第30話 ルカの本懐
「余の負けだ。ルークよ」
上半身だけになりながら、エルドレインは静かに呟いた。彼の表情からはもはや清々しさすら感じる。
彼の体の切断された部分はリーシャの浄化効果によって少しずつ灰へと変わっている。まるでじわじわと火に焼かれている紙のようだ。
「ルークよ。余が消える前に教えてくれぬか。お前はどうしてそこまで強い?」
最初はゲームでもする子供のように、人間を馬鹿にした表情だったエルドレインに、僕に対する敬意のようなものを感じた。
「俺――いや、僕が強いわけじゃないよ」
周りに誰もいないのを確認し、神器三人に人間の姿に戻ってもらう。それに伴い、僕は口調を戻した。
「僕は最初、ただの荷物持ちだった。でも、リーシャや、レティや、ミリアに出会って――それだけじゃない。メイカだってそうだ。神器や人に支えられて、僕は強くなったんだ。それが人の想いだよ」
僕が口調を変えたことで、エルドレインは少し驚いたようだった。だが、再び
「そうか、不思議なものだな……強者とは孤独なものだと思っていた。余は王として、
「本当に、そんなことはないよ」
僕は<サンシャイン>を発動する。
▼▼▼
エルドレイン・アインザックⅡ世 レベル98
▼▼▼
「やっぱり、レベルは僕よりお前の方が高い。リーシャたちがいなければ僕は勝てなかったよ」
僕がそう言うと、エルドレインはまた驚いたような顔をした後。
「フ、フフ。フハハハハハ! 違うな。貴様が余に勝ったのは武器の力なんかじゃない。神器たちと心を通わせ、その力を最大限引き出したからだ。それは貴様の才能以外の何物でもない」
エルドレインは僕のことを褒める。敵対していた時は
「貴様は強い。その力はいつか世界を変えてしまうだろう。――余ですら、そうだったからな。そして、強さは振りかざす人間によって、善にも、悪にもなる。貴様はその力をどう使う?」
彼の質問の答えは、この三日間、僕がずっと考えていたものだ。
ルシウスに殺されかけて、一瞬すごく腹が立った。でも、地下に落とされてしまってはその怒りをぶつけることができなかったから、ゴミ捨て場にいた時の僕の中には、諦めの感情が渦巻いていた。
リーシャと出会って、力を手に入れた日の夜。その力を、ルシウスへの復讐のために使ってしまおうと思った瞬間があった。ベッドの上で、そんな気持ちになったのを覚えている。
――でも、駄目だ。力はそんなことのために使うものじゃない。少なくとも僕は、この力は自分ではなく誰かのために使いたいと思った。
だから、僕はこの力を、理想を追うために使おうと思う。
「――どんな人でも助けられるような、世界一の冒険者になりたい。暗い世界にとらわれている人に、手を伸ばせる人間になる。そのために、この力を使うよ」
僕の答えを聞いて、エルドレインは満足そうに笑う。
「……面白い男だ。余は、貴様のような王になりたかったのかもしれぬな……」
そして、さらに続けた。
「一つ、余の話を聞いてくれるか?」
「……なに?」
「余はもともと、武具を
「それってどんな?」
「
恐ろしい杖だな。
「もし見つけたら、この王墓に戻してもらえないだろうか? さっきの戦いで他の宝物が全て焼失してしまったから、一本くらい手元に欲しいのだ」
エルドレインは既に消えかかっている。死の間際に言うくらいなんだから、これが彼の本望なのだろう。
「わかった。約束するよ。その代わり、見つけたらだけどね」
「それでいい。ありがとう、ルークよ」
「……ルカだ。ルカ・ルミエール」
僕は消えかけのエルドレインに手を差し伸べた。
「……ああ。最後にできたわが友人、ルカよ」
エルドレインと僕の手が重なる。途端、彼の体は完全に灰になった。
「……終わったね」
「ええ、ルカさん。こんな感じでよかったんですか?」
「うん。エルドレインがいなくなったから、アンデッドも消えたんじゃないかな?」
「確かに、あのアンデッドはエルドレインが持っていた杖で召喚されましたからね。じゃあ一件落着ですね!」
戦いは終わった。あとは街に帰って休むだけ。そういえばダンジョン攻略に続いてのエルドレイン戦はかなり疲れたな。
おっと――そうだ。
「リーシャ。レティ。ミリア。一緒に戦ってくれてありがとう。勝てたのは三人のおかげだよ」
「そ、そうですかぁ? いやー、やっぱそれほどのことはあると思うんですよね! やっぱり私、できる子なのかな?」
「当たり前よ。例えどんな攻撃が飛んできてもレティを破ることはできないとわかっていたもの」
「ま、わらわのおかげじゃろうな。一番
三人とも、
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