもらっておけば、今頃は馬車でゆったり移動ですよ……これはミラクル起こってないです。まったく起こってないです」
リーシャがぐずぐずと恨みがましく言う。そう、お金がない僕たちは、ミリアのガイドについて『気になる場所』へ徒歩で向かっているのだ。リーシャは疲れてしまったのか、開始30分くらいからぐずり始め、重い足取りで歩き続ける。
「ミリア、あとどれくらいで到着しそう?」
「そうじゃのお……2キロくらいな気がするのじゃ。だいぶ近づいているのじゃ」
「に、2キロおおお~~~……心が折れました……剣だけに……」
余計なことを言うだけの体力はあるみたいなので、スルーしておく。いざとなったら剣の姿に戻して運べばいいだけの話なんだけどね。
「むっ! 臭うぞ!」
「探してた場所、見つかったの?」
「違うのじゃ。これはモンスターの臭いじゃ!」
「た、助けてくれーーーー!!」
その時、進行方向で男の叫び声が上がった。僕たちは顔を見合わせる。
「ルカさん! あれ見てください!」
声がした方を見てみると、ぺしゃんこになった一台の馬車から、
体長5メートルはあるだろうか。
「なにあれ?」
「テンペストライオン。体長は雄の個体で5メートル、雌の個体だと4メートルほど。旅人の馬車を狙って襲うわ。その様がまるで嵐のようだったことから、テンペストという名前が付けられたと本に書いてあったわ」
レティが本で読んだ知識をすらすらと暗唱してくれる。
なるほど、迷惑なモンスターだな。テンペストライオンは僕たちの存在に気付くと、こっちをじっと見つめ始めた。
「あっ、こっち見てますよ! ……っていうか、主に私のことを見てるような気がしますけど」
「ネコって光るものに反応するって言うけど、関係あるのかな? メイカはどう思う?」
「知らないですにゃ! メイカは獣人であって、ネコではないですにゃ!」
とぼけた会話をしていると、テンペストライオンがこちらに向かって走ってくる。巨体が地面を蹴るので、足元が揺れる。
「ルカさん!! やっぱり私の方に向かって来てますよアレ!! 早く倒しましょう!!」
「わかった! リーシャ、剣になって!」
「はいわかりま……あれ。もしかして、剣の姿になれば、歩かなくても済むのでは……?」
今気づくことじゃないから!!
「グアアアアアアアア!!」
ライオンがこちらに走ってくる! 吠えた瞬間突風が吹き、メイカたちは素早く身構えた。
テンペストライオンは前足を思いきり振り上げ、刀のように鋭利な爪が伸びる前足を振り下ろす。馬車をつぶした時のようにだ。
しかし、それは僕にとってあまりにも弱すぎるものだった。
「<セイクリッド・ストライク>!」
真っ向から前足に向かってジャンプをする。白い光を宿した聖剣を横に一閃すると、テンペストライオンはまるで強風に吹き飛ばされるようにして、後方に弾かれる。
「グアアアアアアアアアア!?」
斬撃は前足を通過し、そのまま大木のような胴体を真っ二つにスライスする。驚いたような声を上げて、テンペストライオンは絶命した。
ふうと一息つくと、ライオンから逃げていた人々がぞろぞろとこちらに駆け寄ってきた。
「あ、あなたがテンペストライオンを倒したのですか!?」
代表して僕の前に立ったのは、40代後半くらいに見える、一人の小太りのおじさん。鼻の下に伸ばしたちょび
「あなたはいったい……?」
驚いた表情でこちらを見るおじさんに、僕は答える。
「僕はルカ・ルミエール。最強の冒険者を目指しているんだ」
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