第28話 ルーク、無双!

 エルドレインに剣を向け、宣戦布告せんせんふこくの声を上げる。


「ほう、ルークよ。その者たちはお前と親しい人間だったのか?」


「……いいや。決して親しくなんかないさ。だが、お前は人間をグールにし、苦しめた。だから俺は絶対にお前を許さない!」


 僕の言葉に、エルドレインは満足そうに下卑げびた笑いを浮かべた。


「面白い、面白いぞルーク! だが、このアンデッドたちを前にしても同じことを言い続けられるか!?」


 エルドレインの背後に立っていたモンスターたちが、一斉に僕の方へ向かってくる。グール・ゾンビ・スケルトン・スケリトルドッグ……まさに魑魅魍魎ちみもうりょうだ。


 しかし、どれだけ束になろうと、僕の前では無意味だ!


「いくぞリーシャ!」


『はい! ミラクルな一撃をぶち込んじゃいますよ!』


 モンスターたちに向かって走り出し、剣をぎ払う。正面のゾンビを切り裂いた斬撃は、さらに後ろまで飛び、背後のモンスターの胴体を真っ二つにしていく。


「グオオオオオオオ……!!」


 アンデッドたちはまるで波のように、ぞろぞろと僕に向かってくる。数が数だけに、とんでもない圧迫感だ。しかし、一体一体は大して強くない。剣を一振りすると、平均して2、3体倒すことができた。


 次に体長3メートルはありそうなゾンビが襲って来た。何といっても体が大きいので、手を地面にたたきつけるだけでもかなりの衝撃になる。僕は地面を強く蹴り、攻撃を回避する。


 厄介やっかいなようだが、体が大きいということは逆に言えば的が大きいということだ。ここは広範囲に斬撃を飛ばす横一閃よこいっせんより、勢いで相手を吹っ飛ばす突きの攻撃をしよう。


「<スターダスト・スラスト>!!」


 僕は地面を強く蹴ってジャンプする。自分の何倍もあるモンスターに突進すると、白い光を放った切っ先が、心臓部しんぞうぶを貫く。リーシャの浄化作用で、ゾンビは白い光と共に灰になっていく。


 わらわらと湧いてくる雑魚に対しては斬撃を。巨大なゾンビに対しては突きを。ステップをするように足を忙しく動かして、どんどんアンデッドたちを倒していく。


 しかし、部屋の奥にある紫色の魔法陣からアンデッドモンスターが湧いてくる。次から次へとモンスターが現れるので、きりがない。


『ルカ。このままじゃ埒が明かないわよ』


 レティが忠告してくれる。でも、ここで引き下がるつもりはない!


「そっちがどんどんモンスターを出してくるなら、それよりも速く動けばいいだけの話だ!!」


『いいぞルカ! そのまま舞うのじゃ!!』


 リーシャを振り回し、モンスターたちをどんどん切り捨てていく。絶対に一度も攻撃を受けてたまるもんか!


 僕がモンスターを倒す速度は徐々じょじょに勢いを増していき、ついに魔法陣から現れる速さを上回った。


「……素晴らしい!」


 エルドレインは声を上げ、指揮者しきしゃが演奏の終わりを宣言するようにして杖を高く掲げた。すると、魔法陣はスッと消え、アンデッドたちも姿を消した。


「どうした? 俺はまだ戦えるぞ!?」


「いや、もはやこんな雑魚を相手させるのは無意味だ。ルークよ、貴様は余が思った以上に見込みがある男のようだな」


 大きな広間には、とうとう僕とエルドレインだけが残った。さっきまでよりも部屋が広く感じられる。


 ヘルムの内側からエルドレインを睨みつけると、彼は何故か不気味にほほ笑んで。


「いいぞ、期待以上だ。余は貴様ほど楽しめそうな人間を見るのは初めてだ。それとも、既に人間ではないのか?」


「あいにく人間だ。お前の減らず口も、すぐに叩けないようにしてやる」


「……末恐ろしい男だ。さっきから呪いをかけ続けているというのに、微動びどうだにしない」


 残念だが、僕には常時リーシャのスキル<ホワイトヒール>が発動している。状態異常系の攻撃は通用しない。


「呪いが駄目ならば、力づくでひれ伏させるだけだ!」


 エルドレインが手を天に向かって伸ばすと、彼の手には紺色こんいろの剣が現れる。禍々しいオーラを放つ片手剣だ。


「復讐の女神の加護を受けた熾天使級セラフィムの剣だ! この剣は、どんなものでも闇に染め上げることができる!」


 エルドレインが祭壇さいだんから降りて迫ってくる。


「食らえ!!」


振り下ろされた紺色の剣に対し、僕はリーシャを横にして攻撃を防ぐ。二本の剣が交わった時、激しい風が吹くとともに高い金属音が部屋の中でこだました。


「何っ……!? 熾天使級セラフィムの攻撃を受けただと!? あり得ない! まさかお前……!」


「ああ。こっちは神器級ゴッズの武器が味方だ!!」


 剣を下から押し上げて弾き、攻撃に転じる。剣を横一閃すると、エルドレインは後退して回避しようとするが、避けきることができず斬撃をわき腹に受けた。


「グハァッ!」


 わき腹を抑えながら、ようやくエルドレインが余裕の表情を崩した。


「馬鹿な……なぜ貴様が神器なんか持っている!? それに、これは調和の女神の加護か……!!」


たくされてしまったからな。こいつらのことを」


「何故だ!? かつて神器をあれほどまでに求めた余ではなく、貴様が神器に選ばれた!?」


「俺は決して神器を集めたかったわけじゃない。世界一の冒険者となるため――守りたいものを守るために、神器を掴んだんだ!!」


 エルドレインは膝をつき、苦しそうな顔をした。リーシャに斬られた場所が痛むのだろう。並大抵のアンデッドでは消えてしまうような一撃だ。無理はない。


「――面白い。まさか余が眠りから覚めた折から、こんなに心を高ぶらせてくれる男と出会うとは! これだからこそ、蘇ったかいがあるというものだ!!」


 エルドレインは愉快そうに笑うと、手のひらに短剣を出現させ、自分がダメージを受けたわき腹の部分をえぐった。


「お前……何をしてるんだ?」


「貴様のような強者と戦うんだ。それ相応そうおうの覚悟をしなければならないと思ってな」


 彼のわき腹から血は流れていないから、おそらくリーシャの浄化が全身に広がる前に根本こんぽん切除せつじょしたのだろう。毒が全身に回らないようにする人間と一緒だ。


「それに……こんなことで貴様との戦いを邪魔されるのはしゃくだ」


「まるで戦いを楽しんでいるような言い草だな」


「当たり前だろう、想像してみよ。かつて余は自らの強さのせいで、立ち向かってくるものがいなかったのだ。それが、蘇った矢先からこんな強者と戦えること、これを僥倖ぎょうこうと言わずして何と言おう?」


 感じる。エルドレインが、戦うことを望んでいるのが。


 きっと彼は本当に、今まで戦う敵が見つからないほど強かったのだろう。


 だが、相手にとって不足はない。ここでこの男を止めることができるのは僕だけだ。


「来い!! ルーク!! 貴様の全力を余にぶつけてこい!!」


「だったらお望み通り……地獄に送り返してやる!!」

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