第31話 ギルド、震撼!

 ルカとエルドレインの戦いから一夜明け。冒険者ギルドに変化が起きていた。


 まずはルシウスとヴェルディがグール化・死亡したことで、S級冒険者パーティ『緋色の不死鳥スカーレット・フェニックス』と『灰色の熊グレイベアー』は事実上の解体。


 そして、謎の冒険者パーティ『漆黒の烏ブラック・レイヴン』の活躍がギルド中を駆け巡った。


 不思議な力で街の周りの地面を隆起りゅうきさせ、土の壁を作ったことで、アンデッドたちの街への侵入を防ぎ、リーダーのルークと名乗る男が単独で王墓おうぼに突撃。S級冒険者パーティたちが苦戦していたアンデッドたちを一人で倒し、最後にはアンデッドのボス『古代王エルドレイン』を撃破げきはするという活躍ぶりである。


 ルークによる素早い処置しょちによって、アンデッドの被害にあった人間は限りなく少なくなった。もはや人間業にんげんわざ超越ちょうえつし、伝説級としか言いようがない。


 冒険者ギルドは、ルークをS級冒険者として正式に認定し、彼が率いるパーティ、『漆黒の烏ブラック・レイヴン』をS級1位にすることを決定した。クリアしたクエスト数0でS級パーティとなり、最初のクエストで1位になるというのは前代未聞である。


 それほどまでに、冒険者ルークがした行為が伝説的だったということだ。


 しかし驚くことに、ルークという男はギルド職員に『王墓の調査 及びアンデッドの退治』のクエスト受注を宣言したのち、一切ギルドに現れることはなかった。まるで烏のようにのらりくらりと現れ、クエストを攻略、人々の生活を守り、報酬金も受け取ることなく飛び去ってしまったのだ。


 ルークが受け取るはずの報酬金は、ギルドが最初に用意していた5000万ギルに加え、感謝する市民たちの献金が合わさって、総額で1億ギルとなった。だが、ルークはそれを取りに現れない。まるで『そんなはした金には興味がない』とでも言うように。


 英雄えいゆうルークの話は、またしばらくギルド中で持ちきりになった。



「ん……ここは?」


 一方そのころセシルは、ルカがエルドレインを倒した次の日、冒険者ギルドの救護室きゅうごしつのベッドで目を覚ました。


 覚えているのは、ルシウスとヴェルディが不思議な魔法でグールになったこと。エルドレインの手で自分もグールにされそうになったこと。そして、それを黒鎧の騎士・ルークが助けてくれたということ。


「ヒッ……!」


 ベッドから体を起こして記憶を探ると、彼女の中で恐怖心がよみがえった。体はブルブルと震え、吐き気すらこみあげてくる。しかし、そんな中でも、彼女は心にある確信をいだく。


 黒鎧の騎士・ルークの正体は、自分の幼馴染、ルカ・ルミエールであると。


 声色を低くしてはいたが、あの喋り方は間違いなくルカだ。長年連れ添った幼馴染の声を聞き間違えるはずがない。そもそもルークとはルカという本名をもじっただけの仮の名前ではないか。


 一日かけて体調を戻し、ギルドで聞き込みを行うと、ルークという男は冒険者ギルドに一度も姿を見せていないという。ルカのことをいくら探しても、街の中では見つからない。


 きっと、ルカはどこか別の場所に行ってしまったんだ。セシルはさらにそう結論付けた。


 だったら話は早い。この街に残っていてもルカを見つけることはできない。ルカを探しに行く旅に出るのだ。ルシウスが死亡し、緋色の不死鳥スカーレット・フェニックスが解散した今、もはやセシルを縛り付けるものは何もない。そのまま隣の都市、ミカインへと馬車で向かった。


 馬車が進み、風がセシルの水色の髪を揺らす。彼女は流れる景色を見ながら、心の中でちかった。


 必ずルカを見つけだし、自分のこれまでのわがままを謝りたい。そして、自分を助けてくれた騎士の仲間になって、これからの人生も一緒にいたい。と。

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