第32話 祝いの宴と新たな目標

「ルカさーん、本当によかったんですか? 報酬金ほうしゅうきん、たっぷり貰えるらしいですよ?」


「いいの。あれは漆黒の烏ブラック・レイヴンのお金だから……」


 エルドレインとの戦いが終わり、僕たちはクノッサスの街に戻り、メイカの家で食事をとっていた。祝勝しゅくしょうパーティだ。


漆黒の烏ブラック・レイヴンに支払われる報酬金は5000万ギルって話ですにゃよ。アンデッドの親玉を倒したのはルカさんなんですし、ちょっとくらい分けてもらっても罰は当たらないはずですにゃ」


「でも、お金を取りに行ったときにうっかり本物に出会っちゃったら、偽物確定にせものかくていだよ。きっとギルド中の人たちからリンチされるって」


 僕たちがエルドレインを倒したにも関わらず、ギルドからの報酬金を受け取れない理由。それは、僕たちがついた嘘にある。


 F級冒険者の身でありながら、S級クエストを受けて王墓に行くために、レティの力を使って、黒鎧の男・ルークを騙ったのだ。当然、そんな人物はこの世に実在しないわけで。だから僕たちがお金をもらいに行こうものなら、本物が姿を現して嘘がバレてしまうだろう。


「5000万ギルですかぁー。どれくらいのお金なんでしょうね?」


「そうだにゃ、リーシャさんにわかりやすいように表現すると、シチューがざっと1000杯以上は食べられる量ですにゃ」


「せ、1000……シチューの海です! ミラクルです! やっぱりお金を貰うべきですよルカさん!」


 絶対やだ。欲をかくとロクなことがないからね。


「そもそも、シチュー1000杯なんて一気に食べられないでしょ? 足るを知るって言うしさ」


「た、確かに……ルカさん、私が間違ってました!」


「リーシャさん、言いくるめられてますにゃ……」


 おっとメイカ。余計なことを言うのはやめてもらおうか。寝ている子を起こすなって言うでしょ?


「みなさん、食べてますかー?」


「あ、ママ!」


 メイカと同じ、綺麗な茶髪をした猫耳の女性が、山盛りの焼きそばが乗ったトレーをキッチンから持ってくる。彼女こそメイカの母だ。


「はい、美味しいです。すみません、こんなに大人数であがっちゃって……」


 僕とリーシャから始まって、メイカ、レティ、そしてミリア。だいぶ大人数になっちゃったなあ。


「いいのいいの。おばさん、メイカに友達ができてうれしいから! それに――メイカから聞いたわ。街を救ってくれた英雄さんを祝えるのは、とっても名誉なこと!」


 メイカの母は『また料理、持ってくるね!』と言ってキッチンへ引っ込んでいった。


 街を救った英雄かあ……まだ実感ないけど、そういうことになるよね。なんか、ちょっと気恥ずかしいな……。


「隙ありッ! 奥義おうぎ、『ミリアつねり』ッ!」


「いたたたたたたたた!!」


 物思いにふけっていると、ミリアが頬をつねってきた。


「何するんだ! 痛いでしょ!」


「隙があったんでな。奥義を試させてもらったのじゃ。はー、まんぞくまんぞく」


 僕の怒りをよそに、ミリアは奥義が上手くいってほっこりとほほ笑む。


「そんなに怒ることないじゃろ。アホな顔をしていたルカが悪いのじゃ」


「いきなり頬をつねってくるやつがあるか!! 奥義禁止!!」


 ちぇっ、と言ってミリアは席に戻った。


「――で、じゃ。おぬしらに話しておきたいことがあるんじゃよ」


 席に座ったミリアは、真剣な表情で話し始めた。


「どうしたのさ突然? 何か大事なこと?」


「うむ。わらわの記憶に関することじゃ」


 そういえば、ミリアの記憶について聞くのをすっかり忘れていた。リーシャはこの世界のモンスターについて詳しくて、レティは自分を使っていた人物――おそらくは、勇者アレン――のことを覚えていた。


「ミリアは何を覚えてるの?」


「覚えている――というのは正しくないかもしれん。この街の外の『ある場所』のことがずっと気になっているのじゃ」


「ある場所?」


「そうじゃ。具体的に、そこに何があったのかはわからないが――何かがあったような気がするのじゃ」


 なんとも中途半端ちゅうとはんぱで要領を得ない発言だ。なんでもズバッと言いきるミリアらしくない。


「それがどこにあるかはわかるの?」


「わかるぞ。この街から西に20キロほど行った場所なのじゃ」


「ということは、隣の都市のミカインがある方か……」


ミリアがこんなに悩んでいるくらいだし、何があるのか気になるなあ。


「よし、じゃあ今日は遅いから、明日、みんなでそこに行ってみよう!」


「おおっ! 旅ですね!? ようやく私たちも世界最強を目指す旅に出るんですね!?」


 リーシャは目を輝かせて勝手に張り切っているけど、僕はそんなことは一言も言ってないから!


「ルカ。ミカインとはどんなところなの? 興味あるわ」


「この街より大きい、都市の名前だよ。商業で発展したところだから、美味しいものもたくさんあるんじゃないかなあ」


「「「「興味あるわ」」」」


 僕以外の全員の声がそろう。おっと、余計なことを言ってしまったかもしれないな。


「お待たせしましたー! 熱々のピザでーす!」


 その時、キッチンからメイカの母がやってくる。


「ママ! メイカは旅にでますにゃ! ルカさんと一緒に世界一の鍛冶師になりますにゃ!」


 開口一番、メイカは旅に出ることを宣言。母はキョトンとした表情をしている。


「おばさん! 私は美味しいものがたくさん食べたいので、旅に出ます!」


「私は、興味があることを知りたい。だから旅に出る」


「わらわはとりあえず目立ちたいのじゃ! だから旅に出るのじゃ!」


 なんで神器ーズもメイカの母親に旅の報告してるんだ……?


 四人の様子を見て、メイカの母は困ったように笑った。


「いいわよ。人生は一回きりなんだから、行きたいところに行きなさいな。それに……ルカさんと一緒なら、安心でしょう?」


 メイカの母は、メイカをぎゅっと抱きしめる。娘を旅に行かせるなんて心配だろうに……どうやら、だいぶ信頼されているみたいだ。


 こりゃなんとしてもメイカのことを守らないといけないな。もし怪我させるようなことがあったら合わせる顔がない。


「だから頑張ってね! 花嫁修業はなよめしゅぎょう!」


「うん! ありがとうママ!」


 なんでこの空間にいる連中は誰一人として旅の目的を把握はあくしてないんだ?


 やれやれ、先が思いやられるけど……目標は定まった。あとは進むだけだ。


 僕は、世界で一番の冒険者になる。

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